「あううー…やっぱり安西センセとペアじゃないですか僕ー…」
「何か不満でも?」
「だって先生皆殺すしー!」
「仕方ないでしょう?君はテニスの経験が無いのですから。バランス的に上手い人と下手な人とを組ませる事になっているのですよ。下手同士でよくある相手の失点応酬鍔迫り合いは、見ている方も退屈ですからね」
「それは解ってるんだけど…」

『あのーすいません、もう試合始まってるんですけどー』

「ほら、君がぐずぐず言っているから審判さんに迷惑をかけましたよ」
「え?す、すいません………僕が悪いのかな…」
「ではこちらがサーバーで高屋敷君が前衛ですから、前に出ていて下さいな」
「へ?え?あう、あの僕テニス全然わかんないんだけど。前衛ってなに?前ってなにが?」
「面倒臭い子ですねぇ、取り敢えずネット付近に立っていて下さい。大丈夫大丈夫、君の出番はすぐに終わりますよ」
「まあそんだけ自信あるなら僕が役立たずでも…えーとこの辺かなあがああぁあっっ!?!


ああ、安西先生、本当にテニス上手いんですね

それはもう見事な腕前のサーブです

それはもう見事に。僕の、後頭部に

僕の意識は粉々になりました

終わるってこういうことかよ


―――――――――――――――



「う…うう………あ、生きてた…」
「全試合が終わってからのこのこ起きてくるとは、随分と良い度胸ではありませんか高屋敷君」
アンタが気絶させたんだろー!?何迷惑ぶってんだよ!!」
「テニスの試合を会話形式で描くのは不可能だと判断したもので…」
「じゃあ最初からやるなよ!」
「やらなければ君のスコート姿が描けないでしょう?」
「そんなもんいらん!!」
「煩い子ですね、良いから取れた左腕を繋げて下さいな」
「へ?ってわー!?!なにまた取れたの!?そんなに激戦だったの?!」
「いや、ちょっとくらいピンチになった方がウケるかな、と…」
「それだけの為に腕飛んだの?!もうちょっと自分を大事にしてよ!!」
「いやいや、激戦ではありましたよ。特にこの腕なんか決勝戦でもげたのですが…」
「あ…じゃ、じゃあやっぱホントにピンチで…」
「決勝試合中靴紐が解けてしまって、結び直そうとしたら腕に紐が絡まったので思い切り引っぱったらもげました」
どうして無意味なウソ吐くの!?ありえる訳ないだろ!アンタの靴紐ピアノ線か!!」
「いや〜コートに転がった高屋敷君を何度も踏んで転びかけたり片腕だったり、てこずってしまいましたよ。私としたことが不覚です」
「なんで何度も踏むのさ!?妙に全身痣だらけだと思ったら通りでだよ!?って言うかコートに入れないでよ救護室に運べよー!」
「痣ぐらい何ですか。向こうの準優勝ペアを見て御覧なさい」
「…あれ、サイコロステーキじゃないの」
「私達の最後の対戦者の成れの果てですよ」
「なんで立方体の小間切れになってんの」
「こう…脳天からラケットを叩きつけたらトコロテンの様になりましてね、それをこう
もう良い!グロ話はもうやめて!!
「では早くグロい事になっている私の腕を縫い合わせて下さい」
「うう…わかりましたよぅ……てかさあ、ホントに皆殺したの?総当たり戦だったし生き残ったのってセンセだけ?」
「必要なのは勝利者だけ、【私立挫賂眼学院高等学校】に負け犬は要らない」
「ケネディ家かよ!!…なんか先生、今年はずいぶん大暴れだなあ…」
「あ、なるべく細かく縫って下さいね?次は大事な大事な最後の競技ですから…」
「え?…最後…って、なんだっけ?」


『安西先生。テニスでの御活躍、拝見させて頂きました』


「わあ会長?!開会式以来だね」
「いやいや、油断は大敵と言いますが実にその通りです。手を抜きすぎてこのざまですよ」
「うん、文字通りだね先生」
『このざま。ですか…それはつまり、次の競技でのハンデと?』
「ねえ、次の競技ってなんだっけ」
「…ふふっ…いいえ?高屋敷君はお裁縫が上手ですから、これではハンデにもなりゃしませんねえ」
「ねえ、次って…」
『油断は無い…手加減も、して貰えそうに無いですね』
「そういう事です。情け容赦はしませんよ?…君が喜んでくれれば良いのですけれど」
『はい、安西先生。俺如きに全力を傾けて下さるとは光栄です』
「ふふふ…では、会場で会いましょうか、会長君?」
『はい。失礼致します、安西先生』

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