ああ僕はいつから

こんなことになったんでしょう

眼下に広がる血の池を見ても

僕の心は昔ほどに揺れないんです

鉄バットと釘バットの二刀流な安西先生を見ても

いつもの事としか思えないんです

グローブで殴り殺すとか意味の解らない安西先生を見ても

ちょっと面白いとか思っちゃうんです


僕は、この三年間で確実に変わってしまった






「いやー殺しました殺しました。もう野球のユニフォームもドロドロになってしまいましたよ高屋敷君」
「…一人勝ち、オメデトウゴザイマス安西先生…」
「ん?どうしましたそんなに虚無感溢れる瞳をして。何かショッキングな出来事でも?」
「己の中に…」
「そうですか。ところで高屋敷君、ちゃんと次の競技に出て下さいね?もしサボったら啜ります」
「流さないでよとツッコもうとしたけど啜りますってなに!?殺意よりも気持ち悪い!!」
「えー…っと…次は騎馬戦ですね」
「騎馬戦?去年やらなかった?」
「んー、正確に言うと騎象戦なんですがね」
「象?」
「ええ、沢山踏み殺した方の勝ち」
「もうワンパターンすぎてツッコむの辛くなってきた!!いい加減殺す以外のこと言ってよ!」
「打ち砕かれ、押し倒され、根絶されるべきものを、打ち砕き、押し倒し、根絶せよ」
「ローマ教皇の言葉を引用しないで…って誰が解るんだよ!?マニアックだよ!!」
「じゃあ何ですか高屋敷君、騎乗位の方が良いですか」
「思考回路が全然解らない!解りたくもない!!」
「高屋敷君の世迷言、私は嫌いじゃありませんよ」
すいませんでした!!謝るから銃口押し当てないでってどこから出したのあああゴリゴリしないでくださいぃー!!」
「さあ、お手並み拝見といきましょうか高屋敷君。神経の磨耗した君がどれ程残酷になったのか、見せて貰いますよ」
「いやだいやだいやだー!!僕は人の死に慣れてなんかいないです!僕はこの手を血になんか染めないですー!!
「へえ、じゃあ自らの血で染めて貰いましょうか」
「あああゴリゴリもイヤです銃口離してよー!!」
「高屋敷君たら、あれも嫌これも嫌では先生どうして良いのか解りません」
「ひっく、ひぐ…ぼ、僕だって僕だってどうすれば良いのかわかんないですー…死にたくないよ、殺したくないよー…」
「…高屋敷君、よく聞いて下さいね」
「…ふえ?」
「良いですか?君は象の上に乗っていれば良いのです、殺すのは全て象がやってくれる…君の手は一滴たりとも血で濡れません、ただ、象に乗っていさえすれば良い……君が乗っている象が偶々、人を踏み殺した。それだけですよ」
「………」
「ね?」
「そう…だね、そうだよね……僕悪く、ないよね?」
「ええ、ええ、もちろんですとも!だから、さあ行っておいでなさい?高屋敷君」
「うん。行ってきます、安西先生」









【随分と無茶を言ったものだな】
「…学校長。いつからそこに?」
【お前が高屋敷君を泣かせた辺りからだ】
「まああれは趣味ですけれど…仕方が無いじゃありませんか、欺瞞でも何でも、あの子の手を血で汚す訳にはいかないのだから」
【あの説得でか?高屋敷君でなかったら騙せもしないぞ】
「欺瞞なのは解っていますったら…意地悪ばかり仰いますね、氷室さんは」
【私の趣味だ】
「もう…」



〔第二競技、騎馬戦を始めます……生徒は位置について…〕



【始まるか】
「競技中に洗脳が解けないことを祈りますよ」
【大丈夫だろう、あの説得でかかる様な生徒ではな】
「それに…そんな高屋敷君だから、出来る計画でしょう?」
【…ああ…】

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