「心臓の鼓動の話をしましょうか」 物凄く唐突な話題を振ってきた 「…うん」 たぶん、うんでもいやだでも話し始めただろうけど 「鼓動というものは分/80回規則的に収縮を繰り返しています。しかし、そこには僅かなぶれ、もしくは揺らぎやずれが生じて、完全に正確なリズムを刻めている訳ではない。つまり秩序の側面と無秩序の側面が同時に存在するのです。縮小と拡大を要素に孕んでね。…ここまでは解ります?」 全然わかんない 「もっと簡単に説明してよー…」 パン・パン・パン…これって何拍子だっけ 「…はい、もう良いですよ」 …そう言われると自信ない 「たぶん、ちょっとずれてたかも」 難しいけど、少しは解った。先生がいうぶれとか、ずれだとか揺らぎってのは、『意識』がないモノにも起きるんだね 「その全てに生ずる揺らぎは…揺らぎにも関わらず…ある法則があります」 そろそろ眠たくなってきた 「まるで誰かが仕組んだように、震える世界は皆1/fに揺らいでいる。…水晶時計を知っていますか?」 子守歌が聞こえてくる 「水晶を結晶軸に対して、ある特定の方向に切断し薄片を作る。その両面に電極を取り付け電圧を掛けると水晶に歪みが生じる。まあそんなことで水晶は振動を持続するのですが、その振動はとても安定していて、気圧や温度変化にも全くと言える程ずれが生じない。時計のような完全さを追求する道具には打って付けの素材なんです。…しかし、ああしかし。そんな限りなく完全に近い規則的な振動をする水晶ですら、1/fの揺らぎを生ずる。高屋敷君の左胸の中で震えるこの心臓と、同じぶれを持っているのです。拡大の視点で見れば、心臓と水晶は別の物…しかし縮小の視点で見れば、同一のものとも考えられる。だから、ねえ高屋敷君?どうせ相似のものなんですから」 眠くて眠くてもう目が開かない 「…これと、これを、取り替えてしまいましょうね」 僕がもともと持っていた震えて揺らぐものは、蠢くなにかに持ち去られ |