ガララッ!


「センセー!!安西先生ー!ねーセンセセンセ見て見ていいもの買ったのー!!」
「はいはい、一体何ですか…」
「えへへ、じゃーん!!これでーす♪【日本名字辞典】!!」
「また無駄遣いを…」
「む、ムダ遣いじゃないですよー!!面白いんだからー」
「まあ君が良いなら何も言いませんがねえ…」
「あのねーこれすごいんですよぅ!逆引きもできるの。だからこうやってー【〜屋敷】って名字調べられるの!すごいですよね!!」
「…はあ」
「荒屋敷なんてカッコよくない?」
「手入れされずに荒れ放題なイメージですが」
「う。…じゃあ生屋敷なんてのもあるですよ」
「産婆さんしか住んでいなそうですね」
「むー…じゃあ大屋敷は」
「でかいだけで中身が無さそうです」
「えー?そうかなあ…引屋敷は?」
「よくありますよね、引き摺るだけで引っ越しが出来るプレハブ小屋」
「よくは無いけど…上中屋敷なんてのもあるよ。かみなかやしきって読むんだって」
「上なのか中なのか、どちらかはっきりしなさいな」
「い、言い掛かりですよぅ……中屋敷ってあるよ?」
「中途半端です」
「あうー…あ、猫屋敷だって!可愛い!!」
「化け猫が出そうですね」
わーんやっぱ可愛くないですー!!…くすん……下屋敷もあるよ?」
「下流階級ですか」
「全国の下屋敷さんに謝って!!…新屋敷かあ……いいかも」
「新しければ、後は古くなっていく一方です」
「当たり前じゃないですかー!……別当屋敷?…あ、べっとうやしきかあ…」
「…別れて当たり前の屋敷」
新婚さんにはお勧めできない物件だ!!…櫛屋敷だって。なんか変わってるー」
「髪の長い幽霊が出そうですねぇ。生前大切にしていた櫛を探して夜な夜な…」
「やめてよ恐いよー!!…宮屋敷かあ」
「宮といえば宮刑ですね。生殖器を切断されたり抉られたりする中国の刑罰で」
やめてよ恐いからぁー!!…ぐす……あ、天満屋敷だって。なんか運よさそう」
「災いが天に満つという意味かも知れませんよ」
「だから言い掛かりですったら!!…東屋敷か…普通だけど、こういうのもいいよね」
「どうせ東に家があったからついた名字でしょう?手抜きですねえ」
「失礼だなあ!全国の東屋敷に謝って!!…角屋敷」
「どうせ角に家があったからついた名字でしょう?やる気がありませんねぇ」
「だから全国の角屋敷さんに謝ってよ!!…え?田中屋敷?」
「明らかに変ですね。何故田中に止めなかったのでしょうか」
「もう先生うるさいよー!!【〜屋敷】って名字全部にケチ付けてさ!」
「一つだけ付けていないものがあるでしょう?」
「は?…なに?」
「【高屋敷】」
「……あ」
「もう十五年以上も君と同じ道を歩んだ氏です…君によく馴染んでいる…智裕という名とも、よく調和する良い名字ですよ。他の氏に思いを馳せるのは、失礼というものです」
「ん…そ、だね……ご先祖様に悪いことしちゃった」
「ふふっそんなことありませんよ?今君が自分の名字の良さに気付いた事を、御先祖様もお墓の中で喜んでらっしゃるでしょう」
「そうかなあ?」
「ええ、ですから気に病むことはありませんよ。…高屋敷君?」
「う?なあに?」
「呼んだだけです」
「もー!」
「あはは。高屋敷くーん」
「だからぁーさっきの話の後じゃ無視しにくいじゃん!無意味に呼ばないでよー!!」
「高屋敷君?」
「もぉー!いじわるしないでったらあー…」
「ははは。…本当に良い名字ですよ、高屋敷君」














「まあ結婚したら【安西 智裕】になりますから、関係ありませんけれどね☆」
しねーよ!!

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