「わー…センセ見て見てー。牡丹雪ですよ、きれーですようー」
「…ああ、本当ですねえ…黒い夜に白い雪はよく映えます」
「積もるかな?」
「そうですねぇ…積もると思いますよ。牡丹雪は根雪になりやすいですから」
「積もったら遊びましょうね!」
「ええ。…今年は暖冬ですね、雪が随分と遅かったですよ」
「雪ってーふかふかで暖ったかそうなのにー冷たいって変ですよねー」
「…本当に男子高校生なのですか」
「僕、変なこと言った?」
「今日日小学生でも言いそうにありませんよ。…そろそろ窓を閉めてこっちに座りなさい?風邪をひきますよ」
「やーですー」
「ココアをあげますから」
「うーん…」
「雪に埋めますよ」
わあココア超おいしー♪
「そうでしょうそうでしょう…何と言っても人の血が入っていますから」
あぶっはあ!?!ななななに入れてんですか飲んじゃったー!!」
「よく似ている味と思うのですが…血と、ココア」
似てないよ妄想だよそれ!しっかりしてよセンセー!!」
「コクが出て美味しいと思ったのですが、気に入って貰えませんでしたか?」
「生クリームでも入れりゃいいじゃん……うえっ…おえー」
「吐くほど嫌でしたか」
「当たり前ですよこの猟奇人間!マッドサイエンティスト!!」
「これでも大変だったのですよ?凝固しないように冷たい牛乳に混ぜてからゆっくり片手鍋で暖めてココアもちゃんと練ってから入れたのですからね」
「もういいから…そういうの、家で一人でやって…」
「実家では家族全員やってますよ?」
アダムス・ファミリーかアンタらは!!
「ああ…あの映画、ハンド君が可愛いですよねえ」
「…前から少し思ってたけど…先生の【可愛い】の定義って、大きさだけなの?」
「…いえ…健気さとか…可愛かったもので」
「そう…ん…いいんだけどね、センセが好きなら」
「…」
「…え?」
「…可愛い。ですか…」
「あ、あれ?どうかした先生?」
「………可愛いとは、一体、何なのでしょうね…」
わー!?わー!!うっかり人生を見失わせちゃった!!
「はは…大丈夫ですよ高屋敷君……」
「ごごごごめんなさい安西先生!そんなつもりじゃなかったんですようー!!元気出して?(ガララ…)ほら最近机の中にアンゴラウサギのヴェロニカちゃん飼い始めたんでしょ?」
「…」
「ね、ねえほら可愛いでしょ?センセも昨日可愛い可愛いって抱っこしてたじゃないですかー!」
「…(メキョグチャ!!)
わー!?!ぎゃー!!!首が!ヴェロニカちゃんの首が妙に伸びてブランブランしてる!!
「っ…可愛くなんか…可愛くなんかありません!!」
「センセ…っ!」
「ふふ…気付いてしまいましたよ高屋敷君。全てはまやかしでした…可愛いの観念など、所詮目と口を線で繋げて出来る三角形の面積が小さければ可愛いと判断させる本能にしか過ぎないんですよ!!」
「そんなこと!解ってて先生は可愛がってたんでしょ?!どうしてそんな…ヴェロニカちゃんはどうするんですか!?食べないんですか!?」
「ふん…食べるものですか」
「じゃあ、じゃあ…オオサンショウウオのメーガンちゃんは?ニッポニアニッポンのロベルタ君は?カタクチイワシの誠ノ介十郎君は?シャムキャットのエリザベートちゃんは?」
「そんなもの…保健所にでもくれてやりますよ…」
「あ…待って下さい安西先生!!」
「もう私の事は放って置いて下さいな!!」


(ガララピシャン!!)


「安西先生…どうしよ、僕のせいで…」

(ガララ…)

【安西教員、どうせ遊んどるのだったら遊びがてら死体処理の方法を考え…うん?何を泣いとるんだ高屋敷君。…聡美はどうした?】
「ふえ…校長センセー…安西センセが大変ですー…ひぐっ」
【何だ?何があった】
「あうう、〔斯く斯く然々〕でー……えううーごめんなさいー!」
【………。すまんが高屋敷君、私には全く持って如何でも良い事にしか思えんのだがな。二十六歳の男が可愛いを連発するよりは、しない方が良いと思うのだがな】
「自分だって四十後半らしいのに、安西先生に対して可愛い連発するじゃないですか!!」
【ぐっ…返す言葉が無いが…】
「どっちにしろ安西センセのキャラが立たなくなっちゃう!」
【他にも十分キャラ付けが出来ていると思うが】
バカっ!校長先生のおたんこなす!!
【そんな罵倒の言葉、人生で初めて言われたな】
「早くなんとかしなきゃ…校長センセ、安西先生どこに居るかわかりますか?」
【うん?…ああ、GPS端末があればな】
「ここのパソコン使える?」
【うむ、学校のパソコンは全て対応しとる。少し待っていると良い。………これか。この赤い点滅だ】
「…どこですかここ」
【校内だが?】
「僕こんな形の建物知らないんですけど」
【地下87階だ】
そんなにあんの!?僕22階で終わりだと思ってたのに!!」
【まだあるが】
地獄まで続いてんじゃねえだろうな!?
【迂闊に入るとロクな事にならんぞ。それでも行くのかね?】
「…僕は……行きます!!安西先生を助けなきゃ!」

(ガララ)

『そういう事なら高屋敷君、これを持って行った方がいいよ。地下の地図だ』
「せっ生徒会長?!なんでいきなり入ってきて状況掴んでるんですかー!?」
『生徒会室には、校内全ての音声が取れる設備がついてるんだ』
「プライバシーは?!」
【あると思うかね?】
「…思わないです」
『人間誰しもスランプはあるからね。差し出がましいかもしれないけれど、安西先生が調子を取り戻せるのならどんな手伝いでもするよ』
「…ホントにもう、なんて言うか、崇めてますよね」
【それでこそ我が学院の生徒会長だ。君には期待している】
『はい。ありがとう御座います、校長先生。期待に応えられるよう全力を尽くします。総ては我が【私立挫賂眼学院高等学校】の為に』
「はあ…なんて異常な学校なんだろ…再確認しちゃったなー。……じゃなくて!!会長、その地図貸してください!急がなゃ!!」
『うん。…でも、本当に悪いんだけど、この地図も四十八階までしかないんだよ』
「え…」
『少しずつ書き足してはいるんだけどね、地下は迷宮より複雑で…歴代の生徒会長全員分でもここまでしか調べはついてないんだ』
「そんな…じゃ、じゃあ安西センセとか校長センセはどうやって…」
【勘だ】
そんな不確かな!!
『俺達一般人と、安西先生や校長先生は次元が違うんだ。考えても仕方の無い事だよ、高屋敷君』
【勘だから地図も要らんからな…まあ作ろうと思えば作れるのだが、面倒でな…】
「………も、いいです。僕これでいいです。行ってきますよー…」
『高屋敷君、三十二階からは色々な化け物が徘徊してるから気を付けて』
【気を付けてな】
「ぐすっ…なんか行きたくなくなってきたけど、行ってきます……」


(ガララ…ピシャン)


『……少し思ったのですが』
【うん?】
『俺が行くか、校長先生に御労足願えばよかったのでは?』
【…】
『…』
【まあ、良いだろう】
『そうですね。申し訳ありません、下らない事を』
【いや、気にせんで良い】


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