「やあ着きましたよ高屋敷君。良い感じに香ばしい死臭が漂ってきていますね」
「こ、ここが666教室…!禍々しいよ怖いようー!」
「大丈夫大丈夫、朝から157人は入っていますけれど、生還した人はいますよ」
「何人?」
「一人」
「157分の1!?」
「因みに会長君です」
「会長は別格だよ!!やっぱやめようよー!!」
「大丈夫ですったら…我侭を言ったら先生困りますよ」
「あのねー二年生のDクラスはフリマやってるんだって。僕そっちの方がいいなー…?」
「フリマと自分の命でしたらどちらが大事ですか高屋敷君?」
よーし入ろっか安西先生!僕お化け屋敷大好きー♪
「ええ、入りましょうね高屋敷君」



―――――――――――――――



って好きな訳あるかー!!大っ嫌いだよお化け屋敷なんて暗いよ寒いよ恐いよー!!」
「そんな近くで大声を出さないで下さいな高屋敷君…鼓膜がどうにかなりそうですよ」
「だってくっついてないと恐いんだもんー!」
「そんなに嫌いなら入らなければ良かったじゃありませんか」
「アンタが無理やり引っ張り込んだんだよ!?なにその責任転化…ああ手ー離さないでくださいぃー!!
「それにしても、随分広い教室ですねえ…人を食って成長しているのでしょうか」
「空間なんて概念に食べられるのいやあー!!」
「しかしお化けとか幽霊といったものが一つも出てきていないのにその恐がり様は何なのですか高屋敷君?暗いだけでそんなに恐いのですか?」
「なに今更言ってんのさ。僕が怖がりなのくらいずっと前から知ってるでしょー?」
「ええ、とてもウザい事は前から知っています」
ウザくないよ!キュートだよ!!
「ねえ高屋敷君?君はお化け屋敷が嫌いみたいですけれど…所詮は作り物でしかない恐怖が、そんなにも怖いのですか?」
「え?だって…」
「去年の学院祭で君に教えてあげた筈です。本当に怖いのは、生者の悪意だと」
「う…あ、アレは身に染みたけどさ……」
「そう、それに比べれば亡者の悪意など大河の一滴でしかないのです」
「んーまーねー…お化けも作り物だって判ってたらそんなに怖くないんだけどさあ。でもうちのガッコ本物出るしー」
「作り物には作り物の恐怖があります」
「ふえ?」
「特に、本物そっくりに作られたものは…ね」
「そりゃあ、リアルだったら怖いけど……どうしたの安西先生?ねえ…こっち向いてよ、ねえ」
「ここにいる私は、本当の『安西先生』でしょうか?もしかしたら、そっくりに作られた、作り物の『安西先生』な

のかも知れません。とてもとても本物に似せて作られているので、君は気付かないだけなのかも知れません」
「…なに言ってるの?」
「けれど、どんなにそっくりに作られていても、それはどこか違う所がある…そう、全てが同じに作られていては、

それは『本物』になってしまいますから」
「あは、あはは。やだなあ安西センセったら、安西先生は安西先生でしょ…」
「その違いは小さなものかも知れません、しかし決定的なものかもしれません。…ねえ、高屋敷君?」
「…」
「私が、本物ですか?」
「ほ…本物だよ!!本物の安西先生!そうだよ…だからもう、変な冗談やめて。僕やだよ…」
「…もう出ましょうか、高屋敷君…」
「うん…うん、もう出よう。もう………うあっ」
「どうかしましたか」
「ん…大丈夫。急に明るいとこ出たから、眩しくて……   あ   」
「…どうしました、高屋敷君?」
「違う…違う、違う、違う!安西先生じゃない!!お前は安西先生じゃない!!!」
「どうしてです?先刻、私を安西先生だと言ってくれたではありませんか」
「だってさっきは、暗くて…そんな、眼の色なんて…見えなかった」
「ふふっ、良いじゃありませんか眼の色くらい。大した違いとは思えないのですけれどねえ」
「返してよ!本物の安西先生はどこにいるの?!」
「ここに居ますよ?君が本物と認めた『安西聡美』がここに…」
「っ!?」
「どうしましょう高屋敷君。このままでは、『作り物の安西聡美』が『本物の安西聡美』に入れ替わってしまいますよ?君が、本物だと言ってしまったから」
「……どうすれば、いいの?どうすれば…僕の知ってる安西先生に会えるの…?」
「探しなさい」
「探す?」
「本物の安西聡美はどれなのか。如何にかして見つけなさい…学院祭が終わるまでにね」
「それだけでいいの」
「それだけ?…あっはは!それだけ。ねぇ…」
「な、なにがおかしいのさ!?」
「果たして君が、どこまで『本物』を知っているのでしょうねえ?」
「え?」
「外見が違うだけとは限らないのですよ?内面が違う作り物も居る…君は、その違いに気付ける程、『安西聡美』を知っているんですか?君は、探せるのですか?」
「…知ってるよ。だって、ずっと一緒にいたもん」
「ふうん…まあ良いでしょう、行ってらっしゃい。頑張って?」

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