………カツー……ン……カツー…ン…カツー…ン………




                                             …カツン


             …カッ、カッ、カッ…








ギッ…ギギギギキキキキキイイィィ………ガシャン!!







「安西先生。…居ますよね?」
「…おやおや高屋敷君、こんな地下まで何の用です?」
「……噂を、確かめに来たんです」
「噂?」
「そうです…すごく怖い、噂なんです」
「へえ…一体どんな噂でしょう、教えてくれますか?」
「……その前に、僕は先生に聞かなくちゃいけないことがあるんです」
「なんです?」
「先生が…安西先生が………



世界を手に落とすって、本当ですか?」



「…」
「答えてください!!」
「…やれやれ、一体何処で聞いた噂なんです?」
「安西先生、答えて」
「まあ予想は付きますけれどねえ…さしずめ、会長君辺りでしょう?……今際の際の、ね」
「…っ!!……やっぱり、やっぱり安西先生が!!」
「ええ、私が殺しました。邪魔だったんですよ…計画を止めろだなんて言うものですから。…本当に、会長君には失望させられました。よく動く手だと思っていたのですが、とんだ買い被りだったようですねえ」
「生徒会長は!!…安西先生を、尊敬して…」
「ふん?会長君は私を尊敬していた。成る程認めましょう。…で、それが何なのです?」
「それを踏み躙って、恥ずかしくないんですか!?」
「知った事では…」
「……もういい。期待した僕がバカだった」
「はは」
「ねえ、答えて?」
「答えは言ったようなものでしょう?」
「はっきり、先生の口から、答えを言って欲しいんです」
「…ふふ…良いでしょう、教えてあげます。察しの通り、私はこの世を自らの手中に収めるつもりです」
「!?」
「もう、君一人弄ぶのは飽きてしまったのですよ…次の玩具は、この世界を丸ごと一つ」
「バカな事やめてください!!」
「退屈というのは恐ろしい…心を壊す、最強の心理魔術です。そんなものに飲まれる訳にはいかないのですよ」
「ふざけるなよ!あんたの都合一つで世界をぶち壊すつもりか?!」
「ええ…そうですとも。何か、悪いことでも?」
「…当たり前だよ……どうして?どうして解らないのさ?!」
「解りませんねえ…強者が頂点に立つ。私には至極当然な事に思えますが」
「………これ以上の話し合いは、無駄なんですね」
「そうですね。では、どうします?」
「僕があなたを倒します、安西先生…闇は闇に還れば良い」
「これはこれは!!正義の使者でも気取ったつもりですか?」
「そんなつもりないよ。ただ…この世界が好きなだけだよ」
「つまり、君の我侭ですね」
「…先生ほどじゃない」
「主観もまた、恐ろしいものですね?…さあ、無駄話は御仕舞いです。術式はもう完成した…あとは発動させるだけ。どうします?高屋敷君」
「決まってるでしょ?神の名の下に、阻止してみせる」
「ふふっ、やって御覧なさい。………昔今し、今今し、百億の悔恨と千億の憎悪で充ちし壺を今傾けんとす…」
安西聡美!!父と子と聖霊の御名において命ずる!やめろ!!」
「…へえ…この私を悪魔扱いですか…良い度胸をしていますねぇ、高屋敷君?」
「悪魔だよ、先生は。…主よ、私たちの祈りを聞き入れ給え!!聖なるかな、聖なるかな、万軍の神なる主、主の栄光は天地に満つ。総ての誉れと栄光は世々に至るまで…」
「一体何処で覚えてきたのやら…まあ、所詮は付け焼き刃。年季の入った私に勝てる訳もない…」
「誠に尊く総ての聖性の源である父よ、今聖霊によって僕に力をお与え下さい。父よ、貴方の国を汚し侵す者を打ち砕く力を小羊たる僕に!!
「それでなくとも、たかが大工の倅の新興宗教に負けやしませんが…ね」
「ほざいててください安西先生。…国と力と栄光は、限りなく貴方のもの…」
「そろそろ決めてしまいましょうか…さようなら、高屋敷君。消し飛びなさい!!





(ズガガァァォォォォオオオオン!!!)





「………これで、終わり?…安西先生…」
「なっ…!?馬鹿な、生きている筈は…!!」
「言ったでしょ、安西先生。僕は今神の化身だ…どれだけ強力な魔術だって、今の僕には効かないよ」
「君が?ふざけないで下さいな、高が昨日今日神に仕えたところで…」
「時間がそんなに大切?」
「…」
「僕は世界を救いたい…その想いが強いから、僕は強くなったんですよ」
「…ちっ…参りましたねえ?結局は精神論ですか。君が信じる神と言うのは、随分と少年漫画がお好きな様で」
「さよなら、安西先生……主の平和の内に、還ってください」






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「くっ……まさか、この私が、君にやられるとは、ねえ…」
「安西先生…僕だって、本当は…先生を殺したくなんてなかった。先生を、悪の道から救えなかった……僕の罪だ」
「ふふっ…優しい、のですね…高屋敷君…?……う…ぐっ!?」
「安西先生っ!!」
「っ…止しなさい高屋敷君…悪魔に魂を…売った私です。…う……君が、手を、触れて良い様な…綺麗な身体では、ありませんよ…」
「しっかりしてください!…お願いだから…死なないで」
「はは…愚かな事を……私を殺すと、神に誓っておきながら…私が生きるのを、望むのですか?」
「僕が倒したかったのは安西先生じゃない。平和を乱す、悪の心…。…先生が、悪魔と決別するのなら、僕は…」
「………今更、神の膝元に、戻れるでしょうか?…取り返しのつかない罪を犯した、この私が…」
「罪は償えます、安西先生。…だから…」
「…?……高屋敷…君?……これ、は?」
「神の力は、痛みを与える事じゃない。癒す事がその真の力です」
「……ああ…暖かくて、心地が良い…まるでマリアの腕の中に居るように……優しい子ですね、君は…」
「…安西、先生…僕は……」
「本当に優しい……その優しさが、隙になる事も知らずにねえ?
っ!!?
「あっはは!!高屋敷君、この私が本当に改心するとでも?」
「ぐっ…あ、がぁっ!!何、を…!?」
「何を?…ふふ、鈍い子ですねえ、君を殺すのですよ。ほら…もう眼球が裏返ってきましたよ?神の力とやらは魔術を防いでも、首を絞める手は緩める事が出来ないのですねえ?」
「ど…して……セン…セ………っ…?」
「邪魔なんですよ。………今度こそ、本当に…」
「………セ…ン……セ……………」






「さようなら、高屋敷君」










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【何しとるんだお前達】
「劇の練習ですよ」
「暇だから」
【止めろ】

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