「ねー安西センセー…」
「はい?」
「なんで僕んちにいるんですか?もう十時なんですけど…」
「…」
「センセ、聞いてる?」
「知っていますか高屋敷君、かの有名な夏目漱石は『I love you』を『月が綺麗ですね』と訳したそうですよ」
「…へー…」
「とてもロマンチックですよね。そして余りに美しい…愛の台詞とは、本来かくあるべきですよ」
「んー、そうですけど…今時はやんないですよー」
「ふ…まだ君には早すぎましたか。幼いというのは退屈そうですねぇ?」
「ば!バカにして〜!!僕だって好きな人の一人や二人…」
「いるのですか?」
「……いない」
「ははは」
「僕は安西先生とは違うの!愛ばらまいたりなんてしないですもん!!」
「別に愛などばらまいたりしていませんよ。撒いてるのは媚びですからねえ」
「なにそれ、タチ悪すぎですよ。高級ジゴロはこれだから!!いや教師だけれども」
「良いではありませんか、人の趣味にケチをつけないで下さいな」
「だから趣味でやるなよ!やむにやまれぬ事情とかでやれよ!!」
「楽しいですよ、自分の価値がお金で表われて」
「これだから日本って嫌い…南米のストリートチルドレンに謝ってください」
「…まあ、さっきはつい君をからかってしまいましたけれど……」
「え?」
「幼いのは、私の方かもしれませんね」
「……安西先生?」
「私はもう、一生恋など出来ないのかもしれません
でも高屋敷君。君は……いつか、心から愛する人が隣にいる時に言う事が出来ればそれでいいでしょう。…美しくなくても構わない、君なりの愛の言葉を…ね」
「……安西先生…」



「ところで高屋敷君。今夜は…」
「え?」
「『月が綺麗ですね』☆」
嫌がらせの前フリが長いよ!!

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