ガララ



「こんにちわ安西センセー!…あれ?お鍋やってるんですか?」
「はい、暖冬とはいえ寒いですし…高屋敷君もどうですか、兎鍋」
「うんいただきます♪」
「どうぞ」
「あー、おダシ効いてて美味しいですよぅセンセー!ところでこれ、なんて名前のウサギちゃんだったの?」
「いえいえ、これは元ペットではないんですよ」
「あれーそうなの?じゃあどうしたの?それ用に買ってきたんですか?」
「それがですねえ、そこら辺をウロウロしていたんです」
「へー野良ウサギかー」
「そうなんでしょうか…赤いチョッキを着て首に懐中時計をかけて『遅刻遅刻ー!!』って言ってたのですけれど」
「…ファンタジーの立ち入るスキも無いなあ」
「何処の実験施設から逃げ出した兎なのでしょうねえ?」
「はあ…」
「ところでついでにそこら辺に生えていたキノコも突っ込んでみたのですが、どうですか?」
どうしてそこら辺に生えていたキノコを鍋に入れるんですかー?!死ぬかもしれないじゃんなに考えてんですか!?」
「君を殺すことですけれど…?」
「不思議そうな顔をするんじゃねえよこの快楽殺人教師…あれ?」
「…おや」
「な…なななななんですかこれー!?!ち、縮んでる縮んでる!なんで小さくなってくの僕?!
「半端にファンタジーが持ち込まれてしまいましたねえ〜」
「そんな体長が変化するキノコなんてお話の中だけで十分でってうわあもうテーブルに手ー届かないですー!!
「どんどん縮みますねぇ」
「うわあああ僕このまま消えちゃわないよね?!無になって消滅なんていやああー!!」
「大丈夫ですよ高屋敷君、絶対零度の例に現されるように物質が消えてなくなるという事は無いのですよ」
今理科教師らしいことをされてもどうしようもないですー!!
「んー、ですが本当にその心配はなさそうですよ?」
「ふえ?…あ、止まっ…た?」
「十五センチ位ですかねえ」
「た、助かった…まだ油断は出来ないけど取り合えず消滅はしなくてよかったー……って、なに先生?なんでそんな瞳を輝かせて…はっ!?
「あああ可愛い可愛い小さくなった高屋敷君は十割増しに可愛いですねえさあこっちにいらっしゃいハムスター用ケージが空いていますからそこが君の新しい住居ですよ可愛い可愛い高屋敷君☆」
わああああー!!止めてください止めてくださいゆーるーしーてー!!
「どうしてですか高屋敷君?ちゃんと餌だって用意してあげますよ?」
「餌とか言わないでよ!明らかに人間扱いする気ないだろ小動物マニア!!」
「では、その格好でどうやって人間らしい生活を営む気ですか?」
「う…それは…」
「ほら、無理に決まってるではありませんか。だから高屋敷君、元の大きさに戻るまで私が面倒を見てあげますよ」
「イヤイヤイヤ!!騙されないですよー!どうせセロハンテープとかマチ針とかで虐待するんでしょ!?」
「…それ良いですねえ…」
ぎゃああしまったぁー!!
「あはは。逃げても無駄ですよ高屋敷君、その身体では歩幅が小さすぎてとても逃げ出すなんて」
「くっ…それはそうかもしれませんけど……でも、これならどうですか?!」
「ん?………な、まさか!?」
「…」
「ああ…やれやれ、参りましたねえ。あの大きさでは、隠れてしまえば探すのは一苦労です」
「…」
「高屋敷くーん?意地悪しませんから出ていらっしゃい?」
「…」


―――――一時間後―――――



「…いませんねえ…」
「…」
「まさかとは思いますが…部屋の外に出てしまったのでしょうか?」
「…」
「………ま、探してみますかね…(ガララ…ピシャン)」





ふふふ…

さすがの安西センセも、まさかごみ箱に隠れたとは思わなかったみたい

まあホントはうっかり落っこっちゃっただけなんだけどね


……よいしょ…んしょっ!!


…さてとー

これからどうするかなんだけど

困ったなあ、こんなカッコじゃ何にも出来ないし

元に戻る方法なんて全然わかんないし

お話ではこんな時どうしたんだっけ?

なんか食べるんだよね、確か

…さっきの食べかけウサギキノコ鍋でいいのかなあ?

また縮んだり、しないよね?





「うう…落ちる、鍋に落ちそうで怖いー…でかくてキノコ口に入んないしー…」
「おや、そんな所に居たのですか高屋敷君」
わああなんでいるんだアンター!?ドアが開く音してないよ?!」
「壁抜けは得意です」
「この化け物!寄るんじゃねえー!!」
「今の君に言われたくはありませんが…」
「よよよ寄らないでくださいってば!言っときますけどもう僕キノコ食べたから!お話的にはもう元のサイズに戻るから無駄ですよー!!」
「…ふうん」
「残念でしたねー安西センセ!!いっつも思い通りになると思ったら大間違いなんですから!」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ」
「…へ?」





刹那、安西先生の姿が視界から消えて

僕は天井に頭をぶつけた

状況を理解出来ない僕の耳に

けたたましく響く笑い声

僕は窓から逃げ出した

部屋一杯になる前に

一足毎に大きくなる身体

僕はバランスが保てない

電柱を超えて

鉄塔を超えて

ビルを超えた

ウルトラマンよりおっきくなった

一足毎に人を殺した

今まで8633人

今の一歩で245人

今の一歩で367人

次の一歩では何人死ぬの?






「随分大きくなりましたねぇー高屋敷くーん!!」
「あ、安西先生!!助けてくださいなんとかしてください!!」
「んー、嫌ですねー!!」
「なんでですか?!」
「だって大きくなった高屋敷君はあまり可愛くありませんし…それに、一足毎に三桁の人間を殺す高屋敷君は面白いですしねー!!」
「僕がその事にどれだけ自責の念を持ってるか解ってて言ってるんですねそれー!!うあーん!!」
「ふふふ、大丈夫ですよ高屋敷くーん!!その殺戮行為も、もうしないで済みそうですよー!!」
「?どういう意味ですかグボアハガアァッッ!?!!




後頭部に感じた衝撃は

仕事熱心な自衛隊の人達のミサイルでした

僕は頭部を破壊されて

地面に倒れこみましたが

その時に









何人の人が死んだんだろう

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