長らく何にも置いていなかった隠しページですが、
試しにちょっとした機会から書いたBLっぽいものを置く場所にしてみます。
隠しらしくエロスを強調しようかと
評判が悪かったら今までに拍手へぶっこんでいた文章のログ置き場に変更予定。


「昨日お前で抜いたわ」
「…は?」
「いや昨日予定無かったから朝から自家発電に励んでたんだけどよ、いい加減飽きたから男でできるかと思ってな。実行に移したワケよ」
「は?どうして私なんですか?えっ?」
「手近に男だか女だか判んねえ奴がいたら使うだろーハードル低ぃし。あ、出演料に五百円やるわ」
「微妙に高額じゃないですか止めて下さい!何考えてんですか!?」
「いい仕事ぶりは称えるじゃねえか普通」
「動いたのは貴方の頭だけでしょう?!私は関係ないですよ!」
「さっきからなに怒ってんのお前?事後承諾だったからか?」
「事後でもないですし承諾もしていません!」
「あ?あー、そうか分かった、よしお前もオレで抜いていいぞ」
「保健所で去勢されて下さい野良犬が!!」



猥褻な単語を真面目に連呼していると笑えるので書きました。マザファッカとかサックマイディックとか、メリケンスラング特有の思い切りの良い発声は元気が湧いてくるのでとても良いと思います。



新しいお父さんの言うことに逆らってはいけないと母に言われていたので新しいお父さんの命令に従って大人しくアナルファックされたのにそれを知った母は激怒して暴力を振るったあげく二度と姿を見せるなと新しいお父さん共々私を追い出した

「どうしてでしょう」
「どうしてでしょうってお前。どうもこうもそらこうなるわ」
「私はお母さんの言う通りにしたのに。新しいお父さんの言う通りにするという行為を通して母のいうことを聞いたのに。何が気に入らなかったのでしょう」
「あんな母親に育てられたらこうもなるか…変なガキだとは思ってたけどよ」
「これからどうしたら良いですか。自分の意思で何かを決めた経験が無いに等しいので、どうしたら良いか分かりません。もう公的機関から保護してもらえる歳でもありませんし」
「え、お前幾つ?ろくろく家から出されてねえと成長しねえってマジなんだな」
「明日で二十歳です。日暮までに公的機関へ駆け込めば間に合うでしょうか」
「無理だ、現代日本は誕生日の一日前に年取るって決まってんだ。つーか施設系は十九でも無理だろ」
「では自活しなければならないのですね、義務教育すら受けていない私が働けるでしょうか」
「義務教育受けてねえの?その喋り方で?」
「ニュース番組が私の子守役でした」
「へえ」
「新しいお父さんは小学校しか卒業していない人でも生きていける方法に心当たりはありますか」
「ん?ああ、男とヤったら金貰えんぞ。お前顔いいから。その点は母親に感謝しとけ」
「アナルファックをですか」
「…あともう少し情緒があれば言うこと無いんだけどよ、無理そうだな」
「この前したアナルファックをまたするのですか」
「そうだ、そうだけどそれ止めろ。ここ、路上、解るか?はっきりした発声しやがって」
「私は今路上で新しいお父さんとアナルファックしていませんし、新しいお父さんから大きな声で気持ちがいいですと言うように命令されていないのではっきりした発声を心掛けていないのですが、何を止めるべきなんですか」
「お前もうマジで俺ン家の近くになったら黙れよ?クソ暇なうるせえ専業主婦が佃煮にするくれえいんだからな」
「私、アナルファックはすごく痛かったですけれど、頑張れば我慢できるようになる気がするんです。七十回くらいすれば慣れるのじゃないでしょうか。…新しいお父さんの家?」
「七十回か…そんな下手だったか…?」
「新しいお父さんは家があったんですね」
「あー、転がり込んだと思ってたか」
「新しいお父さんの家はこの近くなんですか」
「いや?三駅離れる」
「じゃあ大丈夫です。私はそんなに遠くまで歩いて行けませんから」
「いやいや電車乗るって」
「無一文なので電車代はありません。新しいお父さんの言う通りに男とアナルファックしてお金を貰えば別ですけれど、まだ誰ともアナルファックしていませんし」
「何回言うの、お前。それにアナルファックされんのは電車乗って俺の家に来てからな」
「?」
「…お前、俺のところに来ンだぞ?」
「電車代…」
「やっぱ小卒だな。俺が食わせてやるって言ってんだよ。だからこれから電車代も出してやって俺の家に連れてくの、解るか?」
「どうしてですか」
「どうしてもこうしてもあるもんか。勢いとかノリとか流れだ。だから俺に逆らってみろ?すっぱだかで蹴り出してやるぞ」
「逆らいません。母が新しいお父さんに逆らってはいけないと言っていましたから」
「それな、もう新しくもねえからやめろ。母親も死んだことにしろ。これからは俺の言うこと聞け、解るよな?」
「はい、お父さん。お母さんは死んだので、電車に乗ってお父さんの家で私はアナルファックをします。明日も明後日もこれから毎日します」
「いやそこまでは頑張れねえわ、殺す気か」





病床には二人の男が居た。一人は病んだ初老の男で、一人は人に見せ掛けた地獄の獣。彼等はそれぞれ床に伏せながら腰掛けながら背を向けあっていて、情事の如くベッドのスプリングが軋むのは瀕死の咳込みか焦った貧乏揺すりのせいだった。

「退け、そこを。頭の傍に座るな。暗い」
「…鎧戸は閉まってますぜ。俺がどいても、明るくなりやしませんよ」

病室は十分明るかった。獣から背けた男の顔前にあるサイドテーブルには煌々と燃える蝋燭の燭台があったのだが、悪魔は告げなかった。どうせ見えていやしないのだ、知っている真実を告げずにいるのは悪魔の十八番だ。この死にかけがあたかも目が未だ確かな様に振る舞おうとしている真実だって知っている。とどのつまりは悪魔の甘美な騙りで満足する前に死んでしまうこの男!

「僕の負けですな。アンタは天国行きですよ、全く馬鹿を見ました」
「天国」
「そりゃそうでしょう。旦那は僕との契約に於いて満足さえしなければ魂を取られないとなってるんだ。おめでとうとまで言わせたいかね?」

返事の代わりに痰の絡んだ咳が聞こえる。狭まった気道は木枯らしの音を立てて生命の冬到来を告げ直に男の身体は雪人形のように冷たくなる。こうなってしまえば地獄の大公が怒鳴りつけても病魔はこの肉体から離れないだろう。病の身になって漸く人間は健康の喜びを知ると言うからこの男が病んだ折には小躍りしたものだが、こうして終ぞ命令されなかった。何故健康を俺に願わなかったのか?まんまとしてやられた訳だ、元より死神の手を借りて階段を登って逃げる気だったのだ。何を叶えてやろうともこいつは首を縦には振る気なんぞなかったに違いない。酷い話じゃないか。

「まあ、精々苦しんで死んでくれ。そうして一度の満足も無き人生を終えちまうが良いさ。そうしてくださいませば俺の溜飲も少しは下がりますってもんだ」
「苦しんで見えるか?」
「死んじまいそうな程にね、大丈夫ですかな?」
「実のところ、それ程辛くもない。心配してくれてありがとう」

嫌味の応酬だけは死出の床でも変わらなかった。見掛けはお互い随分変わった。男は枯れ木と見紛うほどだったし、悪魔はこれで最後と変化を解き枯れ木の男を覆って被さる。

「強がるなよファウスト。満足は諦めた、ただ一言苦しいと言ってくれ」

獣の声に愛おし気な響きがあったのは最後の甘い誘惑か。それでも男は見えない筈の目で臆さず悪魔と対峙していた。

「いいや、本当に大して苦しくも恐ろしくもないのだ。看取られるのがこれ程効果的な慰めになるとは、医者をやっていた頃には知らなかった」
「だが俺の姿ももう見えまい」
「馬鹿な、よく見えるとも」
「ではどんな姿か言ってみろよ。犬か?坊主か?女か?竜か?それとも馬脚を現してるか?」
「お前の姿か?ああ、私にはよく見えている。ずっと言おうとしていたのだ」

余すところなく弱り切った筋肉で、どうしてここまで穏やかに笑えたのかは解らない。だが確かにこの男は俺に向かって微笑み、骨が砕けた筈の腕を差し伸べて、潰れた声でこう言った

「メフィストフェレス、お前は美しい。私はすっかり満足した…」

悪魔がらしからぬ呆けた気配となったので男は続けて最期の願いを付け加える。愛すべからざる光が欲しいから、地獄の鎧戸を開けてくれ。そこで漸く悪魔は調子を取り戻し親し気な恐ろしい微笑みを返すとあっという間に病身を八つ裂きにしてしまった。看護婦が見回りへ来た時は既に血まみれの部屋には肉片以外蛻の殻で、ついでに心臓だけがどこぞへと持ち去られていた。



しがみつかれて困惑する。見つめられて困惑する。お願いしますと言われて困惑する。良いのか?だってお前、あの安西家の寵児だろうが。相手もそれに相応しい奴選んどけよ。急にキスを押し付けてきて舌まで入れてきやがり、離れ、また押し当て、吸い付いて、水音を立てる。されるがままというかどうしたらいいか思い付かないから現状維持を続ける俺に、何度もエロい口付けをして身体を擦り付けてくるもんだから、やめとけって、かなりマジで。そんな必死な格好見られたらイメージダウンだろ?ふいに股間を握りしめられ何事かと顔を見ると泣きそうに目を潤ませていて、私じゃ駄目ですかと言った拍子に涙が零れた。駄目じゃねえよと言ったはいいが、勃ってねえのは確かで、いや勃たない訳じゃなく勃たせていいのか悪いのか判断がつかないからであああ泣くなって!めそめそしだしたから涙を拭ってやるが、どうしたもんか、後から後からお綺麗な涙は止まらないので駄目じゃねえよともう一度言う。じゃあ。と言って俺の手を握り自分の胸元、いやボタン辺りに押し付けるから駄目じゃねえけどちょっと待て。無理だ。色々と。と言いたいが言ったらコイツはまた泣くし、どうすりゃいい?ヤっちまっていいのか?正直コイツの顔は綺麗だし体付きも女にゃ程遠いが線が細くて色っぺえと思う。たぶんヤれる。ヤり方は知らねえが何とでもなるだろ。だが本当にコイツはヤられたいんだろうか?さっきかららしくねえし一時的な気の迷いなんじゃないのか、ともたついている間にまた泣き出した。ああ畜生、分かったよ!首根っこ捉まえて仰け反らせ気味に噛み付いた。血が出そうな勢いで吸い付き舌を吸い上げねぶり回しながらベルトを外してやる。下着ごとズボンを引き下ろすと流石に恥ずかしいのか身を隠す様に引っ付いてきた。口を離せば息を荒げ真っ赤な顔で切なく見詰めてくるから駄目だクソ可愛い、勃った。小さいが揉みでのあるケツを両手で鷲掴むとその気になった俺に今更たじろいだらしく、臆して一歩下がりかけたが膝までずり落ちたズボンに気付いちゃいなかったので、よろめいたところをこれ幸いと首を支え腰を抱き、崩れ落ちるように組み伏せる。しかし、なんてこったよ。ああだのううだの言いながら視線を泳がせ俺の目を直視できないコイツを見ると、その気になったはいいがやっぱりこりゃ間違いだったか。ちょっと気になって近づいたら逃げられたから、何となく追い掛けるうちに本気と勘違いしたんだろう。証拠に見ろ、萎えてやがる。こっちが勃てばあっちが勃たず。まあ、いいけどよ。体を起こして立ち上がった俺を見てえっと言い、自分の下半身に目をやってあっと言う。今度からもうちっと考えて行動しろよと結構本気で捨て台詞を吐いてすごすご帰ろうとしたら足が何かに絡まって、けったいなこともあるもんだと振り返ったらあいつが泣きながら裾を握り締めていた。面倒臭すぎて頭が痛い。まあでもコイツも混乱してるんだろうとしゃがみこんで布地に絡み付く細指を一本ずつ放してやりつつ誤解は誰にでもあるもんだと言い聞かせてやるんだが、今度はもう片方の手で俺の袖口を掴んで放さない。何やら言っているらしいが泣きじゃくって聞き取れねえしどうすりゃいいんだ、また振り出しに戻っちまった。いやでもさっきよりかはどうしたらいいのか分かる。コイツの勘違いを自覚させればいい。だからなあお前はそんな下半身丸出しにして誰かに、特に俺なんかに追い縋るような奴じゃないだろうよと当たり前過ぎる話をしたが、違う違うと涙を振りまき激しく首を振って、やれやれ意固地になっているらしい。こんなところ誰かに見られたらお前どうすんだよ?さっさと話を付けてやらねえと。という訳で露骨な話をすることにした。じゃあなんでチンコ起たないんだよとまあこれくらい言えば分かるだろうと思った、んだが、何でこう斜め上を行くんだか、泣きながらチンコを握り出し覚えたてのガキみてえに不器用に扱き始めやがった。片手にチンコ片手に俺の袖とまあ器用なもんだ。呆れて暫らく黙り込んで見ていてやったが、一向に固くなりやしねえ。だからなのか余計に強く握り締め力任せに扱きたてるから見てるこっちがいてえよ馬鹿、お前も泣いてんじゃねえか、やめろやめろと上下する手首を捉まえると暴れ出して思いっきり向こう脛を蹴られた。クソいてえ。動けなくなったからか俺の服から手を放し両手を使って扱き出す。何に焦ってるか知らねえが、涙を拭うのも忘れて必死の顔でやっちゃいるんだが、頑張りは息子に届かねえようでただフニャフニャのまま赤くなっていく。遂になんでどうしてと言い出したので、そりゃお前が本当はとまで口に出したがあんまり泣くからその先を言えず、腹からシャツの中に片手を突っ込みたぶん乳首を弄ってるんだろう、服の上から見ても乱暴なそれでもげちまわないか心配だ。上も下も、もげる前になんとかしてやらなきゃなあと気は進まないが最終手段に出ることにした。ずるずる近付きチンコに手を伸ばして握ってやる。アイツは驚いて泣き止み俺の顔を見るが、これから起きることを予想する俺は見返す気になどなりやしねえ。コイツの鎖骨辺りに視線を置いたまま、ゆるゆる扱きたててやる。アイツは大人しくしてじっと俺を見つめているようだ。どんな顔してるか分からねえが、この後どんな顔になるかは分かる、そらもう分かってきたろうよ。両手で顔を覆い、違うんですと言ったそれはひどく小さい声で、今までにないほど震えていた。俺は黙って殊更優しく握り、扱き、くじる。柔らかいそれは、とても扱いずらい。そしていくら弄ってやってもちっとも固くならないのだ。なあ、どういうコトだと思う?と初めてアイツの顔を見ると、とんでもなく傷付いた顔でハラハラ涙を零していた。だからやりたくなかったんだよ。今度こそ立ち上がり背を向けても引き止められず、扉に手をかけ開ける前につい振り向くとアイツは放心しへたりこんで床を見つめていた。このまま一人にして大丈夫かと不安になったが、取り敢えず外のプレートを立ち入り禁止表示にして立ち去った。ああ明日っからどんなツラでアイツと会わなきゃならねえんだ。
と悩んだのは俺一人だったらしい。なんだこりゃ。昨日とまったく同じ場所で同じ相手にまた迫られてやがるとは、一体誰が予想する?目の前で胸ぐら掴むコイツ、昨日よりも必死な殆ど心中を迫る調子で、昨日はと口を開く。昨日は、ちょっと体調が悪かったんです。でも今日はと言うとぎゅうっと抱き付き下半身を擦り付け、ほらねと自慢気に俺の耳へ吹き込んだ。ああ、コイツらしい。何が何でも思い通りにしたがるのはまさにお前だなと抱き返してやるとビクンと肩を震わせたが、今日は萎えもせず睨む様に視線を逸らさなかった。半開きの口からは発情した息をハアハア吐き、真っ赤な頬で潤んだ目。やっぱり可愛いな。勃った。やる気になった俺を怖がるのは昨日と変わらないが、今日は一生懸命に震える指でシャツのボタンを外し白い胸を突き出してみせる。固くなっている乳首だが本当にやりたいからなのかびびっているせいなのか判らない。まあいいか。胸を無視してキスをしたらぅんと鼻声を出し舌を差し出してきたのをチュルリと啜り込んで弄び、ケツを掴んで引き寄せると堅いものが当たった。



好き勝手に弄ばれるのは、何もこの人に限ったことではないので気にならない。けれどこの人だからこそ気になる。やはり身体目当てなのでしょうか。事が済んだらすぐに離れて殆ど話してくれないし、背中を向けて寝てしまうのにせめて寄り添わせて貰おうとしたらうるさがられるし、朝にはシャワーもそこそこに放り出されて、これで愛されているなど幾ら何でも言えやしない。この前だって珍しく夕方から家に上げて貰えたので、喜んで欲しくてありあわせの食材ながら晩御飯を作ったのに、褒めてくれるどころかテレビの方ばかり見て食卓になんか目を向けても貰えなかった。当然私を見てくれることもなく、無言の食卓の後に皿を洗っていたら後ろから抱きすくめられ服を脱がされ立ったまま突っ込まれ、泡だらけの手で蛇口にしがみ付きとても惨めな気持ちで体内の飛沫を感じていた。何もかも中途半端で片手間で、私だけを見て貰えることなどこの先も無いのだろうと悲しかった。行為の最中ですら私の過去を罵って、経験人数を嘲って、使い込まれた身体を笑うから、今は貴方だけが好きなんですとも言わせて貰えず悲しくて悲しくて泣き喚いて果てさせられる。沢山足掻いたけれどどうやっても何をしたら認めてくれるのか解らなくて、もう近頃は死んだような気持ちで諦めてしまった。身体を使われるだけで十分なのだと納得し、性行為にだけ喜びを見出だしてみたら幸せになれたから、専らセックスドールの役目を謳歌している。気持ちがいいのは嬉しいから、犯して嬉しがらせてくれるのは少なくとも好意だと欺瞞に満ちた考えで何とか恋人だと信じ込んでいる私を、あの人はきっと大嫌いだろう。それでも、私が好きでいるのを許してくれる程に優しい人だから、私はあの人がとてもとても好きなのです。

安西先生とケンカしちゃった
ホントは僕が悪かったのに、先生が謝ってくれた
なのに僕は聞こうともしなかった
それ以来連絡がこなくて
僕から連絡もできなくて
なんであんなことに怒ってたのかわかんない
仕方ないってわかるのに
僕がワガママだってわかってたのに
どうしたらいいのかわかんなくて
どうすればいいのか先生に聞こうとして
でも最初になんて言えばいいのか思い付かない
だからずっとケータイカパカパしたながら
ベッドで寝返りばっかり打ってる
安西先生
安西先生
ごめんなさい、安西先生
怒ってるよね?


高屋敷君を怒らせてしまった
必ず連れて行くと約束したのに、私がそれを破ったから
二週間だけ公開のクリオネを楽しみにして
水族館のことばかりはしゃぎながら話していた
連れて行ってもらえると信じていたろうに
それを仕事などと不粋な事で裏切って
謝ってももうクリオネは出て来てくれないし
代わりに遊園地へと誘った言葉は、高屋敷君の耳に届かず
勢い良く閉められたドアに虚しくぶつかった
さてどうすれば良いのやら、検討もつかず
時間が解決などと悠長な振りをして逃避をしているが
それとももはや手遅れなのか
もう一緒に遊べないのかと
確かめようと携帯に手を伸ばすのだが
知るのが恐くて結局ベッドに放り投げる
高屋敷君
私は大人になんてならなければ良かった
そうすれば、君を裏切る事もなかったのに


うん、間違い電話のフリで電話しよう
で、もう怒ってなさそうだったら謝ろう
まだ怒ってそうだったら一回切って
先生の好きなお菓子いっぱい作って、許して貰いに行こう
許して貰えるまで、何回もいっぱいお菓子持ってこう
…怒ってなくてもお菓子作ろう
それでいっぱい持ってって一緒に食べよう
よし、大丈夫、これで大丈夫
だから
えーと
がんばって、先生に電話する


こうしていても仕方がない
高屋敷君に聞くとにしよう
まだ私達は一緒に遊べるのかどうか
時間が解決しているなら、もう怒っていないでしょう
その時は遊園地へ誘えば良い
もし解決されない怒りだったなら
その時はすっぱり諦めましょう
土台無理だったのかも知れません、大人と子供が友達なんて
私はいつも裏切るばかりで
そんな友人、さっさと振り解く方が良い
それを無理矢理離させずに、小さな手を力一杯握り締めて
ああ可哀相に
だから高屋敷君
恐ろしいけれど、君に電話を掛けることにします


…話し中


…話し中


そうだ、先生は他にする事いっぱいあるんだ
それに僕以外にも遊ぶ人がいっぱいいるんだ
じゃあ…僕に怒ってるどころか
もう僕なんて忘れちゃって、別な人と遊んでるの?
もう僕は安西先生と遊べないの?
じゃあお菓子作っても食べて貰えない
持って行っても、君なんて知らないって言われるんだ
僕が怒ったから!
どうしてあの時怒ったりなんかしたんだろう?
ばかだ、ばかだ、すごくばかだ
もうダメだ
どうしようもなくなっちゃった
安西先生
安西先生
安西先生!


ああ
成る程
いや、私も馬鹿ですね
高屋敷君の電話相手が私だけだとでも思ってたんでしょうか?
そんな訳が無い、寧ろ、あんなに良い子です
友達なんてきっと沢山いるでしょう
私がいなくても何にも変わらないくらいにね
つまり、まあ
高屋敷君は私を必要としていない
解ってしまえば簡単なことでしたね
何を悩んでいたのやら
独り善がりに連れ回していたんです
自分が邪魔な存在だと気付かずに
きっとあの後他のご友人とクリオネを眺めに行ったのでしょう
解りました
綺麗さっぱり、君の元から立ち去ります
高屋敷君
高屋敷君
さようなら


…繋がった?!


…やれやれ、直接引導渡されるんですか?


「安西、先生?」
「はい、何か?」
「…あ…」
「何か言いたいことでも?」
「…あ、あ、あの、ね」
「はい」
「……僕のこと、知ってる?」
「…君を?」
「僕を…」
「………」
「…ねえ…」
「……いいえ、知りません」
「え…」
「少し前に忘れました」
「………」
「だから、君は別の友達と存分に遊べば良いのです」
「……そう」
「はい」
「じゃあ…じゃあ、安西先生……あの、じゃあ……さよなら」
「はい、さようなら。これっきり」

私が死んだら、ほんの少しで良いから、私を食べて下さいねとアイツが言ったのはいつだっただろうか。焼香の最中にやっと思い出す俺は冷たい奴かもしれないが、思い出さないよりはマシだとこっそり式を抜け出し近くのコンビニで果物ナイフを買って戻る。さて後は人目を無くせばちゃっちゃと済ませられるのだが、流石に親族はなかなか離れない。何せ綺麗な末っ子だったらしいから馬鹿甘やかされて猫可愛がりされて、死んで尚愛され続け剥製にしようなんて話も出たらしく、とんだ一族だと呆れた。そりゃアイツもゴウガン不遜の女王様気質で最悪のねだり上手に育つワケだ。そのねだりをまんまと聞いている俺もよくよく馬鹿だが、しちまった約束だから仕方がない。と、親族一同が妙な格好の坊主に別室へ呼ばれたのをこれ幸いと棺桶を暴き、生前と大して変わらない死んだ身体を素早くまさぐり納めをしてやってから死後硬直の解けた顎を開けさせて、綿を掻き出し舌を根元から切り取った。切れの鈍いナイフの割には首尾も上々元通りに口を閉じさせて棺の蓋を被せ、素知らぬ顔で受付に会釈しポケットの中でドライアイスで冷えた舌を弄りながら電車に乗る。アイツも別にここまでしろとは言ってやしないが、折角のことだ、爪だの髪だのじゃ面白くねえし他に目立たない部位といったら舌しか思い付かなかっただけだ。降りる駅まで寝て起きて、歩いて五分の寝倉までの道程はどうこの舌を頂くかについて考える。肉は腐りかけが旨いが加熱は必須で、肉汁一滴無駄にするのはすっきりしない、そして素材の味を生かすシンプルな調理といえばただ茹でるだけと言うものしか思いつかなかったので玄関で塩を振るのもそこそこに片手鍋に水を張った。沸騰した湯の中にアイツの舌をポンと放り込み、白っぽく変わりゆく色と泡に揉まれた踊りを箸と深皿なんか用意しながら見るともなしに見て、いい加減飽きたところで火を止めて熱湯から摘み上げた。湯気を立てて皿の中でさあどうぞと差し出されている姿は、冬のある日に口の中から突き出してさあどうぞとお膳立てされたのを思い出させる。あの時は舌だけじゃなく後に身体の方もおいしく頂いたのだが、贅沢は言えない。そんじゃ据え膳頂きますと口に出してから舌を箸で持ち上げ口に入れる。舌触りを味わい、噛み潰し、味をみて、総評としては不味くはない。しかし分かっちゃいたが、やっぱり生きてた頃の方がうまかったぜと一人ごちてから飲み込んだ。



安西が吸血鬼のままでいるのを気に入ってから、人間の高屋敷は半ズボンしか履けなくなった。安西の膝の上に乗ってストロベリーココアを飲んでいた高屋敷は、背中の上の方にちょっとした振動を感じたのでマグカップを抱きしめたまま振り返って尋ねる。

「安西センセ、おなか空いたの?」
「恥ずかしながら」

そうと軽く頷いてから机に向き直ってぐいと腕を伸ばし上体も伸ばし、飲みかけのココアをなるべく遠くに押しやってから立ち上がって机の上に座り直して脚を広げた。どーぞと腰ごと前に押し出しながら左手は半ズボンの裾を引き上げ白い太股を更に露出し、安西の邪魔にならないようにと気遣ったので、良い子良い子と頭を撫でて貰えてご満悦に笑った。素直で優しい、小さな可愛い良い子だと何千回目かの幸福な感動を終えてから、安西は高屋敷の膝辺りに両手を添えて股座に入り込む。始めの数回は首筋から吸っていたが、あまりに細過ぎる首筋は牙を立て難くともすれば生命に危険がある程深く牙が刺さってしまうから、今では専ら大腿部の大動脈から吸血するようになった。左脚の付け根近くに目をやれば丁度大動脈の真上に位置して黒子があり、この為の目印が如く白肌にポツンと打たれた滲みもない黒点は、細くとも健康的で子供らしい高屋敷の脚を左脚だけどこか淫らにさせていた。その黒子を繊細だが力の強い指先で静かに抓るのは、噛みついた時の痛みを誤魔化す痺れを起こさせるためで、首筋に噛みつかれた時と同程度の痛みにまで軽減させる効果がある。

「それではありがたく頂きますね」
「うん」

安西は心持首を屈めて高屋敷の内股へ口を寄せ、黒子を口に含むようにしながら温かくともひんやりとした肌を牙で刺した。毎度の事ながらどうしても痛みには慣れなくて、高屋敷は破瓜の痛みに耐えるかの如く目を瞑る。その痛みを申し訳なく思っているから殊更優しく甘やかす様な吸血をして股間に顔を埋める形となっている安西には知る由もないが、吸血されている高屋敷は実の所いつもその放尿にも似た感覚に幼い快楽を得ているので、だらしなく口を半開き、桜色の唇は滴れ落ちそうな唾液にとっぷりと濡れて光り、澄んだ瞳は無垢なまま眼前に広がる霧のように淡い官能を見つめていた。つるつると血管すら吸い出されているような、手繰られるような、そのまま根こそぎ全て持っていかれても構わないと高屋敷が脳の奥の奥で考えてしまう一歩手前が安西の腹八分目なので、お互い知らぬ内に薄氷の上を歩んでいる。高屋敷は自分が吸血鬼になってしまうリスクを知りつつもう少し飲んでもいいのにと、安西は飢餓が決して満ちないけれど小さな体を慮って、二人の内どちらかがその背反の想いのどちらかを軽んじるか求め過ぎるかしてしまえば、瞬きする間もなく壊れる関係性だというのに、どういう訳か奇跡をずっと続けている。今日もまたどちらも道を踏み外すことなく高屋敷の肉から安西の牙が抜かれ、プツリプツリと黒点を間にして穿たれた赤い穴から蘇芳の血が牙に追い縋って溢れるのを人間より少し赤くて長い舌が諌めるように舐め取ると、傷は忽ち塞がり元の白い肌へ経ち返っていた。

「…疲れちゃいましたか?」
「んー…」
「ごめんなさいね。寒いでしょう?おいで」

血を失くせば途端に眠気を催すから、先程までの官能の名残は閉じ掛けた瞼に隠され安西に気付かれることはない。安西は力の抜けた軽い体を抱いて机から降ろし、横抱きにして、体温で温めてやることが出来ない代わりにマントで包み、薔薇の芳香で入眠を心地良くさせてやり、寝入った高屋敷の額に自分の額を当てて夢の中に入り込む。

「晩御飯はほうれん草のグラタンにしましょうねぇ」
「…オニオングラタンスープも飲みたい…」
「あれは血を溶かすからいけません」
「…じゃ、ニンニクたっぷりのソパディアッホスープ…」
「君、私のこと嫌いですか?」
「…好きー…」
「それなら良いんですけどねえ…」



所謂交際というものを始めて一ヶ月になるが、未だにコイツへ好きだと言ったことが無い。それもこれも今こうしてやたらと幸せそうに俺の男根を舐めしゃぶっているコイツが俺を本当に好きなのかどうか解ったものじゃないからだ。いやにニコニコと毒気の無い顔で貴方が好きです言って来たのには面食らう前に呆れたものだ。あれ程口汚く罵ってきたその口で嘘を吐くなと言いたかったが、身を放り出すように抱き付いて、何でも言うこと聞きますからと言われたので思わず抱き返してしまい今に至る。頬擦りにもキスにも飽きたのか、身を起こして俺の腰に跨って勝手に入れやがり、根元まで銜え込むと鼻を鳴らして首に縋り付いてきた。腰を振るでもなく大人しくするでもなく、身動ぐように揺らめかせて目を潤ませこちらを見やりながら、さっきから閉じない唾液に光るだらしない唇をわななかせて俺の名前を呼ぶ。それに応えようとは何度も思うのに言葉は伴わず、キスをしてまた誤魔化した。それでも満足そうに舌を絡ませてくるのが余計にいじらしいような、いやどれも演技だろうとは分かっているんだが俺はコイツを好きになっているので少しでも喜ばせようと腰を突き上げる。嬉しそうに嬌声を上げてますます必死にしがみ付いてくるのを本気と勘違いしかけるから引き剥がして這いつくばらせて腕を捻り上げ後ろから突く。嫌がりもせずに受け止め気持ちがいいと叫ぶのにまたイラつかされ、ヤリ馴れてる奴は何やられてもヨがるんだなと言ってやると図星だったか困ったような顔で振り返ってこちらの顔色を伺ってきた。そうだ全部コイツの悪ふざけなんだと分かっているから俺は好きだの何だのとは言わないし出来ることなら好きだという勘違いも撤回したい。腕から手を離し首を絞めると流石に暴れ擦れた声でごめんなさいと何度言って、シーツを握りしめボロボロ泣きやがるから可哀相になって救い上げて抱き締め食い縛った歯を抉じ開けて舌をねじ込みねぶり回し前立腺をグリグリ抉って痙攣擬いの絶頂に悶える身体の中にたっぷりと吐き出した。どうしてこう荒っぽくなってしまうのか、コイツの華奢な身体は見掛け程脆くないが壊そうと思えば俺には壊せる訳で、身を丸めているその脇腹辺りに手を伸ばせば怯えて余計に縮こまられる。おずおずとこちらの様子を確かめているのもどうせ演技に違いないんだが、それでも悪いことをしたと思ってしまうくらいに惚れちまっているので抱き締めてしまい、安堵の溜め息が耳をくすぐるから好きだと言いそうになって慌てて飲み込む。好きです、好きですとうわごとみたいに繰り返すコイツは本当に悪趣味だ。切羽詰まった好きですは次第に幸せそうな好きですに取って代わり、何回目かの好きですの後に何度言っても俺は好きだなんて言わねえよと突き放してやったのだが、あの時と同じ毒気のない笑顔でそれでも好きですとコイツはしつこく言い募るだけだった。


今日はサトミの機嫌が良かったようで、あまりにも珍しく(ユーザ名)と二人切りで出掛けていた。それも財布として買い物の同伴ではなく、陽気に誘われた散歩の供という上々の扱いに、最早隷奴に慣れ切っていた(ユーザ名)の身には違和感を覚えて仕方がなかったが、桜並木通りを目指して浮き足立つサトミの足取りにつられていく。春めいた柔らかい日差しを浴びるサトミはいつもより顔色もよく見えて、早足のおかげかほんのり頬も桜色が差している。綻んだ口元は隙だらけで今襲い掛かれば簡単に奪えてしまえそうだが、あまりに幸福そうなサトミの気に水を差したくなくて、らしくなく情欲を押さえ込んだ。その唇がああと感嘆の溜め息を漏らしたので、今になってようやく前を向くと、見事な桜が視界を埋める。綺麗ですねと夢見るような目をしてサトミが言うから、本当ですねと応える。サトミの艶やかな黒髪に、白い肌に、薄い身体にはらりはらりと舞いかかる桜は実際夢の中の如く美しかったので、もう一度本当ですねと言った。そんな賛同が嬉しかったのか、サトミは見せたこともないはしゃいだ顔をして振り返り、見惚れてぼっと立ち尽くしていた(ユーザ名)を見ると、軽く指先を合わせた両手を口元にやりおかしそうに笑った。花に酔ったまま緩やかな並木の坂を登り、一際立派な桜の大木を目指す。残り数歩を急いて、サトミは待ち受けるようなその巨木に駆け寄った。両腕を広げ全身で見ようとするかの仕草に微笑ましさを覚えながら近づき、綺麗ですねと今度は自分から言う。貴方もそう思いますかと幸せそうに応えるサトミは可愛らしく、もっと喜ばせたいと思わせる。サトミさんは桜が似合いますよと言ってみれば、くるりと身体を丸ごと回して向き直り、本当ですかと輝いた目で問うてくる。それが本当に綺麗で、綺麗過ぎたものだから、目を泳がせてしまった(ユーザ名)の許に詰め寄って、なんだお世辞でしたかと冗談めかして笑うサトミは、けれど酷く残念そうに(ユーザ名)の目を覗き込んだので、思わずその華奢な両肩を掴んでいた。驚いた顔のサトミに畳み掛けるようにいいえ本気ですと真面目な顔で言うものだから、その真剣さがおかしくて、サトミは少し照れてはにかみながら笑い、ならどれくらいですかと聞いてみた。(ユーザ名)は大真面目な顔で、妄想で会うよりも綺麗でしたと言い切った。










「へえ、貴方、大人になったら顔面が崩れたタイプだったんですね」

水の滴るバケツを手にし、サトミが感慨深げに(ユーザ名)に向かって言い放つ。入っていたのは訳の解らぬ色合いをした妙な薬品だったらしく、それを不意打ちで思う様ぶっかけられた(ユーザ名)は、十二・三才の外見へと退行しているのだが、当人はそれに気付いていないのでサトミが何を言っているのか解らず、リノリウムの床に尻餅をついてずぶ濡れのままきょとんと見上げている。しかしサトミの言うことが理解出来ないのは愚かな彼にはいつものことだったので、とにもかくにもびしょ濡れの不快感から脱したがり、まずはと手で顔を拭おうとしてようやく気付く。袖が伸びたのか、いや、自分の腕が縮んだのだと。

「なんですかこれサトミさーん!?!」
「見ての通りです」

立ち上がろうとしたが、ジーンズの余った裾をよく磨かれた革靴に踏みつけられて、轢かれた猫のような声を立て床にびたんと叩きつけられる。サトミは濡れた布地を爪先に引っ掛け蹴り上げ、器用に片足だけで白く細い足を露に脱がせた。水溜りを無様に泳ぐ(ユーザ名)の後頭部を鷲掴み、一度床に叩きつけてからぐいと引き上げ微笑みかけると(ユーザ名)は鼻血に息を詰まらせながらひいと悲鳴を上げたのだが。

「でも中身は下劣のままですね。起ってますよ、ガキのくせに」

濡れた下着が張り付いて目立つ、露骨な主張を握り潰され今度は声も出せずに悶絶する。両足の間から伸びてきた手を剥がそうともがくけれども、その手に夢中になる隙に先程脱がされたジーンズで頭部を覆われる。濡れた布地は重く空気を通さない。前のめりに突き飛ばされてまた顔面を強打し再度噴出した鼻血でますます呼吸は出来なくなり、四つん這いで逃げようとしても先程よりも強張りを増したから更にしっかり握りこまれていて、逃れる術は見付からず、(ユーザ名)はそのままサトミのけらけら笑いをくぐもった音で聞きながら、死の瀬戸際で射精した。




左頬が熱くて目を覚ますと、サトミがもう一度頬を張ろうと腕を振り上げているところだった。濡れた服は全てすっかり脱がされていて、サトミも既に全裸で胡坐をかいている。反応が無ければつまりませんからねと上機嫌に笑って(ユーザ名)の細い足首を捕まえ、小さな足を蛇口を捻るが如くぐるりと回してごきんと折った。ぎゃあと叫ぶ(ユーザ名)の口に自らの脚を伸ばして足先を捻じ込み、黙って舐めろと無言で命じ、大人しく舐めだした(ユーザ名)の顎を掬う様に蹴り飛ばしてまた笑った。

「た、助け…許してくださいサトミさんマジですごく痛いんでサトミさん」
「はぁん?常日頃から私と寝たがっていた馬鹿がそんなことを言うなんてねえ?」
「逆の立場なら歓迎なんですが!」

子供の細腰が大人の大きな手で掴まれ持ち上げられ、隙間に折り畳んだ太腿を滑り込ませて固定する。自分で持てと膝裏を抱えさせ、空いた手は卑猥な文句が印刷されたボトルを掴み上げる。

「これ、私に使おうとして買ったんでしょう?ベッドの下なんて安易に隠すから見付かるんですよ。まあ、私も使うのですし、良いですよね?」
「よくないでぅえあ冷たっ!!」

手の平に出して温めることもせず、ローションは直接(ユーザ名)の白くつるりとした尻に垂らされた。鼻歌混じりに適当にぶちまけた後はボトルの口を無慈悲に突き立て、暴れる身体を押さえ付けつつ残りの全てを注入した。引き抜く際には尻たぶを叩き、力を入れさせて零すことを許さない。更に腰を上げさせ彎つく穴が天井と向かい合うくらいにさせて、腹を揉みしだき奥までローションを届かせる。

「サトミさん、もういいじゃないすか…反省したんで許してください、もう嫌がるのに迫ったりしないんで…」
「反省だけなら猿でもってね。それに、猿らしくまだ盛ってるじゃないですか。それで何が嫌なんですか」

せせら笑いながら(ユーザ名)の幼い性器をくわえ、ストローの如く吸い立てる。腹に付くほど反り返っていたそれを舐めやすいよう無理矢理逆に倒してパクついたものだから、(ユーザ名)は二つの意味を込めて哀れな叫びを喚いた。加えてサトミの中指が緩んだ肛門に捻込まれたので、叫びの意味は三つに増える。グイグイと押し広げる痛みに身を捩るから折角仕込んだローションが逆流したとお仕置きに歯を立てられ、もはや涙と鼻水と涎まみれの顔をぐちゃぐちゃにしてひいひい歯を食い縛るしか出来なかった。

「いっ…ぎ!ひ、い!いいぃいっ!!」
「…うるっさいですね、キリギリスみたいな声で」

口を離して顔は上げないまま上目に睨み、先走り混じりの唾液に汚れた口元を甲でぐいと拭ってから、片眉を上げた嫌な笑顔で笑うとこう宣う。

「なら、もうやめにしましょう」

その言葉が終わるか終わらないかでもう体勢は整えられ、(ユーザ名)がその体勢で何が起きるかを思い出す前に殺人的な強張りが捻込まれた。

「あぎいいぃぁあああ!?!いぎゃっ!いだいあいだだ抜いて!抜けって!!」
「だから慣らしてやろうとしたのに。馬鹿ですね、キツくて痛いじゃないですか。早く力抜きなさい」
「無理で!い゛たいってサトミさんぎいっ!!」

叫び声が気に食わないのか暫し口を閉じ、(ユーザ名)の足首を掴んでいたうでをおもむろに幽鬼の如くのばして無言のまま(ユーザ名)の細い首に手をかけ、力一杯絞め上げる。折れるぎりぎりまで締めるそれは気道を塞ぎかつ頸動脈も潰すので、先程の窒息よりも急速に死が近付いた。ものの数秒で(ユーザ名)の眼球は裏返って舌を吐き、失禁によるアンモニア臭が辺りに立ちこめた頃。

「…ん、やれば出来るじゃないですか。丁度良い具合ですよ」

サトミはスムーズなピストン運動に御満悦で、ぐったりとした(ユーザ名)の両足を脇に抱え込んでいた。屍姦に見えたがそれはギリギリで回避されていて、(ユーザ名)の口からブクブクと泡立つ涎が呼吸の存在を証明する。雨に歌えばを鼻歌混じりに、サトミは腰を更に奥まで届けさせようと自分の肩に細い両足を掛けさせて、押し潰すように身を被せた。柔らかいとはいえない(ユーザ名)の身体がその負荷に耐え切れず痛みを生み、その痛みで(ユーザ名)が覚醒した。

「う…あ、い、いた…!!」
「ああ、またそれですか?痛いしか言わないんですねえ」

無遠慮に打ち付けられる痛みと折り曲げられた痛みは確かに堪え難かったが、下劣な(ユーザ名)はそれでも自分が快楽を掴んでいるのにようやく気付く。それを見透かしたのか、サトミがその嫌に赤い唇を(ユーザ名)の眼前にまで近付け、どこか卑猥に蠢かせて言い聞かせる。

「ねえ、言ったらどうなんです?こうやって犯されるのが堪らないんでしょう?…だって貴方…マゾですものね?」

言い終えるとまた荒い律動が始められ、今度は耳に寄せられたサトミの口から漏れる湿って熱い息遣いで更に情欲を増幅させられ、脳髄を蝕むように囁かれるから(ユーザ名)おまけに から(ユーザ名)は遂に気が振れた。

「痛いの好きでしょう?私に暴力奮われるのが…好きですよね?」
「ああああ好きです!堪んねえ!!んがあぁ!!」
「あっは。んっ、本当に馬鹿…おまけに下品で、不様で、汚らわしい…貴方のことですよ、解りますぅ?!」

豚の様に這わされ背後から貫かれながら、髪を掴まれ振り回される。ブチブチと音を立てて引き抜かれる髪の痛みに益々股間を堅くしサトミのものも締め付ける。

「いいっ!最高っ!サトミさぁん!!そこもっと!」
「豚が私に命じるんじゃありませんよ」

顔面を叩き付けられるが、柔らかなベッドでは大した痛みはない。しかしサトミがそれを許す筈もなく、そのまま(ユーザ名)の顔面を糊のきいた木綿のシーツに強く擦り付け鼻面を擦りおろす。ぐいと首を捻曲げさせて、赤く剥けた鼻に噛み付いてから左目目がけて唾を吐き、色好きなニセメスのブタガキですねと歌うように言う。軽やかな声とは裏腹に、腰の動きは早く重くなり追い立てる。味わい捏ね回す動きは終わり、ゴリゴリと前立腺ばかり執拗に抉られて、(ユーザ名)の幼くなった身体は快感に耐え切れず、崩壊寸前の精神状態に追い込まれて白痴の如く白目を剥いて痙攣紛いに腰を振りたて、剥け切らない幼茎を誇示するように震わせる

「あ゛あ゛あ゛イキます!イキます死にますサトミさんサトミさんサトミさんぁ!イグヒィィッ!!イイイ゛イ゛ィぃィィ゛い゛いイ゛ィイィ゛ーーーッ!!!」
「本当に、豚そっくりです、ね…!でもまあ、良いです…そら、種付けですよっと!」

体内に飛沫く精液を感じるまで意識を保っていたかは怪しいもので、(ユーザ名)は気絶してぐちゃりと倒れこんだから、サトミが自ら抜くまでもなく幼い丸尻から陽物が抜ける。ぴくりともしない身体を興味が失せ切った焦点が遠退いた冷たい目で見てから、サトミは床に散らばった衣服を蹴り退けつつ一人シャワーを浴びに行った。





「いっ……たぁい、です…っ!」

生者の肌ではありえない白さの脚が抱え上げられ、堪えるように引き攣れている。白い太股に割って入っているのは浅黒い肌の男で、その引き締まった大柄な体躯は、下敷きにされている華奢な身体をより一層憐れに見せる

「聞いてるんですかっ…あ、いた、痛いですったら…も、抜いて、下さ……うぅ!」
「バカ、暴れんなって…力抜けバカ、こっちも痛てえんだよ!」
「馬鹿はどっちです……うあっ…!痛い、抜いて、抜いて下さい…もう無理…!」

人形の如く作り物めいた完璧に美しい顔が、痛みに堪えかね酷く歪む。歪んでいても変わらず美しく目尻に涙を滲ませる顔は寧ろその人工物的な印象を消して色気を感じさせるのだが、愛でるべき相手はそれどころではない様子で

「大人しくしてろっつの…!クソが、息吐けって!」
「無理…もう無理です……あ、あ、痛い、動けないです…」

貫かれている苦しさでただでさえ普段からしていない呼吸などマトモに出来ないと、陸に上げられた魚の様にパクパク口を動かして、白皙の男は一層顔を白くする。青醒めゆき焦点を跳ばしかけ抱えた脚が脱力して裂けそうに広がる姿を見て、凌辱していた男は舌を鳴らして身を離す。ずるりと抜ける男根の感触に痙攣し、細身の身体が小さく跳ねた

「しっかりしろよ…もう終わったろ」

心配一割苛つき九割の声に唸り声で返し、押し潰されていた男は下ろされた足をそろそろと伸ばした

「う…まだ痛いです…裂けてるんじゃないですか?」
「裂ける程入ってねえよ」
「でも痛いです」
「うるせえな、なら確かめてみりゃいいだろ」

鬱陶しいと言わんばかりに顔を背け、そのままベッドを降りて水を飲みに行った。男が帰ってくると、ベッドの上には膝を曲げて細い指で後腔を探る体育座りの男がいた。そのはしたないというか、あられもないというか、無邪気な姿に溜息を吐き、飲み差しの水を突き出してやった

「何ですかそれ」
「水以外の何に見えるんだ?飲めよ、喉乾いたろうが」
「いりません」

これまたどこか子供じみた動きで顔をふいと背けて、そのまま横に倒れて丸くなる。コップをサイドデスクに置いた男はベッドの足元に蹴り纏められていた毛布を掴んで、鼻を鳴らして縮こまる男に掛けてやった

「…悪かったから泣くなよ」
「しりません」
「吸血鬼ってんだからもっと遊んでるかと思ったんだって」
「わざわざ男と遊んだりしません」
「へえ、そんなもんかよ」

互いに背を向けたまま1人は横たわり1人は腰掛ける。吸血鬼だという男は暫し沈黙していたが、小さな非難がましい声で呟いた

「…初めてだって言いました、私」

煙草に火を点けたばかりの男はそれを無視するか迷う素振りを見せたが、結局返事をすることにしたらしい

「お前がいつもウソばっかり吐くから悪いんだぜ」
「嘘じゃないです!」
「あー、だからな、ウソっつーか、また悪趣味な冗談かと思ったんだっつの」
「……冗談じゃないです…嘘じゃないです…」

怒りで治まったかと思った涙がまた溢れてきたのか再び鼻を啜る音が聞こえ、遂に頭迄すっぽり被った毛布越しに丸まった身体が震えているのが見て取れる。正直、男はこの普段ふてぶてしい吸血鬼がここまで弱々しくなったのを見るのは初めてだったので、どうすればいいのか途方に暮れているようだ

「おーい」
「…」
「無視かよ。聞こえてんだろ?なんか言えって」
「…」
「……けっ、一丁前にヘソ曲げてんのか。女でもあるまいしよお?」
「…」
「まあ、好きに丸まってろや」

恐らくシャワーを浴びに行ったであろう男の足音を聞きながら、吸血鬼は益々丸くなる。彼とて別に好きで泣いている訳でもない。ただあんまりじゃないかと悲しくなっただけだ。元から二人は仲が悪い。種族的にも吸血鬼と狼男は仲が悪いものだし、個人的にも吸血鬼は狼男の荒っぽいところが気に食わなくて狼男は吸血鬼の我が儘なところが気に食わないのだから、まずこうして交合わろうとしたのが不思議だった。そして交合わろうと言われた理由が吸血鬼にはまた気に食わない。自分が溜まっているから、ヤり慣れているだろうお前のケツを貸せと、こんな具合に口説かれたからだ。先程も言っていたように、吸血鬼は女性との経験はそれなりにあれど男同士など考えたこともなかった。それを照れと馬鹿らしさで言葉短に伝えたところ、それでも良いと言われたのでどうにも後に引けなくなり、言われる通りに自分でベッドまで歩いて自分で服を脱ぎ、自分で膝裏を抱えたのだった。さて吸血鬼は実のところ、捻くれてはいたがスレてはいなかった。どこか無邪気で他者の愛を信じる向き
があった。今度もその無意識な期待は浮かんでいて、いつも殺しあっている仲の狼男でも初めての自分には優しくするだろうと疑いもせず無防備な姿で寝転がっていた。しかしその可愛らしい程の考えはあっさりと裏切られ、自分が処女を抱く時とは比べものにならない乱暴さで、ただ突き込まれた。まず心臓が動く程びっくりして、次に痛いと感じた。それから暫らく痛くて痛くて、前がよく見えなくなり、引き抜かれてやっと助かったと思ったらその後に悲しくなったのだ。吸血鬼は狼男を軽蔑した。初めての相手には優しくするものだというのが、闇のとはいえ貴族である彼の紳士なマナーだったからだ。お互いの仲の悪さを言えば愛の言葉はまあなくても良いとして、優しくとろかすキスもなく擽るような愛撫もない。前戯の一つせずに押し入るなんて女性相手にだって上手くいく筈がない…つまり、狼男は自分を怒らせても良いと、構わないから自分の欲を吐き出してしまえと考えていたことになる。吸血鬼はここまで考えて、もう一度狼男を軽蔑した。そしてまたべそをかいた。

「…うぅ」

小さく唸ってまたそっと下肢に手を差し延ばす。血は出ていないようだったがやはり痛みは残っていて、広がってしまったのではとまさぐり確かめようとする。恐る恐る指を這わすが以前の状態を知らないのでどうにも判断出来なかった。ふと息苦しさに気付き毛布をはぐって顔を出すと、寝室のドアが開いて狼男と目が合ってしまう。

「まだやってたのかよ」

呆れた顔を泣き顔で睨み、毛布を蹴り除け吸血鬼はシャワーを浴びに出ていった。狼男は溜息を吐いて毛布を拾いベッドの端に腰掛ける。ベッドサイドのコップの水が減っていないことに気付き、こりゃマジでまずいなと改めて思う。狼男とて罪悪感が無い訳ではない。さっきの気を失いかけていた吸血鬼は、何度殺そうとしても死なない奴がまさか死んじまうのじゃないかと少なからず焦ったのだから。おまけに泣き顔までサービスされてこっちは恐縮もんだと煙草に火を点ける。そういえばアイツはいつもなら喧しく嫌味を言う奴だが、どうも先程から無言なもので何を言えばいいかわからない…と考えたところで灰が落ち、床を汚した。そして吸血鬼の帰りが遅いと思い付き、貧血でも起こしたかと立ち上がって様子を見に行くことにして、普段なら見せない自分の気遣いにああこれは本当にまずいことをした…と独りごちた。しかし吸血鬼はとっくにシャワーを終えていて、ソファーで静かに眠っていた。聞こえない寝息を聞き取ろうとするように狼男は息を潜め、抱えてベッドに連れてい
こうか逡巡し、諦めて毛布を取りに寝室へ戻った。生きているのか死んでいるのか判らない、奇妙だが美しい身体に起こさぬよう毛布を被せ掛け、覗き込んでしまった顔にまた涙の跡を見付けてらしくもなく動揺する。一体いつまでコイツは泣いているんだと心の中で舌を打ち、どうすればいいのか途方に暮れた。呼気のない唇は桜色のまま半開いていてそれがまたやけに幼く見えるものだからいやがおうにも罪悪感は増していく。心中何度も舌打ちし、破れかぶれというように狼男は手を口にやり、その狼らしく鋭い牙で己の指を咬み破った。親指の先で玉になって浮かぶ血を零さぬよう吸血鬼の口元へ近寄せると、赤ん坊のように吸い付かれた。眠りながら口を尖らせちゅうちゅうちゅぱちゅぱと吸い舐めるところを見るとどうも疲れて腹が空いていたらしく、少しばかりの贖罪に安堵しようとしたが、吸血鬼はぽっと口を離してしまった。その後はしっかと口を閉じてしまい、血を口紅の然と塗り付けてやっても眠るばかりで反応が無い。諦めた狼男は乾かさずに眠ったらしい濡れた髪を水死
体のようだと胸の内で笑い、乾いた笑いを溜息と共に吐いて自分も寝るため寝室へ帰っていった。

朝になり、目覚めた吸血鬼は困っていた。この居間にあるカーテンがぴったり閉まっていないもので起きられないのだ。寝室には遮光カーテンがあるのにと日の光に怯えながら、暑苦しい毛布を避けたくて堪らないとはみ出ないよう気を付けつつ身を捩っていた。そこへ起きてきた狼男が蠢く毛布の真意に気付き、カーテンの隙間を閉じてやったが吸血鬼はピタリと身じろぎを止め、していない息を殺していた。狼男は暫らく待ったが、やがて諦めどこかへ立ち去る。そうしてやっと吸血鬼は毛布を刎ね除け必要性のない深呼吸をした。その拍子に口の周りが何だか美味しいことに気付いてぼんやり無心に舐めていたがややあって自分が何も着ていないのを思い出し、クローゼットへ向かうことにしたらしい。吸血鬼がもそもそと面倒な服を着ている頃、狼男は火の着いていない煙草をくわえたまま冷蔵庫前でたちすくんでいた。空腹を満たそうと台所に来たはいいが、何だか頭がごちゃごちゃしていて、何を食えば良いのか分からなかった。なんとなしに冷蔵庫の扉を開けぼんやり中を眺めながら
、その何もなさっぷりに氷河期時代まで思いを馳せつつまたなんとなしに扉を閉め、もう一度開けてハムの塊を取り出しナイフを取ろうと振り向けばそこには吸血鬼がいた。相変わらず無言のままワインセラーから赤いワインを一本引き出しコルク抜きには頼らず栓を引っこ抜き、グラスも使わずそのまま口をつけて煽る飲み方は赤ん坊に哺乳瓶を与えた姿に似ていたものだから、もしかしたらコイツはショックのあまり幼児退行をしたのではなかろうか…と狼男はまた混乱した。吸血鬼は狼男を無視することに決めたらしい。そちらを向こうともせず開いた瓶を乱暴にシンクへ転がして出ていった。狼男は追い掛けようとしたが一歩も踏み出さずにとりやめにして、刃のこぼれてきた包丁でハムをザクザク切り分けた。荒く刻まれたハムをつまみに冷蔵庫からビールを出してぼんやり飲む。また吸血鬼のことを考えるが、しかし自分は何度か謝ったのだからこれ以上は知ったことではないと結論付けてビールの缶を握り潰し、捻り潰し、最後にはその怪力で丸い玉にしてしまってから窓の外へ放り
投げた。吸血鬼は日中どうも身体がだるいから、また横になっていた。今度は遮光のカーテンがしっかり守る寝室で、隣にある狼男のベッドを睨み付けながらカチカチと牙を鳴らしている。あのベッドでひどい目に遭った…見たくもない、やはり寝室は別にすべきだと歯噛みしながら模様替えを画策しているが、そもそもこうして犬猿の仲の二人が共同の寝室なのも吸血鬼が狼男を殺そうと寝込みを襲うせいで、それはフェアではないからと互いの条件を同じにした結果だった。そんなことは吸血鬼の知ったことではなくまだイライラ歯を鳴らしている。だが先程より眉尻は下がりどこか悲しそうな顔で幾度か瞬きをすると、目を閉じて眠り込んでしまった。そしてそれ以来、吸血鬼は目を覚まさない。狼男は何度か揺すって起こそうとしたが全て徒労に終わり吸血鬼はもう二月眠りこけている。眠り姫でも気取っているのかと馬鹿にしてやるがそ知らぬ顔で眠り続けれる吸血鬼は眠り姫どころか死体でしかなく、腐らないから寧ろただの人形だと考えながら狼男はハタキで埃をほろってやった。段
ボールに詰めて川に流してやろうかとも思ったが、傷付いた顔で静かに眠る姿を見るとまあそこまですることもないだろうと物置に押し込めるだけにしていた。がらくたの中で転がる吸血鬼はあまりにも美しくて、狼男でなければ感傷的な感動に浸れただろうけれど、残念なことに観客は狼男しかいなかったので結局吸血鬼はがらくたでしかなかった。実際、狼男は吸血鬼が眠っていた方が都合も良かったのだ。なまじ起きて無言を貫かれるよりも眠って何も言わない方が余程精神衛生上まともだったので、本当のところ、随分助かっていた。偶にこうしてがらくたの中から拾い上げ埃を払うだけを繰り返すばかりかと思っていたが、今日に限って狼男は気紛れを起こしたのか、人形の着せ替えをしてやろうと抱え上げ寝室へ運び入れた。長いこと使わなかった吸血鬼のベッドにその持ち主を横たえ、着替えを取りに行こうと身を起こしかけて気付いたことがある。狼男は驚いた。吸血鬼に欲情していた。それも性欲の捌け口ではなく、ただ純粋に、吸血鬼を抱きたいと思った。あの時とは違い、吸血鬼は代用品ではなく、目的そのものだった。少し埃っぽい髪を撫で、冷たく白い頬に自分でも笑える程優しいキスをする。眠り続けて嫌がらない吸血鬼に気を良くし、調子付いて今度は唇を柔らかく噛み、歯列を舌でなぞり静かに吸いたてる。早急に胸元を寛げようとする己の早い手を押さえ、気付かれないくらいの穏やかさで貝ボタンを一つ一つ外
した。次第に露になる雪の肌でいやがおうにも胸ははやり堪らず首筋に吸い付いた。牙で傷を付けないよう慎重に噛み、吸い、舌を這わせる。首を反らせて喉を舐め上げながらもどかしく前を開けさせると、それでも優しく頭を支えて持ち上げ邪魔なシャツを脱がしてしまう。白滋の肌を晒しても吸血鬼は未だ目覚めず、狼男の武骨で大きな手が押し付けられるように這い回っても身動き一つしなかった。薄く開いた唇に舌を差し入れ背中にまで回した手を背中の窪みに沿って下から撫で上げ、熱烈な求めを堪えるように優しく抱き締める。自分よりも随分細身の身体を壊れ物のように思わされ、狼男はますますそっとキスをする。色すら殆どついていないささやかに過ぎる胸の飾りへ息を吹き掛け、吸い付いて、もう片方は指で摘み出すように揉むが吸血鬼に反応はない。深く悲しげに眠ったまま、乳首も色付きもせず幼い外見のままだった。狼男は吸血鬼の小さな臍を暫くくじっていたが、ややあって躊躇いつつベルトに手を掛けた。金具の音がしないくらいにそろそろと外され腰は回された手
に持ち上げられ、ズルズルとベルトは引き抜かれる。そのままズボンを引き下ろすかと思いきやまた静かな触れるだけのキスを落とし、目尻を舐めながらやわやわ服越しに吸血鬼の陰部を刺激する。立ち上がる気配のないそれから手を離し、今度こそ裸に剥き上げた。素裸になった吸血鬼は痛々しいくらいに美しく、それを人目から隠すように狼男は抱き締めた。胡坐をかいて横抱きに抱え薄い身体を撫で擦り、何も聞かない耳に口付けて、震えてしまう程小さく幽かに囁いた

「…綺麗なもんだ」

脇腹を擦り肉の下にある肋を愛でてから、俯いた顔をそっと顎に手を添え上向かせる。綺麗な顔は上気もせず僅かに眉をひそめたまま陰のある表情を凍り付かせていたから、狼男はまたそっと頬に手を当て俯かせた。こうべを垂れた吸血鬼の伏せられた長い睫毛に目を奪われ一層胸に抱き寄せたけれど、目覚めていた頃のように蝶の羽ばたきに似たたをたをしい瞬きは見られなかった。こんな風にじっくりと見た覚えなどないのにどうしてコイツの瞬きなんぞ覚えているのか…と狼男は不思議がるが、ならば思い出そうとすると何故か朧に記憶は掻き消えもはや吸血鬼が目を開けていた顔も思い出せない。目下で泣き出しそうに下を向いている吸血鬼だけが狼男の知る全ての吸血鬼で、そして狼男は吸血鬼を喜ばせる方法など思い付かなかった。正直、こうして優しく抱いてやれば目を覚ますのではないかと単純な吸血鬼しか知らない狼男は思っていたのだけれど、吸血鬼が悲しい理由はそこまで単純なものではなく、今更優しくされてもあの酷い初夜は変わらない…と、吸血鬼が起きていれば言っ
たかもしれないし、黙ったままだったかもしれない。可哀想な吸血鬼は悲しいまま、もう長いこと悲しい夢の中にいる。そして、その夢を作った張本人も吸血鬼をそこから出してやる方法を知らないのだから、全く吸血鬼は可哀想だった。ところで狼男は始めからずっと痛いくらい勃起している。吸血鬼の白く細くしなやかな指と白く柔らかく滑やかな掌に握らせて扱こうかという魅力的な考えはとっくに思い付いていたし、吸血鬼のとろけるように甘い赤い舌を中に潜ませる小さな口に差し入れて粘膜を堪能しようかとも数えきれない程誘惑されていた。しかしどれも吸血鬼の肢体を使って欲を吐くだけの、犯すよりも無体なことだと抑えていた。抑えつけて、狼男は吸血鬼に服を着せ始めた。どれ程優しく抱いても吸血鬼は目を覚まさないだろうしこのまま裸にしていたらいつあの夜のように手荒に捻込むか分かったものではなかったから、せめて同じ痛みを与えないよう、それでも時折名残惜しげにキスを落としながら一番上のボタンまで止めてやり、どんなに抱き締めても温まらない華奢な
身体を抱いて眠った。その晩、夢に吸血鬼が出て来た。吸血鬼は人の夢に入るとは知っていたが、狼男の夢にも入れるとは知らなかったと狼男は毛布の塊を眺めて思う。

「…おい」
「…」

吸血鬼は夢の中でも黙りだった。偶に鼻を鳴らす音とえづいて毛布が揺れるだけで、もしかしたら吸血鬼ではない誰かかもしれない。狼男が傍に寄りせめて顔だけは見ようと毛布に手を掛けたが中でしっかり包んでいるらしく、ぐいと引いても微動だにしない

「お前、誰なんだよ」
「…貴方こそ、誰ですか?」

久し振りだったが、それは紛れもなく吸血鬼の声だった。毛布で籠もり涙混じりの声だけれども確かに吸血鬼のそれだったから狼男は少し嬉しくなって毛布ごと肩辺りを抱き寄せた

「誰っておい、声で解んだろ?なあ、吸血鬼」
「…分からない、ですよ?貴方は、私を知っているんですね…私は、貴方を知っているんですか?」

どこかしら切実で縋るようなその言葉にウソがあるとは思えず、狼男は硬直した。どうもコイツは俺を忘れているらしい…狼男は質問に答えず代わりに質問してみた。

「お前…なんで泣いてるんだ」
「…笑いません?」
「ああ」
「……私が…駄目だから、です…」

狼男は首を傾げる。駄目って何がだと聞く前に、吸血鬼がまた話し出す

「私が駄目だから、優しくされなかったんです…」

今度は胸が詰まる。やはり自分が強引に犯したことが原因だと伺わせる言葉だったから。しかし、どうも納得がいかない。吸血鬼は自分を責めるような殊勝な性格ではないのだから、こうして引き籠もるのはどうしてか…いったい何が駄目なのか、狼男にはわからない

「駄目って何がなんだ?」
「知らないです。きっと、私が私だからです。私じゃなかったら、優しくするんです。そういう卑怯者なんです、あの男は」

狼男は考える。あの時はまさか本当にコイツが初めてなのだと思わなかったからさっさと抱こうとしたが、もし信じていたら、優しく抱いただろうかと。今更考えても答えは出ないが、どちらにせよ吸血鬼は腹を立てている。

「…ソイツのことは嫌いなのか?」
「大嫌いです!前からずっと大嫌いでした!」

狼男は困惑する。好きな相手に傷付けられたならわかるが、嫌いな相手に傷付けられて自分を責めるとはよくわからない。

「ならいいじゃねえか。そんな奴に優しくされなかったからって、お前は駄目じゃねえだろう」
「………駄目です…」

またも吸血鬼は声に力が無くなった。意気消沈とばかりに毛布の盛り上がりは沈み、小さくなる

「私が駄目だから…あの男は反省しないんです。もう嫌です、きっと今も馬鹿にしてるんです。私はびっくりしたのに」

声が震え始め、ますます堅くなる。狼男は回した手に力を入れてそっと吸血鬼を引き寄せた。ほんの少ししか近付かなかったけれど、吸血鬼がかたかたと震えているのがわかるようになったから、狼男男は殊更優しく話し掛ける

「ソイツが反省したら、お前の気は済むのかよ?」

吸血鬼は暫らく考えるように黙り込んだが、ややあって小さな声で返事をした

「…済まないです…多分、ですけど」
「そんならどうすりゃ済むんだ?言えよ、その男って奴に何が何でもやらせてやる」

吸血鬼はまた沈黙し、何かを考え始めたらしい。それは大分長く掛かりそうだったけれど狼男は今気強く待った。この可哀相な吸血鬼の為に、何が何でも、言われたことをやってやるつもりだった。死ねと言われても従ったかもしれない。でも、吸血鬼の望みは違った

「…私は……私は、私のことを、ちゃんと…その…私だから、嘘を吐くとか、そう思って欲しくないです…ちゃんと、話を聞いて欲しい……言ったのに、反応しないなんて嫌です…私は、ちゃんと話してるのに、聞かないで、使われるだけは…嫌です…」

実に要領を得ない話だが、だからこそ狼男には意味が通じた。自分を見ろ、話を聞け、それに反応しろ…ただそれだけの要求だった。愛せとか死ねとか大きなことではない、ささやかなささやかな交流の望み。拒まないでくれと延ばされた腕。仲が悪いなんてだけの理由から、こんなに些細なことすら否定していたのかと狼男は自戒した

「ああ、解ったよ。そうだお前にはその権利があるんだな」
「そう…です。権利、あります…」
「大丈夫だ、もう大丈夫だからな。ソイツのところに行って、散々嫌味を言ってやればいい。きっとお前に詫びたり機嫌とったりするだろうよ。なあ、吸血鬼、もう大丈夫だ」

いつもよりも冗舌に、そしていつもよりも熱心に狼男を喋り掛ける。いつもの聞いても聞かなくても構わないと言うような独り言に近い言葉ではなく、吸血鬼の心に届くことを望んだ言葉で、それは確かに吸血鬼にも伝わった

「…優しいですね、貴方…」

堅牢だった毛布から白い手がそろそろと差し出てきて狼男が肩に回していた手を探り、雨上がりの蜘蛛の巣が蝶を捕まえるくらいの柔らかさでそっと握った

「でも狼男は、貴方みたいに優しい男じゃないんです。だから、もう良いんです。もう、帰らないことに決めました」

諦めた声は甘く儚く夢見心地の響きだった。掴んでいた手はまたそろそろと毛布の端から引き込まれていく

「ありがとう御座いました。貴方に優しくして貰えて、本当に嬉しかったです。…つまらない話に付き合わせてごめんなさい…もう十分です。ありがとう」

狼男が待てと叫ぶ前に毛布はぺしゃりと潰れて抱いていた腕は宙を掻く。吸血鬼は消えてしまい、残されたのは薔薇の香りが移った毛布だけだった。狼男は大声吸血鬼を喚んだけれど暗闇に溶けて反響すらしなかったから、本当に叫べたかも分からなかった。そして狼男は目を覚ました。夢と同じに薔薇の香りが移った毛布を残して、吸血鬼は消えていた。狼男は愚かな自分に怒号を上げて吠えたくる。どうしてアイツに自分こそが狼男と告げなかったのか、お前が優しいと言ったのはこの狼男だったのだ、ああそうだ、結局自分は吸血鬼を見なかったじゃないか、自分を見せなかったじゃないか、アイツを騙したままだった!

「吸血鬼、吸血鬼!もう一度だ、あと一度だけ!」

狼男は壁に頭を打ち付け気絶までして眠ったけれど、吸血鬼は消えてしまったから、もう二度と夢に出てくることはなかった。

それから数えて、百年過ぎた

一人で住むには広過ぎる家を狼男は引き払えないでいた。吸血鬼の残した諸々を片付けたくなかったし良いとは言えないが思い出の残る場所は此処だけだったし、そして一番ひっそりとした理由は、もし万一吸血鬼が戻ってきた時もぬけの殻には出来ないと、そんな一縷の望みがここに残る訳だった。人外の存在は毎日が休みのようなもので、この百年狼男は日がな一日ひねもすのたり吸血鬼のことばかり考えていた。死んだ子の年を数える馬鹿馬鹿しさも気に掛けず、どんな顔で、どんな声で、どんな仕草をしていたか、そんなことばかり気に掛けていて。それは吸血鬼がいた頃よりもはっきり確かに意識していた。そして今日も狼男は吸血鬼の服を手入れし物置の柩を掃除しワインセラーの管理をする。今日は特に念入りだったから全部が終わる頃には日が傾く程となっていて、狼男はああ今日はアイツのことを思い出す時間が少なくなってしまった…と考えながら瞑想部屋兼寝室へと入って行った。そして部屋の片隅に何かの塊を見付ける。団子になったそれはいつかと同じ岩戸のような毛布だったから狼男は人外の自分も気が狂えたのかと感心した。ともかくあまりに懐かしくて愛おしくて狼男はその妄想の団子に近付いた。正面に座り、恐る恐る、けれど堪えきれない喜びを込めて声をかける

「…吸血鬼だよな?」
「はい。…覚えていてくれたのですね」

記憶と寸分違わぬその声に胸が詰まって何も言えなくなった。吸血鬼は相変わらず毛布に包まったまま密やかに語る

「私も、貴方を覚えています。優しくて、あの時は本当に嬉しかったから…」
「吸血鬼」
「でも貴方は、どうしてそんなに、優しくしてくれるんですか?あんまり優しいから、私、また生まれてきてしまいました」

また生まれてきた?夢じゃないのかこれは。狼男は混乱する。吸血鬼は毛布を被っていて狼男が混乱してるなんて気付けないから、構わず話を続けた

「どうして、無から生み出せるくらい、貴方は私を知っているんでしょう。あの時も、貴方は最初から私を知っていました」
「ああ…ああ吸血鬼、それはな」
「貴方は一体、誰なんですか?優しい貴方は、誰なんですか?」

狼男は岩戸の毛布の端から呆気なく静かに両手を差し入れて、驚かさぬよう吸血鬼のひんやりした頬を挟んだ。ゆっくりと顔を上向けさせると、毛布はずり落ち、白い美貌が現れた。赤ん坊のように無垢な瞳はまだ状況を理解出来ずに、ただ狼男を見詰めていたから、狼男は思いを込めて

「俺だよ、吸血鬼」

そう告げてから、優しく優しく、吸血鬼にキスをした。離れた時には吸血鬼はとても驚いた顔になっていたけど、そんな吸血鬼の感情や考えていることに興味津々な自分が可笑しくて、コイツはこんなに分かりやすい奴だったのだと改めて知れたことが嬉しくて、狼男は思わず浮かれてこう言った

「吸血鬼、吸血鬼、俺はお前を愛してるんだぜ」

吸血鬼は息をする程驚いて口を開け閉めしながら、思わず昔のように、私は貴方みたいに荒っぽくて人の気持ちを考えない狼男なんて大嫌い…と言おうとしたけど、目の前の狼男は優しい顔で自分を興味深気に見詰めていて、まるで嫌いな理由に合致していなかったので吸血鬼は困ってしまい小さくああそうなんですかと呟いて下を向いてしまった。吸血鬼は本当にあの優しい人が狼男だったのかとまだ疑っていたのだけれど、今肩に回ってきた腕があの優しい腕と同じだったから疑う余地などなかったのだった。狼男は浮かれ顔のまま吸血鬼の頬にキスをして、浮かれた声で語り掛ける

「なあ、もっとなんか言えよ。あの時の事詰ったって良い。夢の時に言ったろ?気が済むまで詫びるし高いワインも買ってある。ほら、言えよ吸血鬼。お前の声が聞きたいんだ、お前の話が聞きたいんだ。百年待ったんだぞ俺は!」
「わ…私は…!」
「お、言うのか?どうした、続けろよ。聞かせてくれ、ああ、綺麗な奴だな吸血鬼」

吸血鬼はほんの少し言い淀んでから、意を決して言い切った

「私は、優しくされたいです」

狼男は大喜びでするともするともと安請け合いしたものだから無邪気な吸血鬼はにっこりして、纏っていた毛布を振り捨て素肌を晒して狼男の首ったまにしがみついた。そうして、ほんの少しだけ意地悪な声で尋ねる

「もう初めてじゃないですけど、それでも優しくしてくれるんですか?」
「するする、お前が大事だから。お前が優しくされたがってるから」

狼男の浮かれと安請け合いは吸血鬼を上機嫌にさせる。縋り付き甘えて優しく可愛がってくれと全身を使いねだりついた。その吸血鬼の思いが届いていて、狼男がそれを信じている証拠に、狼男は吸血鬼を優しく抱き上げあやしながらベッドに運ぶ。洗い晒しのシーツへ大変素直に寝かされ自分で膝裏を持ち上げる吸血鬼にのしかかりながら狼男が燻るように囁いた

「今度は快くしてやるぜ?抜かないでっておねだりするくらいによ」

そして事実その通りになり、穏やかで幽かな愛撫から始まったそれは吸血鬼がとろける程に激しさを増していき、蝕むように押し入られた時には恥じらいも忘れて吸血鬼は腰をくねらせた。狼男は全て入り込ませてしまってからも動こうとしなかった。じっと吸血鬼の様子を伺い、吸血鬼が堪え切れずに腰を押しつけたのを見て、漸くゆっくり動き出す。けれどもそれも抽送というより揺さ振ると言った方が近いもので、そのもどかしさはすっかり官能の火を灯された吸血鬼には歯痒くて堪らない

「ああ、ああ、狼男さん!もう、優し過ぎます…!」

こうまで昂ぶらせたのだから寧ろ乱暴なくらいに突いてくれた方が優しいのだと涙目になって吸血鬼は訴える。それでも狼男は不安が拭えないのか、戸惑ったように揺さ振りすら止めてしまった。そうして実に優しい声で痛くはないかと尋ねるものだから、吸血鬼はもうどうすれば良いか分からなくなりとうとう本当に泣き出してしまいながら狼男にしがみ付いて泣き叫んだ

「痛くないです!気持ちいいです!ああ、やめないで、もっとして下さい、犯して下さい!気持ち良くして欲しいんです!もう、もう…ああっ!早く滅茶苦茶にして下さい!!」

首に手を掛け足を回して全身で縋り付き、壊れたように腰を振る吸血鬼に漸く求められていることを気付かされたのか、狼男は今度こそ容赦なく犯しぬく。吸血鬼のあえかな嬌声は狼男の獣性を燃え上がらせ、望み通りに滅茶苦茶に突かれ、掻き回され、吸血鬼はもう何が何だか分からなくなって狼男を呼びながら涙を流してよがりたくる。爪を立て、腰を振り、首筋をはみ、喘ぎ、狼男の大きなそれを締め付ける

「いい!いいです、ああ!いや、駄目、止めないで!抜かないで!気持ち良いです、狼男さん、狼男さん!」
「くっ…は、初めての時とは、えらく、違うじゃねえ、か…!」
「だって、あん!お、狼男さんがぁっ、優しいから!気持ち良いんです…!」

感じ過ぎて訳が分からないが、それでも狼男に話し掛けられれば律儀に健気な返事を返す。しかしそれももう出来ないくらいに吸血鬼は高みへ押し上げられ、狼男を吸血鬼を呼びながら突き入れるしか余裕が無い

「や、あっ!あっ!駄目、イきます!もう駄目駄目駄目!!」
「イけよ…!イッちまえ、おらっ!」
「ああっ!?いやぁ、駄目!いやっ!」
「っ、…あぁ…?」
「いや…あはあ!狼男さ、お願い…っ!あ、一緒にぃ…!」

こんなに従順で可愛くねだる吸血鬼等狼男は夢にも見たことがなかったから、思わず赤く喘ぐ唇に噛み付くようなキスをして、腰を一層抱え上げて激しく強く深くを貫く。吸血鬼の悲鳴を喉の奥に感じながら残りの力を振り絞り獣に唸り突き込めば、吸血鬼の絶頂と共に熱く飛沫を注ぎ込んだ。お互いに力尽きて暫くぐったりと放心していたが、先に狼男が我に返り押し潰していた吸血鬼から慌てて離れる

「…吸血鬼…?」

散々喘ぎ叫んだ名残か荒く息を吐き頬を上気させ汗まで流した吸血鬼はまるで生者の様だったけれど、力無く横たわって遠くを見つめる姿は死にかけの病人にも似ていたから狼男は恐ろしくなって、そっと頬を撫でてやった。その感触に正気付いたのか吸血鬼はパチパチと瞬きし、横向いていた顔を狼男に向けて柔らかな溜め息を吐きながら微笑んだ。そのあんまりな美しさに狼男はもう一戦挑み掛かるところだった。けれど紳士に髪を撫でてキスをしてやるだけでこの疲れ果てた男を可愛がることにしたらしい

「大丈夫か?」
「ん…平気です。でも…」
「なんだよ…止めるな、聞かせろって」
「や、ん…言いますから……あ」

とはいえちょこちょこと未だ敏感な身体を弄る手は止まらず自分で迫った言葉の続きは止まる。吸血鬼は身を捩って悪戯から逃げるがシーツに擦れても高い声が出る。本性を顕わしかけどんどん大胆に撫で回してくる狼男を睨んでからにやりと笑って抱き付いた。一体化されどうにもまさぐれなくなった狼男は諦めて、吸血鬼の言葉を促した

「でも、なんだよ」

狼男の首筋に頬を擦り付け吸血鬼は暫くはぐらかしていたが、腰の窪みをさすられ急かされ身を跳ねさせて矯声を上げさせられると観念したのかおずおずと口を開いてみせる

「……大丈夫ですけど…でも、その、明日はきっと動けないです。だから…あの…明日は……」

狼男は自分の下で遠慮がちに小さくなっている吸血鬼が可愛くて堪らなくなりおとがいを捉まえてキスをしてから、胸の内を言い当ててやることにしたらしい

「世話焼いてくれってか」
「…嫌ですか?」
「んな訳ねえだろう?安心しろよ。明日はまずシャワーだな、汚しちまったから精々隈無く中まで綺麗に洗ってやらねえと。それから飯か、あのワインは冷やして飲むより口移しの方が良さそうだ…」

吸血鬼はいつの間にやら狼男の腕を枕にされていて、狼男の暖かな胸の中で髪を撫でられ囁かれるから疲れた身体ははやうとうとと眠りかけている。今にもことんと眠りにつこうとする吸血鬼に狼男も目を細めてああ可愛いもんだと思っていてすっかり忘れていたのだが、吸血鬼は元来強かだった。今にも閉じそうな瞼を無理に抉じ開けたかと思えばぐいと首を延ばして狼男の首筋に噛み付いて、鋭い牙で狼男の堅い肌に穴を開け吹き出た血に喉を鳴らしてこくこく飲み、やがて力尽きたか噛み付いたまま眠ってしまった。狼男は百年ぶりの吸血鬼の激しさに少々かたまってから、そんな吸血鬼の頭をそっと外して抱え直し、明日には調子を取り戻しているだろうコイツに一体どれだけ我儘を言われるだろうかと苦笑しながら目を閉じた。




「(ユーザ名)、何ですかそれは?」
「…ラブドールじゃないですか」
「相変わらず最低ですこと。脳の代わりに丸めたティッシュでも入っているんでしょう」
「よく見れば男なのですね」
「最近のオリエントは女性以外の鋳型も発注し始めたんですか。世も末です」
「…特注?これだから恋人に金を使わずに済む独り者は」
「………」
「これ、私に似ていませんか」
「聞いてんですかクズ、こっち向きなさい。とぼけようたって無駄ですよ」
「…ふん。バッカじゃないですかね。私はもっと美しいです」
「こんな出来損ないに幾ら使ったんですか?」
「…馬鹿ですねえ。こんな高が人形を弄くり回すくらいなら」
「……私の方が」
「? 何です、何も言ってませんよ」


少し寒いけれど、鳥肌が立つ程でもない。あの人形は顔こそそっくりとはいかなかったが、身長体型は私と寸分違わなかったらしく、入れ代わりに収まった箱はそれなりに楽だった。だから、別に無理をしてなどはいないのです。無理をする程の価値はない。ただちょっとだけ、人形ごっこをしてみたかったのです。

それからどれだけ経っただろうか。うとうと仕掛けた丁度その時、(ユーザ名)のいやらしく熱い手が私の二の腕を掴んだ。馬鹿だからまだ気付いていない。それともオリエント工業の技術力を評価するべきなのか等と考えている間に引き起こされてお互いの顔が近付いたから、熱い息が頬にかかる、殺した息が聞こえる。流石にそこまで馬鹿ではないらしい。熱かった手の平が急に冷えて強張った。それでも私は人形の振りをし続ける。目を閉じて、呼吸は小さく浅く、関節一つ動かさない。チキンな(ユーザ名)はそれでも躊躇い何度も唾を飲み喉を鳴らして逡巡していたけれど、今漸く私を人形として扱うと腹を決めたようだ。(ユーザ名)でも空気が読めるのですね。抱き上げた時よろけたのは、褒美に不問としてやります。
ベッドに上げて調子に乗ったか(ユーザ名)が私の四肢を好きなように動かし始め、両腕揃えて頭の上に押さえ付けたり膝を立たせて開脚させたり散々卑猥に玩具としていましたが、人形の私は抵抗出来ません。下世話な遊びを拒めないままただ動かされ(ユーザ名)の目を楽しませて、無遠慮にじろじろと肌に感じる視線から逃れる術もないのです。殆ど迷い無く様々な姿態を取らされるので、普段からこんな格好にさせたがっていたのかと思うと恥ずかしく、顔が火照るのを抑えられない。
暫く間を置いてから、関節にばかり触れていた手が、躊躇いがちに胸元を撫でた。脇腹をなぞり、腰骨に触れ、全身で覆い被さり首筋へキスが落ちてくる。抱き締められて体温を感じるけれど、卑怯にも(ユーザ名)はまだ上半身しか脱いでいないようで、人を好き放題に辱めても自分が脱ぐのは嫌ですか。良い身分です。ああまたそんな、太股の内側を撫で擦るなんて!私の弱い所をなぞるから、身体がひくひく震えてしまう。もうばれているとはいえ、私は人形でいなければなりません。我慢しようと頑張るのに、背中に回った手で腰の窪みを撫で擦られたら腰はひくんと跳ね上がる。解っているくせに(ユーザ名)はそこばかり撫で回し始めて、私などより余程意地が悪いです。死んでしまえば良いのに。
喘いだ吐息は音とならない代わりに(ユーザ名)のどこかへ掛かったらしく、性急に髪を掴まれ首を反らされ塞がれるように唇が重ねられ、舌が吐き気の起きる程深く入り込んだから、喉の奥で押さえ込んでいた悲鳴が響きやしないかと私は更に困らなければならなくなりました。半ば起ち上がっていたものも脚の間に割り入った大腿で刺激され、臍には(ユーザ名)の興奮しきったものが布越しに当たり、もうやるならさっさとやって下さいと思ったのが伝わったのか(ユーザ名)のベルトがカチャカチャ緩む音がして、なにやらごそごそもぞもぞもっとスマートにやれないのですか?私にちょっかいを出しながら脱ぐから遅いのです。
少し離れた所から、ぴちゃりと粘着質な水音がした。たぶん人形に使おうと用意していたローションなんでしょう。相変わらず碌でもないことにばかり用意周到な人間で、おまけにとんだチキン野郎なので下腹部に塗り込めるかと思えばまた日和ってぬらついた指でこめかみ辺りを撫で出すのでいい加減に根性を出せと言ってやりたい。私はもう、色々切なくって堪らないのですから。べたべたの手で腰を抱えたり臍に指を入れたり躊躇っているのかただの変態なのか判らない行為はもういいです。大体見りゃ判るでしょう?どこを触って欲しいかくらい!
やっと気付いたか腹を括ったか、首でも括って私を待たせた愚行を反省しなさい。先走りで塗れていたのが更にローションで滑りが良くなり、扱かれ揉まれそろそろ無表情ではいられない。きっと今の私は唇を噛み締め眉を寄せて、目を固く瞑り真っ赤になって、酷く滑稽な顔だろう。せめて声を出すことだけはするまいと、必死になっているのがまた馬鹿馬鹿しい。知ってか知らずか(ユーザ名)は私が感じ易い場所と責め方で嬲り続け、鈴口をこじられた時には喉が鳩のようにクウクウ鳴ってしまった。幸い聞き付けられなかったらしいですが、後ろに指が伸びてきた今、あとどれだけ耐えられるでしょうか。
右の膝裏を持ち上げられ、あられもない姿ではしたない所を解される。その行為だけで最早人形扱いされていないのが解るのだけど、それでも尚人形の振りを続ける私はどう思われているのやら。場数を踏んでいる私は力の抜き方も知っているから稚拙な指も容易く受け入れて、童貞の(ユーザ名)には丁度良い相手な筈ですが、身の程知らずのこの馬鹿のことですから中古は嫌だの何だの言いそうです。言ったら即刻頭蓋骨をぶち割ってやります。と他のことを考え考え気を逸らしても中で蠢く指から逃げられる訳もなく、腹側を抉るようにされる度爪先を縮めて大きく息を吐き喘ぎ声を逃がす。首を仰け反らせ、頭頂部に近い後頭部を枕にぐいぐい押し付ける頃には指が三本に増えていて、人形の振りを殆ど諦めシーツを千切りそうに握り締める頃には、広げる動きからズボズボとピストンされる動きに変わっていた。ああ今度掻き回されたら声が出てしまうという時に(ユーザ名)の指がすべて引き抜かれ、ふいに放り出されたから思わず目を開けかけてしまいました。結局堪えましたが、腰が指を追って突き出してしまったのはもうどうしようもない。
中途半端にされた切なさとやっと与えられた休息とが内混ぜになっているところに今度は両膝を持ち上げられ、恐らく、たぶん、その、(ユーザ名)のものがあてがわれました。待ち兼ねてひくつき誘う私の後ろはどれ程淫乱に見えているだろう。押さえようとしても左右に尻を振りたてるのが止められない。(ユーザ名)は擦り付けるばかりでいっかな入れる気配もなく、もう受け身の振りはやめてしまおうか、入れて欲しいと声を出してしまおうか、(ユーザ名)、(ユーザ名)!ああもう早く!
次の瞬間、ズブリと犯された。
唐突過ぎて頭が白くなり、暫くしてからどこかであっ、あっ、と卑猥なしゃっくりが聞こえて、それが自分の声だと気付くのにかなり掛かった。想像していたより太くて堅くて熱くて何よりいつまで経っても奥に奥に入ってきて、見開いている筈の目には何も写らない。目を回す私に(ユーザ名)が手を繋いでくれたから、それを頼りに意識を戻そうとするのだがうまくいかない。見兼ねたのか挿入を中断した(ユーザ名)の呼び掛けでようやく息を吹き返す。大丈夫かとの問いに答えるのが恥ずかしくて、また人形ごっこのふりをしたけれど、もう人形らしいところなど殆どの残っていなかった。最近の技術力はすごいなあなんて白々しいフォローも余計に恥ずかしく、恥ずかしくてもまだまだ飲み込む余地があると後腔はきゅんきゅんきゅうきゅう(ユーザ名)を締め付け、横目で伺えば(ユーザ名)も息を荒げてギラギラした目で見つめてきていてそれでも気を使ってか腰を進めずに、そうですこんな状態のままお預けを食わせてやるのも流石に哀れですから続けて良いと言ってやることにしましょう。渇いた喉を広げて、唇を舐めて、さあ、今!

「…(ユーザ名)…」

その後が、続けられない。死に掛けの金魚の様に口をパクパクするばかりで、声にならない。思い通りにならないのは大嫌いです。私の思い通りになるよう察して行動するのが犬の役目でしょうにこの鈍い馬鹿は、不思議そうな顔で荒い息を吐いている。物欲しげな目で見つめているだろうに、どうしてこの馬鹿は言われなければ解らないのか

「(ユーザ名)…」

でも馬鹿の名前を愛おしそうに切なく呼ぶ私も相当な馬鹿で、馬鹿なら馬鹿をやっても許されるのです。



「(ユーザ名)、私、私……もう…っい、入れて下さい、全部…!」



その一瞬(ユーザ名)が笑った様に見えたけれど、直ぐに貫き通されたから衝撃で何も解らなくなる。律動は激し過ぎて突き上げられてどこかに行ってしまいそうで怖くて、首にしがみ付き、脚を絡ませて、ベッドのバネが馬鹿になる程腰を振る。耳元で善がり声を喧しく上げているのに(ユーザ名)は文句も言わず、代わりに私の名前を呼んで私が好きだと愛していると何度も何度も言い続けるから涙が出てきて、もうイッてしまいそうなのを一緒にイきたいから必死に堪えるのに、(ユーザ名)ときたらここがいいんですかだの今すごい締まりましたねそんなにいいんですかだの言いながら容赦無しに責め立てて、サトミさんの中絡んできて堪んないですだのサトミさんが感じてる顔想像以上に可愛いですだの囁くから限界で、全身がガクガク痙攣する。いや、駄目です、ああもう我慢出来ません

「んあっ!はっ、あっあん、や、(ユーザ名)、もう駄目、もうイク!もうイキたいです!」

涙ながらに訴えたのに(ユーザ名)ときたら察しが悪くてイッてもいいですよと言うばかり。馬鹿。それなら無理矢理一緒にイかせるまでで、一層腰をくねらせ中で締め上げ背中に爪を突き立てる。(ユーザ名)はうおっと呟いたらラストスパートを掛けてきてサトミさん中に出していいですか何てもう好きにしたら良いじゃないですかこれだけ好きにしておいて!



「ひん、(ユーザ名)、うっっうぅっ あっ……! んあぁはあぁぁーっ!!」









結局、私の方が先にイっていたらしく、力の抜けた身体の奥で、躍動しながら吐き出されるのを感じた。少し意識が遠退いていたから、(ユーザ名)の間抜けなイキ顔を見られなくて残念でしたが、終わったからと全体重を掛けてこなかったので、勘弁してやることにします。しかし覆い被さったまま髪を撫でるだなんて、本当に調子に乗りやすい。私が終わったら背中を向けるタイプだったら、もう死んでますよ。サトミさん気持ちよかったですかと聞いてくるのもどうかと思いましたが、少し迷って、良くなかったら今こうしていませんと答えると、満足そうに引き抜いた。シャワーを浴びるかとも聞いてきてああうるさい。こっちの方が負担が大きいんですから、ちょっとは気を使ったらどうなのか。浴びるのはだるいし、浴びさせに行くのも一人は寒そうなので抱き付いて引き止め、腕を引っ張り出して頭を乗せる。慣れない腕枕でこの豚の腕が明日には棒になっているだろうと考えたところで気付きましたが、もしや明日の朝はとても気まずいことになっているかもしれません。目が覚めた後(ユーザ名)とどんなツラで顔を合わせれば良いのか、さっぱり思い付きませんが、まあ今のところとても疲れて眠たいので、明日のことは明日の私に任せることにします。なので、明日の私に意地悪をする為に、(ユーザ名)にキスをしてから目を閉じました



眠りに落ちる寸前に、ゴボリと噴き出たのを感じた。






油断は大敵というもので、サトミはソファーでうたた寝をしていたところを(ユーザ名)の手によって毛布で包まれ、抱き上げられ、薄暗い地下室に運び込まれていた。不穏な気配に目を覚ましても時既に遅く、両手首は革の手錠で一纏めにされており、そこから延びる鎖は低い天井へと繋がっていたから何も身に付けていない細身の身体は爪先立ちで吊られていた。

「この…馬鹿が!(ユーザ名)!この手錠を外しなさい、今!今すぐ、今すぐ、今ですよ!後でどうなるか解ってるんでしょうね?!」

サトミは激昂しながら白い裸身をくねらせているけれども、それが鎖を千切ろうとしているからなのか(ユーザ名)の視線から逃れようとしているからなのか、どちらも成功していないため判らない。

「くっくっ…後で?後なんてありませんよ、サトミさん…」
「何を、馬鹿言っているんです。大方不埒な真似事で性奴にしようと考えているんでしょうけど、この私が堕ちるなど…
「自分は今さえよければそれでいいからです!!後で五体バラされようとも今サトミさんにイタズラできればただそれだけでー!!今を生きる!今を生きるー!!」
「私が考えていたより馬鹿でした」

氷の視線で(ユーザ名)を観測した後、サトミは少し下を向いて何事か考え、次に顔を上げたらひどく優しい猫撫で声で語り掛けた。

「仕方ありませんねえ、(ユーザ名)、貴方のその馬鹿さに免じてこの身の程知らずの愚行は無かった事にしてあげますよ。だから、手錠を外しなさい。良い子ですから、言うことを聞きなさいな?」

その台詞が普段より少しだけ饒舌過ぎたのがいけなかったのかもしれない。(ユーザ名)の目が光った様に見えたから、サトミが不思議そうに小首を傾げた姿があどけなさ過ぎたからまずかったのかもしれない。ともかく(ユーザ名)はその甘言に乗らなかった。乗らずに笑ってこう言った。

「それじゃ地下室を改造までした自分の立場がないですよ。だから、今日一日だけ、サトミさんを好きにさせてください」
「殺しますよ、クズ」

偽りの甘い声を唾と一緒に吐き捨てて、サトミが(ユーザ名)を罵倒する。けれども(ユーザ名)は笑ったままで。

「いやいや勿論自分なんかがサトミさんを丸ごと自由にする気はないです」
「…?」
「だから、サトミさんの一部だけを好きにさせてください」

再び強ばるサトミの顔に、小さく怯えの陰りが見えた。引き千切ろうとがむしゃらに振っていた腕も頑強な鎖に疲れ果て、既に形ばかりの軋みを上げさせるだけになっている。爪先は体重を支える力をとっくに無くして、噛みでのありそうなふくらはぎが痙攣しながらその役を引き受けている。無様な自分が気に食わなくて舌を打ち、それより更に気に食わないのが頼みの姿で脅迫している(ユーザ名)の言葉だけれども、どうやら聞かずに放すつもりはないと判断し、軽蔑の目をしたまま嫌味に頷いて見せた。

「勝手になさいな、下衆」
「うわーマジですか!嬉しいなあ!」
「…で、どこなんです。下衆が弄びたいのは?」
「そりゃもちろん、サトミさんの可愛い左乳首でお願いします!」

ニヤニヤ笑いハアハア息を荒げる(ユーザ名)に、サトミは唾でも吐きかけたそうな顔をしている。

「最低ですね」
「誉め言葉です!という訳で一日付き合ってもらいますね、サトミさんの左乳首さん!」
「頭おかしいんじゃありませんか」
「それじゃあ、朝はやっぱり爽やかに歯磨きからですよね」

眉をひそめたサトミを尻目に(ユーザ名)はぬるい地下室の片隅で佇んでいた戸棚を開け、歯ブラシと歯磨き粉を取り出した。(ユーザ名)の右手に構えられた山切りカットの固めな歯ブラシが、自分の薄い胸に近付いた時漸くサトミは理解して、制止の怒号を上げたのだが

「止めなさい馬鹿!!狂ってんで、やっ!?いた、痛い!痛いです馬鹿!!やめなっあっいつっ!!」

磨くというより削る毛先に身を跳ねさせられ出したくもない悲鳴が非難の言葉を押し退ける。蹴り飛ばそうと片足を上げても食い込む程に太股を掴まれ両足の間に割り込まれ、身を退くことも出来なくなってガリガリゴリゴリ小さな突起が責められる。

「いたい!痛いですったら!やぃっ、やめ…!」
「…あー、そうだ、歯磨き粉」

サトミの否定を聞いたのではないだろうが、(ユーザ名)が歯ブラシを放り捨てる。けれどもサトミが一息吐く前に薄皮の剥けた乳首へ熱い清涼感が塗り込まれた。

「ひっ…!い!いうぅ!?!」
「やっぱこのスースー感がないと磨いた気がしないですよねー」

スーパークールミントの砕ける顆粒入りというだけでも刺激が過ぎるのに、(ユーザ名)は脇に手を差し入れ子猫を抱き抱える形で親指の腹をサトミの乳首に押し当て、抉るように擦り潰すように蹂躙する。おまけにサトミが息を吸うタイミング似合わせて強くめり込ませるものだから、まともな呼吸も出来ずにおとがいを跳ね上げ白い喉を仰け反らせて喘ぎ、抱えられた右足は先程とは違う痙攣で爪先まで引きつれていた。
ひとしきり目を剥いて噎ぶサトミを楽しんでから、(ユーザ名)は両の手を放す。鎖がガシャンと音立てて垂線となり、咳き込みながらサトミが息をする。

「サトミさん?大丈夫ですか?」

白々しく背中を擦る手はまだ歯磨き粉で汚れているし、本当ならどれ程刎ね退けたかったか知らない。でもサトミは呼吸するだけで精一杯だったうえに、本人はまだ認めないだろうが抵抗する気が失せ始めていたから、ただ背を丸めるだけだった。

「ちょっと辛過ぎた?ごめんねサトミさん、顔洗うのはさっとにしといてあげますから」

そう言って左乳首にかけられたのは氷水だったので心臓が止まりそうになったけれど、うなだれたサトミがそれよりも怖かったのは十五分ばかりの間に無惨に腫れさせられた自分の血が滲む乳首で。残りの“一日”が終わった頃には一体どうなってしまうのかと、生まれて初めて怖くなった。

今日はお休みだから一緒にダラダラしましょうと鎖が延ばされ、小さなブラウン管の前に座らされる。まだ引きつれの残る太股の上へスナック菓子が幾つも乗せられ、蒸着アルミ袋の端が刺さってサトミがまた顰め面になった。(ユーザ名)は端子を繋ぎ、少し旧型のゲーム機を起動させてサトミさんもやるかと訊ねたが、無言で上げられた手錠付きの両手に納得したのか1Pモードで開始した。マリオカートをやりながらサトミの乳首を吸い、偶にコーラを含んだまま吸い付いたりもするのでその度にサトミは炭酸にやられて痛がり(ユーザ名)の肩を押し返すから、お仕置きにデュアルショックを押し付けられては大人しくなるのを繰り返す。その度に放置されゲームオーバーになる責任も負わされて、ますます乳首は赤くなる。ポテトチップスを食べた後に舐められたから、サトミが乳首に唾液とはまた違う油のぬめりを感じてその不快さに眉をひそめて身を捩るのを横目で目聡く見付けられ、油に塗れた(ユーザ名)の指が友達宅の絨毯へするようにサトミの乳首で拭われた。ポテトチップスの欠片が刺さり塩気が染みて、その痛みがまたサトミの心に穴を開けていく。

一人でする接待ゲームに飽きたのか、(ユーザ名)がおもむろにゲーム機の電源を切りMP3ステレオを引き寄せた。LEDの青い光が点灯してチカチカと目障りに瞬くのをサトミが睨み付けていると、横にいた筈の(ユーザ名)がいつの間にか背後にしゃがみ込んでいて、リモコンを持った右手が後ろから腹に回されたと思えばそのままずるりと引き倒され、サトミの身体は(ユーザ名)の両足の間へ収まり胸に凭れて抱えられる形となる。

「…胴体まで好きにして良いとは言いませんでしたが?」
「あ、そっか。でも不可抗力ですよこれは。だってほら、この体勢だと触る時に、ほら、どうしても」

そう言って乳首に指先が延ばされてくるのを悲鳴掛かった声で解りましたと叫んで押し留めてしまったから、解ってもらえて嬉しいですと両腕で抱き抱えられることも否定出来なくなる。譲った一歩から更にじりじり踏み込まれつつあるのは気付いているのに、どうにも出来ない恐怖を今はっきりとサトミは感じていた。地下室の温度は低くないのに指先は白く冷えきっていて肩は窄まり震え、前屈みになる身体は(ユーザ名)の手で引き戻される。ああと嘆いた溜息を聞き付けて、(ユーザ名)が形の良い耳に口を寄せて囁いた。

「サトミさんその声凄くいいなあ、もっかい出してくれないですか」
「誰が…」
「ダメか。まあいいや、じゃあなんか聴きます?」

そこで漸く再生ボタンが押され、待ち受けていたステレオが流行りのJPOPを流し始め

「…ぃ!?」

そのリズムに合わせて(ユーザ名)はサトミの腫れた乳首を揉み潰す。ギクリと背を弓成りに強張らせてから慌てて身を退くが背後には(ユーザ名)の胸が壁になってサトミを逃がさない。それでも逃れたくて身を捩りながら背中を押し付けるサトミは、行為だけなら可愛らしく擦り寄る恋人の様に見えた。

「くっ…ひ、ん……んんっ…!……い……っ!」

(ユーザ名)の音楽趣味はグレゴヲリオ聖歌が流れたと思えばデスメタルがかかるといった具合に雑食性だったので、その柔らかな愛撫からいたぶるつねりの落差を恐れサトミは曲の合間にも怯えて常に身を固くしていなければならない。重低音が乳首の擦り剥けた傷の疼きに響き、高音は耳障りで先程からの頭痛を掻き回し、吐き気がしてきたサトミは目をぎゅっと瞑って耐えている。けれどもそれを(ユーザ名)の無体な指が台無しにするから三十三曲目の七小節目で遂にサトミの赤い唇から嗚咽が吐き出された。

「…ん?どうしたのサトミさん、この曲嫌い?」
「…嫌いなのは、貴方です…」

拷問の小休止にようよう息を吐いてサトミは(ユーザ名)を罵るが、睨んでいるつもりらしい眼も夜露の様な涙が零れ落ちんばかりに光っているし、咬み千切りたそうに食い縛った歯も本当は鳴り出すのを堪えているからだったし、何より先程の拒絶の言葉も機嫌を損ねてまた酷い仕打ちが始まるのではとのためらいで語気がなかったのだから、つまり総合的に見れば、サトミは最早実に弱々しく慈悲を乞うて媚びていた。その哀れな愛らしさは十分過ぎたけれど、高慢で気位の高いサトミはまだ屈服を認めないだろうから、誰かが指摘するのではなく、自ら口にさせる必要があった。

「これ20Gだから、あと一万曲くらいあるよ」
「…」
「でもそろそろお腹空いたしなー」

(ユーザ名)が立ち上がり壁のレバーを下げると手錠の鎖が巻き上げられ、サトミは始めと同じ格好に宙吊られた。休んだ脚は震えないかと思えば寧ろ先程にも増してカタカタと震えている。それには気を止めずに(ユーザ名)はまた戸棚から何かを取り出して、満面の笑顔で振り返った。

「な…何ですか、今度は…」

その両手にある低い円筒型の電化製品を見たサトミはらしからぬ不安げな声で尋ねるが、(ユーザ名)は至って何事もない顔をして

「いやー、サトミさんの乳首だったら茶碗三杯どころか、炊飯器三杯イケるね!」

炊きたての白米の香りを振りまきながら宣った。

それからはまた拷問の始まりで、意外にも器用で精確な(ユーザ名)の箸使いでもって朱塗りな漆の箸先に摘まれ捻られ身悶えし、サトミさんの乳首もそろそろ疲れてお腹空いてきたんじゃない?との言葉で炊きたてのご飯を乳首に押し付けられ悲鳴を上げ、火傷で敏感になったところをオカズと噛まれてついに気丈なサトミも泣き出してしまった。辛子明太子を嬉々として塗り付けようとしていた(ユーザ名)も初めて見るサトミの涙に期待はしていても些か戸惑ったのか、今までの嘘臭い気遣い無しにそっと髪を撫でてやってから手錠の鍵を外す。コンクリートに座り込んだサトミの肩に手を掛け改めて胸元を覗き込むと、殆ど肌色に近いささやかな右乳首に比べて左乳首は大豆粒大に赤く血の色に腫れ上がり、乳輪も倍の大きさになってしまっている。先は擦り剥けて血の乳を流していたから(ユーザ名)が思わず舌で舐め取ると、サトミが擦れ声であえかに呻いた。

「…痛い?サトミさん」
「痛い…痛い…」

鰐に皮を剥がれた白兎のように泣くサトミはとても可哀想で、今にも抱き締めてしまいそうなのを堪えて(ユーザ名)は尚も責め立てる。

「折角乳首一個だけで我慢してあげるのに、サトミさんはそれじゃ嫌なんだ?」
「い…嫌、です…もう、もう無理です……取れちゃいますよ…」
「そっか」

その時浮かんだ(ユーザ名)の歪んだ笑いを見ていれば、或いはサトミは正気付けたのかもしれない。しかし運悪くうなだれていたサトミが頬を挟まれ上向かされて見たのは偽教師じみた(ユーザ名)の笑顔で、聞こえたのは気味悪く優しい言い聞かせだった。

「じゃあ、お願いしてよ。もうやめてって。もうしないでくださいって。頼まないと」
「あ…」
「それともまだやっていいのかな?自分はまだ飽きてないし…」
「や、嫌!嫌です!…嫌…です、から…」

むずがって首を振り、三度の瞬きの後、そろそろと顔を上げ、(ユーザ名)を振り仰いでサトミが口にしたのは

「…お願いします、もう…止めて下さい…何でもしますから、もう苛めないで…(ユーザ名)の言うこと聞きますから……お願いです…」

奴隷誓約が呆気ない程ポロポロと震える唇から紡ぎ零れる。それに応えない(ユーザ名)に怯えて身を縮め泣きじゃくり出すサトミはもう元の傲慢さは取り戻せない。後は鞭打たれないようしゃぶらされる飴へ盲目的に吸い付くだけの、可愛い愚者としてしか生きられない。そんなサトミのしゃくりあげる肩を厭らしいくらい優しく抱き、(ユーザ名)が滴るような声色で慰める。

「いいよ。もうしない。ちゃんと言えたんだ、いい子だね」
「っく…しないん、です、か?もう…?」
「うん。だからサトミも約束守らないとね?何でもするって言ったよね?」
「は、はい……でも…」
「でも?」
「痛いのはもう、嫌です…だから…お願いですから…」

恐る恐る、上目遣いに顔色を窺いながらサトミは懇願する。股に差し挟まれた両手は、(ユーザ名)の気に障らないよう二の腕の部分でもってさり気なく、痛め付けられた左乳首を庇っているつもりらしい。全身是健気と言わんばかりの肢体だが、(ユーザ名)は詰めを誤らない。敢えて身体を離し値踏む目をしながら不安を煽る。

「どうかな…サトミがいい子にしないなら分からないなあ」
「します、聞きます、言うこと、全部…!」

サトミは急いで縋り付き、首に腕を絡ませて、ぎゅっと瞑った眼から滲む涙を(ユーザ名)の首筋へと擦り付けた。哀れを誘うその仕草は無意識の技巧かもしれないが、寧ろその方が都合がいいと(ユーザ名)がほくそ笑む。媚びる立場を自覚させたらもう逆らうことはない。だったら仕上げだとサトミの身体を抱き返し、それならこれは出来るかなと前置きしてから小さな声で耳打ちをする。耳殻へ流し込まれた命令に、サトミは考えることもなくこくりと頷いた。椿が落ちる様なその頷きに満足気な笑みを浮かべて、(ユーザ名)は穏やかにしかし絶対的な声で命じてみせる。

「じゃ、やってごらん」

その言葉に操られるが如く、湿ったコンクリートに身を横たえて、サトミはそろそろと身体を開き始めた。