安西先生に捕まって

なんか中世っぽい衣装を着せられて

森の奥に連れられてきました

なに!?


「この辺で良いでしょうかね。それじゃあ高屋敷君、そこに据わっていて下さい」
「なんで?なんのために?僕一人だけ?センセはどこいくの?」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと視認できる場所にはいてあげますから」
「なにするの?なんで置いてかれるの?僕なにしてればいいの?」
「座っているだけで良いのです。ユニコーンがやってきて君の膝に顎を乗せるまでねえ」
「なにそれ」
「知りませんか?ユニコーンの捕まえ方の一番一般的な方法ですよ。乙女を森に一人置いて、その聖性に惹かれたユニコーンを捕らえるのです」
「わあ、人間は醜いね」
「特に日本人は食のためなら何でもしますよ」
「え、食べるの!?」
「それ以外にどうするって言うんです?」
「いや、それは色々あるけど…食べることは無いじゃない…」
「馬刺しが今から楽しみですねぇ」
「ああ、涎が出てる…止めても無駄だ」
「解っているじゃありませんか。では、君の頑張りに期待します。お歌でも歌っていらっしゃい?アマリリスなんかが似合いそうです」




「♪ラ リ ラ リ ラ リ ラー しーらーべーはーアマリリスーよー…

ってやっても、僕一応は男なんだけど…その辺安西先生は覚えてるのかな。怪しいなぁ…」
「その辺は抜かりありませんよ、所詮は獣ですから。その服には女性フェロモンが染み込ませてありますからばっちりです」
「うわあ、ポケットになんか入ってると思ったら無線じゃん。本当にもう、人間は文明の発展と共に色々こう、失くしてるんだね」
「良いから歌を続けなさい。ポケットには櫛も入っていますから、それで髪も梳いていなさい。ここからはもう君に近付く馬刺しが見えてるんです」
「馬刺しが、ね…

♪つーきーのー ひーかーりー はーなーぞーのをあーおくてーらしてー…

…あ」
「しっ!…そのまま続けて」
「♪…ああゆーめーをー みーてーるー はーなーばーなのねーむりよー…

えっと…な、撫でてもいいのかなあ」
「良いですよ、眠ってしまうまで続けなさい」)





寝入ってしまったユニコーンを

どうやって捕らえたかは

ちょっと醜い人間の一人として言いたくないです


「いやあ良くやってくれましたねえ高屋敷君、君の力無しには出来なかったですよ」
「その褒めると見せかけて当事者に巻き込んで心理的重圧与えようとするの止めて」
「ばれましたか。まあ取り合えず食肉加工をしたいのですが、吊るし切りでしょうか?乗り方は知っていますが、捌き方は知りませんし…」
「あの、僕はもうお役御免で…」
「逃がす訳が無いでしょう?さあその眼に焼き付けるが良いです、聖獣が人間風情に切り刻まれる姿をねぇ!!」
「え、人間風情には出せそうに無い黒いオーラが出てるけど!あと赤い血もいっぱい出てるけどー!!いやあああああぁぁぁーーーーー!!!」





「うわー、どうしよう、すごくおいしい馬刺しだね、安西先生」
「そうですねえ高屋敷君、やはり自分で苦労して収穫したものは味が違うと言いますか」
「うわー、ユニコーンである必要性を全く感じさせないコメントだね」
「そりゃあそうですとも。ユニコーンの特性、つまり効能はその角にあるんですからねえ」
「効能?」
「ユニコーンは一角獣の同義だとは知っているでしょう?」
「うん、あの角刺さるんじゃないかとはらはらだったよ」
「その角を粉末にして飲むと、万病に効くと言われているのですよ。特に解毒効果と、毒に対しての免疫能力を強める特性もあるので、毒殺が大流行だった頃の中世貴族は、躍起に捕まえようとしたものです」
「へえ…じゃあこの馬刺しと、手羽先には特に効果とかは無いんだね」
「やはり馬サイズの羽は羽毛を毟るのが大変でしたよ」
「でも、先生は特に解毒とか要らないんでしょ?」
「そうですねえ、その点では必要性はありませんが…でも、実験したいとは思っています」
「?」
「一角獣は、つまるところ想像上の産物なんです」
「じゃあ今食べてるのはなに」
「良いから。…で、そのユニコーンの捕らえ方を覚えていますか?」
「うん、えっと、乙女を森に一人で置いておくと惹かれてくるんでしょ」
「そこまで解っているなら、解るでしょう。この立派な角を見ればね。螺旋に捻じくれ長くて太くて、一本だけ」
「うー?」
「ですから、男性のシンボルだって話ですよ。処女に弱い馬ってだけで十分な気もするくらいあからさまな。それでも、一番象徴的なのはこの角になるでしょうけれど」
「……夢が、壊れたよ」
「伝説とか神話なんて性欲で出来てるんですから、壊す夢もありやしません」
「はあ…あ、それでその、それでなんの実験するの?よく解んなかったんだけど」
「ええ、そういう象徴性から、この角を粉末にした薬に解毒作用以外にも、回春剤の効能が期待出来るんじゃないかと推論を立ててみたんですよ。無垢で無学な君にも解るよう俗に言うとしたら、バイアグラと同等の効能があるんじゃないかと」
「さ、最低だな!!」
「褒め言葉として受け取っておきます。という訳で、高屋敷君」
「え?」
「実験にも付き合って貰いますよ」
「ええ!?!」
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