「ねえ安西先生…」
「ん…?」
「ビデオ終わった?」
「…もう少し…」
「もういい加減にしてよ、僕なんにも校則違反なんてしてないのになんで地下牢にいるのー?」
「……ん、終わりましたよ」
「なに見てたの?」
「NHKでやっていた蛸の特集です」
「タコ?」
「録画は途中からなんですけどね、CMでチャンネルを切り替えた時に偶然見たんです」
「なんでタコ?センセタコそんなに好きだっけ?」
「高屋敷君、蛸はとっても頭が良いのですよ。無脊椎動物の中では一番だと言われているんです」
「う、うん…」
「だから、愚かな君も蛸になってしまえば、きっと今より賢くなれます」
「…はあ?」
「電鋸の準備も大丈夫ですね、メスも…これだけあれば良いでしょう、後はまあ…何とかなりますね」
「なんのこと?ねえ、なにするの安西先生…?」
「君には手足が四本しかありませんし、ばっちり骨も入っていますからねえ…大丈夫ですよ、これから骨を摘出して四肢を全て幹竹割りに二本ずつにしてあげます」
「なに言ってるのさ!やめてよ…気持ち悪い、そんなバカなこと…」
「(キュィィィ………ィィイイイイ!!!)なるべく筋肉を傷付けないよう慎重に…」
「っ!?!いやだ、なにこれ!離して外していやだいやだいやだああああああ!!!


―――――――――――――――


「…どうですか、高屋敷君そろそろ縫合の傷も塞がりましたか?包帯を解いても暴れないというのなら、解いてあげますよ」
「気持ち悪い…見たくない」
「んー…でも、そろそろこの八本の腕達に吸盤を付けてあげなくてはねえ」
「…まだ…なにかするの?」
「だって、蛸になるのでしたら絶対に吸盤がいるでしょう?」
「…」
「解きますね」
「……痛ッ…」
「ああ、すみません…もう少し優しく剥がします」
「……」
「ん…少しリンパが滲んでいますが概ね良好な回復ですね、引っ掻いたりしなければ、開く事も無いでしょう」
「もう僕には引っ掻く爪なんてないじゃない」
「ふふっ、そうでしたねぇ…さあ、次はこっちです」
「気持ち悪い…」
「そうそう、それ、動かしてみてくれますか?たぶん神経も筋肉も傷付けなかったとは思いますが…」
「いや」
「高屋敷君?」
「気持ち悪いもの…動かしたら、きっと僕吐いちゃうよ」
「…では、私が目を塞いでいてあげます。だから動かして御覧なさい?」
「…ん…」
「………ああ動きますね…ふふふ……面白いですね、腕とは骨が無ければ、こんな動きをするんですねえ」
「タコに似てるの?」
「いいえ、全然似ていません」
「…もともと一本だから、二本にしてからも…動かそうとすると両方動いちゃうね…」
「もう動かさなくて良いですよ。さあ他の腕達も解いてあげましょうね」
「……楽しいの?」
「何がですか?」
「…」
「他の腕達は特に血もリンパも滲んでいませんか…良い状態です。さあ、吸盤を作りましょうか」
「どうやるの?」
「まずこの煙草を押し付けてか…若しくは硫酸を垂らして一センチ程度の円形ケロイドを全面に作ります。そうしたら、その次はこのアイスピックで中心に穴を開けます、勿論針はよく焼いてから…そのあとはどうしましょうかねえ……切手用のピンセットで穴の周囲を摘んで固定して、半年程度の時間を掛けてゆっくり円錐形に皮膚を伸ばすか…円錐の鋳型を作って焼きながら一気に形成するか……どちらが良いと思いますか?」
「どっちが痛い?」
「後者ですかねえ」
「じゃあ、そっち」
「了解しました」
「早くやってよ、そうじゃなきゃ僕眠っちゃうよ…」
「ちょっと待っていて下さいね、今準備していますから」
「………ねえ安西先生」
「はい?」
「楽しい?」
「…高屋敷君は?」
「…楽しいよ、すごく…」

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