こっそり逃げる道すがら

ものすげえ怖い声が聞こえたんですけど

聞かなかった事にして僕は校庭にいます

あれからどれくらい経ったのかわかんないけど

僕は何とか生き残ってます

何回か他の参加者に目を付けられたんだけど

僕はめちゃくちゃ弱いので見逃されてます

僕を殺してる間に背後からやられるのは嫌みたい

でも、最後に残ったら…




最後に、安西先生と僕が残ったら?




「…当然殺されるんだよね。どうしてこんな簡単なことに気付けなかったんだろ」
「何です高屋敷君、蹴り倒されて踏み付けられて頭に銃口を押し付けられているにしては随分余裕ですねえ」
「全然余裕じゃないですよ、諦めてるだけだよ。…あ」
「…」
「なに?先生のくれた銃がどうかした?」
「…やれやれ、思った通り一発も減っていませんねえ…引き金を引く度胸すらないのですか?」
「だって、使い方わかんなかったし」
「嘘を仰い、授業でやった筈ですよ」
「あう。…だって、人殺しなんて僕、出来ないですよぅ」
「恐ろしい子です、高屋敷君。殺しもせずに生き残るとは…心を惑わす術でも使いました?」
「そ、そんなの知らないよ?」
「まあそんなことどうだって良いのです。それよりも高屋敷君、これは何でしょう」
「?…あ!」
「君とそっくりの乳臭い匂い…いつも抱いて寝ているのですね?お気に入りなのですか」
「か、返してー」
「返す訳無いじゃないですか。大人しく殺されなきゃこのテディベア君がどうなるか…」
「やめてやめて!返してぇー!」
「あっはは!さっきはおとりに使ったくせに?」
「だって、そんな、やめてよいじめないでよ破れちゃうのー!!」
「良いじゃありませんかぬいぐるみくらい。後で縫えば」
「やめて、返して…!」
「ふん…君は本当に我侭な子ですね。ほら、こんな小汚いぬいぐるみなんてくれてやりますよ」
「あ!……ああ、可哀想…ひどい事されて……ごめんね」
「ごめんね?」
「…え?」
「ごめんね!?はっはぁ!面白い冗談ですねぇ高屋敷君?」
「あ…?」
「君は本当に我侭な可愛子ぶった悪い子…人を犠牲にして助かろうとしているくせに憐憫の姿で皮を被る、卑怯者」
「人って、だって、ぬいぐるみだもん…なおしてあげられるもん…」
「ああ、まだ気付かない振りをするのですか」
「…え…」
「どうして君が生き残っているのか考えなさい、卑怯者。どうして自分以外が皆死んでいるのか考えなさい、裏切り者」
「…どう、して?」
「君の身代わりに、死んだのです。君が死ななかったから、死んだのです。君が死ねば良かったのに、君が死ななかったか

ら、君の友達はみんな死んでしまいました。……それとも、友達だなんて思っていなかった?だから、見殺しにした?」
「違う…違う!僕はそんなこと!!」
「嘘吐き、嘘吐き。嘘吐きの卑怯者!」
「…」
「自覚なさい、君は酷く利己的です…そのぬいぐるみのように愛らしい顔で人を騙す悪魔です」
「違う…やめて、やめて…いじわる、しないで…」
「ああ、その涙ですね?その毒で人を狂わせたのですね?悪魔め、腹を割いてやりたい…でも、黒い綿が出てくるのは耐え

られそうに無い…」
「わからない、僕は、僕は……許して…助けて…違うの……ごめんなさい」
もう遅い!死んだ者は生き返らない!君が殺した人間は決して生き返らない!!
「あ、あ、あ、あああああぁあぁぁああぁああ!!?!いやあああぁぁぁーーーー!!!あーーーー!!?殺して!!殺して!!殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺してェえ!!!!
「殺しません…君は生きなくちゃいけないのですよ……殺した数だけ、背負って…ねえ」





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目が、覚めて

安西先生は、消えていて

みんな、死んでいて

学校から、出られなくなっていて

閉鎖された、この空間

無数に詰まれた、死体の中で

生きているのは、僕一人







僕はどうすれば、いいんだろう













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【…首尾はどうだった、安西教員】
「上々ですよ。成るべくトラウマを与えておいた方が後々使い易いですからねえ」
【高屋敷君には悪いが…どうしようもないな、彼以外には適当なのが見つからん】
「…」
【引き続き、計画の事は任せたぞ安西教員。体育祭も終わったのだ…そろそろ終盤に入る、抜からんようにな】
「ええ…任せて下さいな、学校長…」

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