「安西先生今日誕生日だね」
「…ああ、そうでした。今年は不快なプレゼントを貰う前に恋人も客も処分したもので、すっ かり忘れていましたねぇ」
「先生はこないだの僕の誕生日忘れてたよね」
「反省してますよ」
「でも僕は優しいからちゃんと忘れずに誕プレを用意してます!偉いだろー」
「偉いですねえ、高屋敷君は本当に記憶力が優れていますねぇ」
「ふふーん♪…でもただじゃあげないよ?」
「ふん?何がお望みでしょう」
「んっとね、来年の僕の誕生日を忘れない約束したらお祝いしたげる」
「それはもう、来年君は二十歳の誕生日な訳ですからね、今から何を贈るか考えていますよ。 決して忘れないと約束しますとも」
「ホント?」
「地獄に誓って」
「んへへー、じゃああげる!ちょっと待ってね、んーと……はい!まずはケーキからー」
「おや、これはこれは…特大ですね」
「センセチョコレートガナッシュ好きでしょ?だから特大っ。…あのね、中にはバラのジャム 挟んであるんだけど、それ五月のうちから作ったんだよ!ってことはこれ七ヵ月がかりとも言 えるケーキなんだからね、心して食べてよね!?」
「ははあ、痛み入りますねえ。とても美味しそうです」
「んで、こっちがプレゼントでねー…」
「君自身ですか?」
毎年この日に弄ばれ殺され続けた過去三年の歴史は死んだ!!今年はなにがなんで も僕はプレゼントにしないからな!!!
「高屋敷君たら怒ることないじゃありませんか…良いのですよ、お金の掛かるプレゼント等一 人暮らしの学生から受け取れませんもの、ただちょっとだけ私の玩具になってくれれば、私は 本当に嬉しいのです」
「無視!!…で、はいプレゼント。ちょっとがんばっちゃった」
「これは…マフラー?」
「うん、ふわふわの新しい毛糸見付けたから編んでて楽しかったよぅ、もこもこで可愛いでし ょ?しかもしかもーこれ先っぽにポケットついてるの!手袋代わりにするんだって。流行って んだよー。あと真ん中のとこにフードもあるから、帽子にしてね。ねー巻いてみて巻いてみて ー」
「こうですか?」
「フードと手袋もするの!…わー可愛い、ぴったりじゃん!頑張ったかいあった!」
「ありがとう御座います、高屋敷君。とても嬉しいです。…しかし、これで二十八になる男が こんな浮かれたマフラーは…」
「似合ってるって言ってるでしょ?それとも僕のファッションセンス気に入らないって?」
「いいえ、そんなことは。ただ私に着こなせるかどうか」
「スーツじゃなくて私服に合わせればいいじゃん。イケメンは細かいこと気にしなくていいの 。誕生日おめでとう安西センセ!!」
「ありがとう御座います」
「じゃあケーキ食べましょー♪お茶いれよっか、紅茶?コーヒー?」
「ああ、それなら丁度昨日に、薔薇香の紅茶葉を調達したところです。きっと君の手作りケー キに合うでしょう」
「ホント?偶然っ」
「全く。きっと神の采配でしょう」
「さっき地獄に誓い立ててた人が言ってもね…お茶葉これ?封開いてるけど飲んだの?」
「いえ、君と一緒に飲もうと思ってましたしね。少し香りが気になって開けたのですよ」
「あ、いい匂い…これ普通のお湯温度で入れていいやつ?」
「…低めの温度の方が良いですね。成分が壊れないように」
「え?最後なんて?」
「いいえ何も?」
「そう?…まあいいや、温る目ならもうヤカン上げていいよね。ポットも暖めてあるし」
「……ああ、良いですね、ここからでも香りが分かります…」
「蒸らしは二分くらい?ケーキ切ってよっかな」
「ついでに君の大臀筋も切り分けてくれませんか?」
くれません!人食いは黙ってろ!……はい、とりあえずこれくらい切っ たから」
「ありがたく頂きます」
「紅茶はー…もういいよね。はいどぞ」
「ではケーキを…ああ、とても美味しいです。ジャムが蕩けて薫り高く…」
「でしょ?えへへ、もっと褒めろー」
「本当に美味しいですよ、幾らでも食べられそうですねえ」
「いっぱい食べていいよ、センセの誕生日ケーキなんだから」
「お言葉に甘えます。…高屋敷君もお茶をどうぞ?」
「あ、忘れてた。でもホントにいい匂いだねこれ」
「そうでしょう?さあ飲んで下さいな」
「うん、いただきます…んー」
「…ふふ」
「んく、うわ!すっごいおいしい、変わった味ー…?……あれ…(ガチャン!)」
「…薔薇の匂いは濃かったでしょう?入れた角砂糖は甘かったでしょう?」
「な、に…なん……動かな…っ」
「混ぜた痺れ薬に気付けないくらいにねぇ…」
「!?」
「君がいけないのですよ高屋敷君、大人しく君をプレゼントに寄越せば良かったのに…私だっ て騙すような真似はしたくなかったのですが」
「ふざけっ…!」
「さてと、今年も素敵な贈り物を貰えました。丁度人皮のソファーカバーが欲しかったところ です。今夜は夜なべで皮をなめして遊びましょうかねえ〜」
「なん、で…今年も……?…前半、僕、押してた…のに……」
「馬鹿をおっしゃい、ちょっと調子に乗らせてあげただけですよ。その可愛い絶望の眼を見る ためにね。さあ高屋敷君、地下の作業部屋に行きましょうか」
「く…来年…来年は……来年こ、そは、僕は…プレゼントに…ならないから、な…!!」
「まあ精々足掻きなさい。しかし私が君を欲しがる限り、千年万年、君は私の物ですよ☆」

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