ガララ


「こんにちわー安西先…セ…………なにしてんの?」
「こんにちは高屋敷君、荒縄をグルグル巻きにしたドライバーをそこら辺歩いていた生徒の眼窩に捩じ込んで出したり入れたり掻き混ぜたりしているところです」
「やめて」
「君があんまり遅いものですから…」
「僕にやるつもりだったの!?」
「でも気持ち良いみたいですよ?ほら、現に彼のズボン、全面がガビガビになってます」
「下品だよ」
「…高屋敷君、もしかして君は…不感症?」
セクハラー!!あっち行って変態ー!!
「……あれ?…死んじゃいましたねぇ………まあ良いです」
「窓から捨てるな!」
「そうですね、この時期は腐りもせずにいつまでも残るから学校の美観を損ねてしまいますものねえ」
「そんなことを言ってるんじゃないことくらい解かってるんでしょ?!もうちゃんと処理して!せめて火葬して!!」
「それは校舎裏の巨大焼却炉に放り込めと?」
「…そう、だけどさ……」
「んー…ですが、今外に出るのはちょっと危険ですし……それに、考えてみれば放って置いても片付くのでした」
「ふえ?どういう意味それ?」
「外を覗いて御覧なさい」
「………ひっ!?」
「あまり近付いてもいけませんよ、気付かれると面倒です」
「あ、あ、あ、……なに?あれ?食べてる…?」
「犬ですよ。ちょっと狂ってますけれど、君のお家で飼っているガラナちゃんと同じような、飼い犬でした。昔は…ね」
「どういう意味…?」
「ちょっと面白そうだったので、ある種の犬を集めて貰ったのです」
「…ある種…」
「そう、つまり、人を食った犬」
「!!」
「ある犬は老人に飼われていました。老人はぽっくり孤独に死にました。餌を貰えず飢えた犬は老人を食べました」
「…」
「こういった事例の犬は珍しいのですよ、猫なら結構あるんですけれどね…犬はやはり忠義が強くて。……あ、あの犬は公衆トイレで生み捨てられていた赤ん坊を食べた犬です。その隣で右手を齧っている犬も、ベビーベッドにいた赤ん坊を食べた犬。向こうで女性との足首に齧り付いているのは、ある性犯罪者が殺した女性の肉を与えていた犬です」
「やめて…もうやめて…」
「犬でも猫でも、一度人肉の味を覚えるともう駄目なんです。もうあとは人を獲物としか見ることが出来ない…現にあの犬達の中で他の引き取り手が見つかった犬もいました…馬鹿な動物愛護団体の家庭に引き取られて……しかしやはり………再犯、したそうですよ」
「もうやめてよ、もう許して、もう嫌だ…!」
「今日は大好物の餌を上げる日なんです。皆美味しそうに食べていますねぇ…お腹一杯になるまで食べて下さいね…ふふっ」
「いやいやいや!僕はいやだよ!!僕は犬になんか食べられたくない!!」
「おやおや、そんなつもりではなかったのですよ?大丈夫大丈夫…可愛い君を犬なんかに食べさせる訳無いじゃないですか……さ、窓の近くにいては危ないですから、こっちにいらっしゃいな」
「怖いの、安西先生、僕、怖いの…」
「大丈夫ですよ、私が抱いていてあげます…可愛い可愛い高屋敷君、君は何にも心配しなくて良いのですから……」
「怖いの…僕…ああ、怖いの…」
「大丈夫、大丈夫ですからね…もうおやすみなさい」
「でも…でも僕は……ねえ、怖いの、安西先生…」
「おやすみなさい、高屋敷君?」
「……うん」
「御唄を歌ってあげましょうね…ああ、君は本当に、良い子ですよ高屋敷君」
「………う…ん………でも…犬じゃ……」
「♪す 素敵な す スープ ゆ ゆうげの す スープ 素敵な素敵なスープだよー…」
「………………ねえ……安西先生…僕は……安西先生……………が………」
「高屋敷君?…高屋敷君?」
「……すぅ……すぅ…」
「…おやすみなさい、高屋敷君…君は何にも怖がる事はないのですよ…」
「……くぅ……くぅ…」







「兎は狼が食べるものですからね」

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