「…安西先生、いい年こいてなにやってんですか?」
「見て解りませんか?雪達磨とかまくらを作っているのです」
「どうして僕のうちのまん前で?」
「もちろん、嫌がらせです」
「…」
「折角ですから雪かきでもしましょうか、冬期休暇だからといってダラダラしていてはいけませんよ高屋敷君」
「…自分ちの雪かきすればいいのに」
「それなら恋人がやってますよ。まあ、恋人と言うより便利君ですけれどねえ」
「何でこの人教師やってんだろ…」



「ねー先生止めましょうよー。どうせ除雪車来るんですし、大雪なんですからやるだけ無駄ですってば」
「ははは、頑張って下さいな高屋敷君」
「だから頑張ったって無駄ですってばあ!」
「ファイトですよ」
「だから!!」
「あーかまくらは壊さない様注意して下さいね」
「聞いてないだろアンタ!!」
「え、何か言いました?生き埋めになりたい?」
言ってません!言ってませんからスコップ振りかぶらないで!!」


わー!?なに雪かけてんですかセンセー!!」
「おや、そこにいたんですか。すみません小さすぎて見えなくて」
「この野郎人が気にしてる事を!」
「高屋敷君は背が高いですねえ〜、百八十以上あるんじゃないですか?」
「余計ムカつく!!」


「う〜…寒いですセンセー!もうやだ、もう十分じゃないですかー!!」
「寒いですか?なら私の体で」
いらないよ!


「寒い、安西先生寒い。寒くて死んじゃう」
「ほほう…それで?」
「いや、それでもなにもなんとかしてください。何か暖かいものをください」
「暖かいもの…愛ですか?」
「愛かあ…」
「愛してますよ、高屋敷君(演技)」
「僕もです安西先生(演技)」
「…余計寒くなりましたねえ」
「偽りの愛なんて信じた僕が馬鹿でした。っていうか偽りでも先生の愛ならいらないや」
「失敬な、中身入り雪達磨にされたいですか?」
「されたいなんて答えるわけ無いでしょう!?」
「高屋敷君そっちは危ないですよ。屋根から雪が落ちそうです」
「あホントだ。毎年コレで何人も死ぬんですもんねー」
「北海道は冬の死亡事故が多いですから、車もスリップしやすいですし」
「冬に暖房壊れたら死にますしね」
「除雪車に巻き込まれて赤煙を噴き上げる…白に映える赤、幻想的ですね」
「…グロい」
「雪の中で凍死した者は非常に美しいものです。肌は白く透き通るかの様に潤い、髪や睫に付いた霜はさながら雪の乙女から送られた祝福の装具」
「ちょっと文学的になったけど死体だろ!?詰まる所死体なんだろ!!アンタちょっとは明るい話できないのかよ寒いんだよ馬鹿!」
「おやおや、本当に寒いんですねえ〜。そんなに怒った高屋敷君久しぶりに見ましたよ」
「アンタが怒らせてんだよ話聞けよこのやろう!」
「あっはは、怒っても可愛い顔ですねえ」
「聞けつってんだろセクハラ体罰教師!訴えるぞ教育委員会に!!
「でも先生言葉遣いの悪い子は可愛くありません。…可愛くないなら」
「え」
「高屋敷君、さようなら。君との事は良い思い出のままにしたいんです」
「ひあ…あああ!!?やめてください安西先生もういいませ


(ドグチャ!!)





倒れこむと、ゆっくりと赤に染まる雪が目に入りました
奇麗な血が頭から流れ出していきます
単に寒いのか、それとも血が流れて寒いのか
今の僕にはわかりません
安西先生が僕の身体を持ち上げます
許しを乞おうとしましたが、力が入りません
「一つ良い事を教えてあげましょう」
先生がなにか言っています
「失血で死んだ人間は、凍死した人間よりも美しいものですよ」
よく聞こえません
でも、優しい声で微笑んで話しているから
きっと優しい言葉なのでしょう
先生は頭を撫でてくれて
僕をかまくらの中に運び入れました
雪のベットに一人寝かされて
先生は外に出て行ってしまいました
血はまだ流れていきます
少し目の前が暗いです
サクリ、サクリと音がします
入り口が埋められていきます
どんどん暗くなっていくのですが
それが血のせいなのか、僕にはわかりません

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