ガララ


「…センセこんにちわ」
「おやおや、高屋敷君。どうしたのですかそのテンションは」
「このプリント…」
「プリント?……ああ、体育祭の件ですか。…これがどうかしました?」
「どうしたもこうしたもないよ!また虐殺大イベントが近づいてるってこれがテンション低くならずにいられるか!!」
「私は楽しみですが」
「アンタはな!!」
「私に怒るのは筋違いでしょう、鬱陶しい子ですねぇ…あまり煩いと、脳味噌引き摺りだしてバターソテーにしますよこのクソガキ。人を模造したデク人形。免罪で死刑になれば良いですね」
「…機嫌、悪いね安西先生…どしたの?」
「思い出したのですよ。先日のことを」
「先日?…!?!ま、まさか僕が安西センセの首を…
「君を制汗剤で凍死させる計画の事ですよ!」
そっちかー!!いやまあそっちの方がマシだけども!」
「人が睡眠不足で錯乱しているのを良いことに、自分に都合の悪いことを隠して…悪い子ですね高屋敷君は」
「でも、誰だって生命の危機にはそうすると思うよ…」
「言い訳は聞きません。もう帰りなさいな」
「うあー怒んないでよう安西センセ…お詫びになんか言うこと聞くからさー」
「君が私の言うことを聞くのは当然です、詫びにもなりゃしませんよ」
「当然て、言い切ったよこの人…もー意地はんないでくださいったらぁ!」
「…では、進路指導室の掃除をしなさい。それで許してあげましょう」
「え?それだけでいいの?いつもやってることなのに?」
「良いのですよ。…さあ、早くなさいな」
「ん…はーい」


―――――――――――――――


「いつまでかかっているのですか高屋敷君。本当に愚図で鈍間で無知蒙昧な生ける土塊ですよ」
「ちょっと待ってくださいよーもう少しなんだからさ………はい、終わったですよセンセ」
「まだゴミが落ちていますよ。全く役に立たない子です、早く拾いなさいな」
「…どこ?」
「おや、見えませんか。では這い蹲って探しなさい、木の洞の様な役立たずの君の目でも判る位に床に顔を近付けて埃を探しなさい高屋敷君ほらこれ位近付ければ君の無駄な眼でも見えるでしょう?この私が恐れ多くも足を使って手助けをくれてやっているのです、君の汚らしい髪の毛のせいで靴が汚れましたのでゴミを拾ったら次は靴を舐め清めなさい」
ああああ嫁イビリと女王様が一度に僕を痛めつけるよー!!掃除はこの虐待の前フリだったんですね!?」
「何故拾わないのですか高屋敷君」
「無いよ!ゴミなんてどこにもないですよぉー!!」
「ははあ、本当に悪い眼ですねぇ。仕方の無い、拭き掃除をしましょう。さあ舌を出しなさい高屋敷君」
「無理!お願いもう許して掃除なら他の所もやるからトイレでも体育館でも人豚飼育小屋でもやりますからお願いだから!!」
「無理?舌が無いのですか?その割にはよく喋りますね高屋敷君。ちょっと見せて御覧なさい」
ぬおごッ!?ンごぎオごごごっッッ!!?
「嘘吐きですねえ高屋敷君は、ちゃんと在るではありませんか。……でも、まあ…拭き掃除に使えないのならば必要ありませんね」
「ひゃめ…らめてくらさアガアアアアアアア!!!
「ハイ取れましたよ、可愛い舌ですねえ。百舌鳥の舌でもこんなに良い形をしていません」
「アー…ア、ア、…アー……」
「こんなに可愛い舌があんなに酷い嘘をつくのですから世の中解らないものですねぇ?でももう大丈夫ですよ高屋敷君、君に嘘を吐かせる悪い舌は私が閻魔様の代わりに取ってあげましたからね。嘘は泥棒の始まりです。ストップ、ザ、犯罪です」
「アア!…ゴホッゴボ……オオオ゛……ア゛ー…!」
「?…すみません高屋敷君、そんなに涙ながら縋られてもどうしてあげれば良いのか分かりません。何を望んでいるのか言ってくれなければ…」
「………」
「ん?良いのですか?言ってくれさえすれば君の言うことなど幾らでも叶えてあげるのですが、言わなくても言いのですか?」
「…」
「ああ、いけませんよ高屋敷君。そんな所にへたり込んでしまっては…君の血で汚れているのですから。さあ立ちなさいな」
「…」
「高屋敷君。高屋敷くーん?…眠くなってしまいましたか?…眼が、座ってしまったようですけれど」
「…」
「やれやれ、手間の掛かる子ですねぇ。眠くて動けなくなってしまったのですね?」
「…」
「よいしょ…っと。……はは、本当に眠たいのですね、ぐったりとしてしまって」
「…」
「……ねえ、高屋敷君?体育祭の件ですが…」
「…」
「毎年体育祭のアナウンスには放送委員会が担当についていましたが、今年は放送委員が事故で減ってしまったのです」
「…」
「お陰で人が足りなくて…だから、一般生徒にお手伝いを頼もうと考えていたのです」
「…」
「で、そのお手伝いに君を推薦しようとしていたのですよ。君の声は可愛くてよく通りますからね」
「…」
「けれど…残念ながら、推薦は諦めなければならないようですねえ」
「…」





「鳴かないウグイス穣など、何の価値もありませんものね」

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