鉱石に成ると確約された青年は、その特異性から身分違いの夜会に今夜も招かれた。とはいえスピーチを求められるでもなく、顔を売る必要もなく、ただ歩き回り上流階級の顔触れに微笑みかけるだけで高価で希少な鉱茶を幾らでも飲ませて貰えるのだから、感情のパルスに幅が少ない彼でも楽しみな遊びではある。

お土産も持たせて貰えるしねとは弟の言い分で、青年の弟煩悩ぶりを知る人は揃って鉱茶と菓子を山程くれるのだ。夜会が多い時期には、弟が菓子ばかり食べてご飯が入らないと言うので母に叱られるのを除けば、ありがたい気遣いだったから、青年が招待を断ることは殆どなかった。

何より悩みの多い上流階級方々の安らぎになれるのですから、とても良い事をしているのですよねと考えて、窮屈な程首元上まである翡翠の飾り釦を閉めた。

上流階級はその下で身を委ねる階級を庇護するのに必死なものだから、いつでも頭痛を持っている。だから彼等はどれだけ耳が良くともあまり石の音が聞こえず、いつまで経っても人間のまま、心を持ったまま、愛おしい鉱石階級をどう抱きしめてやれば良いのかにその心を打ち砕き、身を細らせて奔走する。そして殆どの鉱石階級はそのことを知らず、というよりそもそも上流階級が何をしているかを知る機会も意思も無く、ただただ変わらぬ平穏な美しい生活を続けている。

その美しさを愛でて守る上流階級を知る青年は、鉱石と人の関係を希釈したような図だと曖昧に笑う。そして自分は鉱石階級の凝縮としてその美しさを間近に見せる存在なのだからとまで思ったところで迎えの車が来た。急いで玄関を開けると、誰かの従者が恭しく礼をして御手をどうぞと掌を差し出す。暖かい手に大理石の冷たさを重ねて、青年は車へ導かれる。閉まったドアの窓から自宅を見ると、二階の窓から弟が手を振っていた。
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