「…飴ばかりでなく他の菓子も随分買わされてしまいましたが、まあ高い買い物という訳でもないですから許します。しかしねえ高屋敷君薬の対価としては少々分が余分ですよ?」 「…飴ばかりでなく他の菓子も随分買わされてしまいましたが、まあ高い買い物という訳でもないですから許します。しかしねえ高屋敷君薬の対価としては少々分が余分ですよ?」 「いいじゃない、細かいこと言うなっ」 「君は鱈腹お菓子を食べて、私は空腹を抱えて指を咥えていなければならないと。さても世の中不公平です」 「お腹空いてるなら食べたらいいじゃない。買って貰ったんだからもう僕の物だけろ、分けてあげるよ?」 「それはどうも。しかし、鯛焼きもお菓子も、味は美味しいですが養分にはならないのです。この身体を動かすには清らな血のみ。その為に花嫁を迎えたのにそれすら君が殺しましたからねえ」 「ああ、一応吸血鬼設定は残ってたんだ?」 「何だと思っていたんですか」 「言っとくけど僕は吸わせないよ。断じてー」 「代金を払うつもりはないというのですね。全く誰がこんな子になる教育をしたのやら。教育者の顔が見て見たいです」 「この喫茶店メニューに水銀紅茶ってのがあるよ、そのカップの中覗いたら見えるんじゃない?」 「小憎たらしいったらない…まあ良いですよ、君が駄目なら他を当たるまでです。ここの払いはこれで足りるでしょう、君はゆっくりしていきなさい」 「えー置いてくの?いやだよう、おばけいっぱいいるのに一人ぼっちなんて!」 「私の捕食シーンが見たいなら、付いて来ても良いですよ」 「やっぱいい…じゃあ僕ここで待ってるから。帰ってきてね?忘れないでね?」 「はいはい…ではもう私は行きますよ。眩暈がしてきました…ああ倒れる前にこんな化け物だらけの街で、清らな乙女など捕まえられるでしょうか…」 「ばいばーい」 「…行ってきます …あれ程言っても吸わせないとは、あの子の血は冷製スープなんですかねえ…」 『よう、何フラフラしてんだ?』 「?…あ、相模先生じゃないですか。貴方こそこんな所で何を?」 『どっかのアホがお遊びで大規模なイタズラやりやがったもんだから、仕事が無くなって暇でよぉ』 「小言は聞きたくありません。ただでさえ具合が悪いのですから…この際貴方の血でも構わないです、吸血させて下さいよ」 『やめとけよ。吸血鬼が狼男の血なんざ飲んだらどうなるか』 「ああ…狼男になっていたのですか?そうですか…いやあ、もう目が霞んで殆ど見えませんで…」 『難儀な奴だな…化け物になってもひ弱なボンボン根性が抜けねえのかよ』 「うるさいですね、貴方こそ普段から泥臭くて下賤な犬畜生の癖に」 『今改めて納得したけどよ、吸血鬼と狼男ってなあマジで馬が合わねえんだなあ。オレはもう行くつもりだが、お前はどうする?』 「駄目です、行ってはいけません。何故ならもう立てもしない私の手を引かねばならないからです」 『解ってんなら喧嘩売るんじゃねえ。おらしっかりしやがれ…いや、やっぱりそこに居ろ。見繕ってくればいいんだろ?』 「見付かりますか、この世界で清らな乙女が」 『贅沢言うな…大人しくしてろ、いいな?動くな。解ったな?』 「…ん…」 『…お前なあ、肉まで食ったら食人鬼じゃねえか』 「お腹が空いているんです。(ぐちゃぐちゃ)たったこ(びちゃびちゃ)れっ(くちゅくちゅ)ぱかししか捕(にちゃにちゃ)ってこれない(ぬちゃぬちゃ)貴方の甲斐性に文句を言いたいくらいです」 『人の苦労も知らねえでよく言うぜ。うまいか?』 「うまいですね。(みちゅみちゅ)どこで見付けたんですか?(ぐちょぐちょ)ちゃんと処女じゃ(ぶちゅぶちゅ)ないですか」 『さあ、忘れたな』 「(ごくん)有能ですね、相も変わらず。使える人間…じゃなかったですね、使える犬は好きですよ」 『これっぱかしも嬉しくねえ。…どこ行くんだ?』 「いえねえ、何だか羨ましくなったので、私も狩りに行こうかと…」 『そうかい、止めやしねえがやり過ぎるなよ。お前は何かにつけてやり過ぎるからなあ』 「解ってますとも。それじゃあさようなら」 何杯目かの紅茶を飲み干した頃 安西先生がやって来た 帰って来た訳ではないようで その目は僕など見ておらず 赤い燐光を発して いつの間にか暮れた闇に光る 蘇った死体そのものの足取りで すれ違う相手を皆引き裂いて 偶に思い出したように 頬に飛んだ返り血を嘗める 僕は浮かぶ青白い月を振り仰いで まだかなあと思った |