「ねぇ安西先生…智美ちゃんになに吹き込んでんですか?昨日も『僕もお父様のお嫁さんになるのー!』とか言ってたんですけど」
「ははは、まあ良いではありませんか。子供は存外そんなものでしょう?」
「いやそこじゃないよ!僕が先生の妻に思われてる所を嫌がってるんだよ!!死ぬぞいい加減に!!」
「仕方が無いではありませんか。片親がいけないとは言いませんが、やはり両親が居た方が子供も何かと楽なのですよ」
「うー…それ言われると弱いんだけどさー…っていうか前回の女の人はどうなったの?」
「なんなら私が母親になりましょうか?女装をして」
「い、いや、いいです。すっごい教育に悪そうだし」
「そうですか?…残念ですねえ」
「…ところで、智美ちゃんどこ行ったの?」
「学校長の所まで、書類を持ってお使いに」
「ふーん」
「…そろそろ帰ってくると思いますけれどねえ」
『ただいまあー★書類ね、ちゃんと氷室さんに渡せたのお父様ぁー!!…あ、お母様だ!!』
「安西コノ野郎!!なに考えてんだド変態野郎が!!!」
「おやおや、いきなりどうしたと言うのですか高屋敷君?」
「解ってるくせにすっとぼけないでください!僕が言いたいのは智美ちゃんに女装させるなって事だよじょーそーうーをー!!」
「ははは、首を絞めたら苦しいですよ高屋敷君」
「じゃあちょっとは苦しそうな顔したらどうなんだよこの化け物ー!?」
「いやあ、智美君を生んでからというもの、なかなか言うようになりましたねぇ?母は強しってやつでしょうか」
『お母様ぁ、ボクこのカッコ似合わない?』
「え?…あ、いや…ええっと……似合ってるんだけどそれを認めると僕も似合ってることになっちゃうわけで…えーとまあ可愛いんだけど、男の子の服の方がいいんじゃないかなーなんて…」
『……ぐすっ…』
「あーごめん!あーごめん!!似合ってる超似合ってる!!可愛い可愛いおにんぎょさんみたい♪」
「………」
「なにニヤニヤしてんの安西先生!?」
「いいえ別に?ただまあ君は意志薄弱な人間だなあ。と…」
「うっさいなー!!僕はセンセと違って思いやりのある人間なの!人を泣かせて楽しむような嫌な人間じゃないの!!」
「あはは、なかなか言いますねえ高屋敷君?ちょっとムカつきましたし、君にも女装を強制しましょうか」
「え、や、ちょっとやめ…うわああああ引き千切らないでくださいいやだああああ!!!」
―――――――――――――――
「ああ、やっぱりよく似合います。素敵ですよ高屋敷君、智美君…こんなに可愛い人形が二体も並ぶなど、滅多にありはしませんものねえ」
『おそろいなの、お母様とボク色違いのかわいいお洋服なのー…★』
「うっわあ超嬉しそうだね智美ちゃん…僕は凄く死にたいのになあ…」
「智美君、お母様は君とおそろいの服を着るのが死にたいほど嫌だと…
「言わなくていいこと言うな!!しかもそのことについて嫌だと言ってる訳じゃないですー!!」
『お母様、凄く似合ってるよ?どうして嫌なの?』
「そりゃあ…僕が男だからで」
『ボクも男の子だけど嫌じゃないよー?』
「う………ううう…僕の顔でそんなこと言わないでよ智美ちゃん…」
『お父様!お父様ぁっ!ねえ、ボク可愛いよね?どう?ねえ似合ってるよね?』
「それはもちろん!ああ、ああ、何て可愛らしいのでしょうか智美君!まるでロココの姫君ですねぇ?さあこちらにいらっしゃい、高い高いをしてあげましょう」
「え?…待って、先生……なに、する気…?」
『うん!お父様だぁい好き!!』
「ふふっ…高い高ーい、ですよ…高い……高…ー……い………………」
…ああ
安西先生の目が爛々と光り輝いてる
僕はあの目をよく知ってる
あれは
殺したい時の輝き
でもその視線が向いてる先は僕じゃない
射竦めているのは
僕にそっくりの智美ちゃん
智美ちゃんは無邪気に笑ってる
なにも知らずに笑ってる
僕は知ってる
僕は知ってるけどなにもしない
なにも出来ない
なにもできずにただ見ている
ただ天井に叩きつけられている智美ちゃんを見ている
なにもできずにただ見ている
振り返った先生の
まだ輝いている瞳を
なにもできずにただ見ている