「♪貴ー方はただ黙ーってーうーで差し出せば良いー…高屋敷君、ご飯の時間ですよ」
出せーこっから出せー!!
「どうしたのです高屋敷君?暴れてはいけませんよ、檻ごと倒れてしまいます」
「だから出せー!!朝起きたらなんだこれ?!なんなんだこれはー!?!」
「…昨日の夜、ニュースを見たのです」
「は?!」
「女子高校生が変質者に襲われ強姦された事件があったのです。私はとても恐ろしくなりました、高屋敷君、ああ君が襲われたらどうすれば良いのか…!」
「え…」
「ですがもう大丈夫ですよ。その金の檻に居る限り、君は誰にも触れられません…君の純潔はこの私が永遠守ってあげますから」
犯罪だよ!?!強姦も犯罪だけど監禁も犯罪だよ!!
「嗚呼…純金の格子に囲われた高屋敷君のなんて愛らしいことでしょう。まるで金の台座にはめられた小さな宝石…ああ、ああ、誰かに触れさせて堪るものですか。君は私の宝物です、しっかり鍵を掛けなくては…ね」
「目がイってるー!!安西センセ目がイっちゃってるよ恐い怖い出ーしーてー!!」
「…(ガシャァアアン!!)」
ひゃああ!?な、なんで蹴るの…!」
「ふふふ、檻を揺らして転がる音色も美しい…叩き割ったら、どんな音がするのでしょうねぇ…?」
「あ、ああ…!!」
「はは。嫌ですねえ、そんな可哀相な事しませんよ。君が良い子にしていればね」
「します!」
「おや、聞き分けの良い。そうでなくてはいけませんよ…高屋敷君の様な良い子は、お人形の様に大人しく、ね?」
「あ、あうぅ…」
「さぁさ、お腹が空いたでしょう?ご飯にしましょう、高屋敷君の好きな料理ばかりです、沢山食べて下さいな」
「うん…」
「味噌汁で檻を腐食させようとしても無駄ですよ。金はイオン反応が弱いですからね」
「考えもしなかったよ!!網走監獄!?」
「早く食べなさい、冷えますよ」
「ちくしょーなんで僕が臭い飯食わなきゃなんないのさ!」
「臭いですか」
「いや、そうじゃなくて…寧ろおいしいけど」
「ご飯を食べている高屋敷君も可愛いですね。まるで餓た豚の様。さあもっともっと貪りなさいこの豚」
「キライだろ、僕のこと」
「豚は嫌いじゃありませんよ?」
「もういい!!」
「ふふっ…高屋敷君は本当に可愛いですね、豚にも勝る」
「褒めてんだか褒めてないんだか判らないこと言わないでください。豚ってなにさ」
「生まれたての仔パンダにも勝りますね」
「まあそれは褒めてるね。でも僕可愛いって言われてもあんま嬉しくないよ…男の子だもん」
「可愛いのは、嫌いですか?」
「仔パンダは好きなんだけどー」
「私は高屋敷君が可愛いのはとても良い事だと思うのですが…しかし、ジャンルを変えるというのは面白そうですね。どうせ暇だからやってみましょう」
「え…いいよ、ロクなことになんないの知ってるし…」
「仔パンダの様に可愛い高屋敷君を…そう、宝石の様に美しくしましょう」
「いいってば!いいじゃんさっき自分で金の台座に嵌った宝石とか言ってたじゃんか!」
「嫌ですねえ、言いはしましたがあれは飽くまで小粒の宝石。高屋敷君はもっと絢爛豪華に美しくなれますよ」
「ふえ?」
「この日の為に良い物を作って置いたのです。確かここに仕舞っていた筈……っと、ああ在りました」
「…なに?それ」
「硝子の入れ目です。石英のみで一流の職人に作らせましたからほら、ぬめる様に光る白目の部分は走る毛細血管がまるで本当に内に血を流している様でしょう?瞳の部分にはとても貴重な透き通る翡翠を嵌め込ませました。何もかにもが特級品ですよ」
「………それを、ど…する…の?」
「君の新しい眼球にするのですよ。黄玉石色の髪によく合いますでしょうねえ」
「やめ…やめて…!!」
「大丈夫大丈夫…抜いた眼球は二つとも大切に保管してあげますから…」
「やだ!!来ないでいやだ来ないで来ないで来ないでえッ!!!
「あっはは!檻の中に居て逃げられる訳無いでしょう高屋敷君?可愛い子。でももう君は変わってしまうのです愛らしい声で鳴く事もないじきに涙も流さなくなる動かなくなるそう君は生き物ではなくなるんです美しいだけの飾り物になるのです安心なさいそれはとてもとても安楽な事ですし過ぎ去る可愛らしかった頃の自分を嘆く事もないその高屋敷君は私がきっと覚えていてあげますともそう君が忘れてしまって何もかも忘れてしまっても。さあ、もっと宝石に近付けなくてはいけませんねえ高屋敷君?」






偽物の目玉ではなにも見えなくて

時間の感覚もわからない

偽物は目玉だけじゃない

象牙の義手に螺鈿の義足

見えないけど聞かされるそれは

それはとても綺麗なんだろう

口に塗られるのは砕いた鶏血石の紅

飲まされるのは粉にされた紫水晶

内から外から鉱物に侵食されていく

僕は生き物なんだっけ?




「いいえ。君はもう生きていません、そして死んでもいません」




そうか

じゃあ

ぼくは

もう?




「はい。君は宝石になってしまいました」

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