春です

北海道にもやっと春が来ました

春になってお花がいっぱい咲いたので

園芸部員の友達に頼んで

ちょっとだけ花壇のお花を分けてもらいました

進路指導室に飾るんです

あの部屋って殺伐としてて

潤い足りないんだもん




ガララ


「安西センセ春ですねー!ほら花壇もお花でいっぱいでしたよう、綺麗ですねー♪」
「ええ、園芸部員が丹精を込めただけありますね。死体を肥料に使って」
「………一気に禍々しくなった」
「事実を述べたまでです」
「ぐすん…せっかく貰ってきてあげたのに、先生嬉しくないんですかー…?」
「おや、泣かせるつもりではなかったのですよ。よしよし、良い子ですねえ高屋敷君…大丈夫ですからね?ヒヤシンスにシクラメン、シネラリア、スイートピーにアネモネ、ストック、フリージア、とっても嬉しいですよ?」
「うそくさいです」
「やれやれ、私も信用を無くしたものですねえ……今ちょっと花瓶が見当たらないのですけれど」
「バケツに入れときますか?」
「高屋敷君、ちょっと口開けてくれますか?」
「?あーん」
「よ…っと」
?!?んぐぐあがあがげぐ!!?
「ん、丁度良い大きさですね」
んぐんげ……ガッハアアァァァ!!!ななななにやってんですか安西センセ?!
「え?…ああ、水を入れるのを忘れていましたね」
「そんなこと言ってないー!!」
「…?……あ、下のお口にぶち込んで欲しかったのですか」
その辺にしとけド変態教師が!!通報されたいのか変質者!」
「ははは。殺されたいのですかこのオスガキが?犯されたいのですかニセメスガキが?手折ってあげましょうか高屋敷君?切り口から血が滴るほどに手荒く契ってあげましょうか高屋敷君?」
「…前から思ってたけど、よくもまあそんなポンポンポンポン罵り言葉が出てくるよね…」
「だって、君のことが嫌いですものねえ」
あーそーですか!!嫌いな人から貰った花なんていらないよねー?捨ててくりゃいいんでしょ!」
「なっ…そんな事は言っていないでしょう高屋敷君!先生は君が嫌いですけれども花は好きです、花の代わりに君がゴミ箱に入りなさい。捨てるだなんて花が可愛そうだとは思わないんですか?」
僕が可哀想だよ僕がー!!なんて言い草なのそれ泣くよいい加減にー!!」
「お好きにどうぞ?」
「うわあーん!!」
「ああ、ああ、煩い子ですねぇ…脳味噌に花植えますよ?」
「サイコはいい加減飽きました!悪かったねうるさくてー!!」
「可愛いことは可愛いのですけれどね、レモンの花の様で…ですが如何せん花と違って喧しくて…」
「じゃあ花と遊んでればいいじゃん、いい歳こきやがって今年で27の男の癖に!」
「高屋敷君は若くてピチピチですね」
「そーですよー僕はまだ十代の新鮮な若者ですよ!」
「生花だから、香りが強すぎるのかも知れませんねえ」
「はあ〜?人を花に喩えるとかキザったらしいこと止めてくんない?キモいんだけど」
「そうですねぇ、人は自然に老いれば水分も飛びますし人格も丸くなりますけれど、あまり美しくはありませんし」
「キモいっていってんじゃん。顔ではオッケーでも年齢的にはアウトだって解りなよナルキッソス。水に映った自分の姿に恋して水仙にでもなってれば?」
「私にも少しはドライフラワーの心得があるのです。…まるで生きているかのような少女のミイラ、聞いたことがありませんか?」
「………は?」
「美しく、眠っているように穏かな……少女で出来た上等なドライフラワー…」
「や、やめ…」
「それを超える自信がありますよ、高屋敷君。さあ、君の美しい盛りを後世に残してあげましょうねぇ…永久に
「!?」




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「良い子ですね、高屋敷君。可愛らしく、何も語らず、動かずに…。ああ、ああ、良い子ですね高屋敷君」


…褒められても、嬉しくない


「君という素材…そう、一級の花がなければ、永遠の美しさを作り出せなどしませんでしたよ?高屋敷君」


死んだのに、殺されたのに、どうして?永遠に?どうして?


「君が育った環境にも感謝しなければなりませんねえ」


感謝。まだ、してなかったよ


「どれ程の豊穣な肥料を受けたのでしょう?どれ程の清らかな水を受けたのでしょう?どれ程の賛美を受けたのでしょう?」


もう、どれも貰えない


「ああ、それらは全て君の悲鳴が語りましたよ、高屋敷君」


痛かったよ。怖かったよ。やめてって言ったよ?


「安心して下さい高屋敷君、君は決して枯れる事はありません」


嬉しくない。カラカラになってるのに、嘘っぱちの花


「水を吸う事は出来ませんが、代わりに私が愛を注いであげますよ」


いらない。いらない!戻してよ!!


「ずっとずっと愛でましょうとも。高屋敷君、君のことを」










僕は

僕は粉々に砕けて壊れた

僕を粉々に砕いて壊した

どうやったのかは、自分でも思い出せない

でも、ただこのままの僕が嫌いで

死んでるくせに、生きてるみたいな自分が嫌で

壊した

もうバラバラ、綺麗じゃない

飾られることはない


そう思って喜んでた

でも、安西先生は粉々になった僕を見て

声を出さずに笑った後

僕を欠片残さず拾って

ミキサーにかけて、肌理の細かい粉にした

先生はそれを毎日飲んでる




先生は僕を毎日飲んでる

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