手に手に料理道具を持った無数の安西先生

諦めて閉じた瞼の裏に

青み掛かった白い閃光

なにかと思った瞬間に

誰かが襟首引っつかんで

僕はどこかに連れて行かれた


「あたた……ううう、なに?なにがあったのー…?」
「大丈夫ですか、高屋敷君…怪我はしていませんか?」
ひぎゃあああ助けて助けて許しもぐぅ!?」
「しー…大きな声を出してはいけませんよ高屋敷君、見付かってしまいます…」
「むぐもご…?」
「大丈夫です、私は君を食べたりなんかしませんから。ね?」
「…ぷはっ。ほ、ホント?ウソじゃない?ホントに食べない?さっきの安西先生の群れじゃないの?」
「ええ、本当です。確かに群れの中には居ましたが、私は君に酷い事をしたくなどありませんよ」
「そうなの?」
「はい…私は唯一、サディストではない安西聡美ですから」
「ええー?!あり得なくない?サディストじゃなかったらそれ安西先生じゃなくない?アイデンティティが消滅してるよ」
「そ、そんな風に思われていたのですね…」
「んとー、じゃあさっき助けてくれたのは、今目の前にいる安西先生?」
「ええ、閃光弾を用意して置いて良かったです」
「ありがとー」
「いいえ、何でもありませんよ。それよりも、教えなくてはいけない事があります」
「うえ?」
「高屋敷君、君は本物の『安西聡美』を探しているのですよね?私の知っている事を話しましょう。見付かりそうなので手短に……良いですか、まずあの群れの中に本物は居ません。あの群れは全員粗雑な作り物で、捨て駒でしかない…本物は単独行動でどこかに居る…ですが、何処にいるかまでは残念ながら」
「え?えと、えと……もっかい言って」
「…本物は、校舎裏に居ません」
「そっかあー…」
「群れの目に付かない所まで送ります。行きましょう、急いだ方が良いですから」
「うん、ありがとー優しい安西センセ」
「…」
「? どうかした?」
「高屋敷君…今から言うことは、作り物の戯言だと思って聞いて下さい」
「なあに?」
「……私では駄目ですか、高屋敷君。君の言う『本物』なんかよりも、ずっと君に優しくしてあげます。痛い事も酷い事も、私は絶対にしませんよ」
「あ…」
「…」
「……ごめんなさい。僕は…僕は、安西先生を裏切りたくないの」
「…そうですか…」
「あの」
「良いんです!……そう、それで良いのです。きっと…………」
「…」
「もう行きましょう、足音が近付いてきた」
「…うん…」
「…気を付けて下さいね。本物を見付ける前に、君が殺されませんように…」



もうこの安西先生でいいんじゃないかな

とも思ったけど

そんなこと言ってたら本物にぶっ殺されるし

涙を呑んでその場を去りました

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