朝日の眩しい午前八時、貴方は【私立挫賂眼学院高等学校】の門をくぐる
足を踏み入れればそこは血溜まりがそこかしこに出来ており、鉄の臭いが鼻を突く
転校してきて一ヶ月、始めはこの学校の恐ろしさに拒食症と自律神経失調症を併発したりしていたが、今では殆ど慣れて しまった
人間とは慣れる生き物なのだ。そう貴方は鏡に映る死んだ魚の目を見る度に思う

と、正面から小さな影が駆け寄って来た

「おはよー!」

本来なら校則に反するキャラメル色の髪。幼い体躯。兎の様な眼。無邪気な笑顔
不死身と言われる高屋敷智裕だった

〔おはよう、高屋敷君〕

貴方は高屋敷の笑顔につられ、朝に相応しい爽やかな笑顔を浮かべた
後ろで光る刄にも気付かずに
高屋敷の笑顔が泣きそうに歪んだ事に気付いたのと、首筋に風を感じたのは同時だった


ザジュリ!!


キャベツを刻んだような音がしたかと思うと、世界がグルグルと回った
違う
回ったのは自分だ。胴から離れた生首だ
鈍い音を立て地面に落ちる
後頭部が地面につく形に、空を見上げる貴方を覗き込んだ人間がいる

「…お早う御座います、さん。今日も良い天気ですねえ」

闇の色をした髪、窺い知れない目元、屍蝋の様な肌、薄笑いの赤い唇、右手に握った血の滴るバタフライナイフ
学院きっての愉快犯、安西聡美だ

『おはよう…ございます』
「ああ、喋れるのですね?良かった良かった…それにしても、君は高屋敷君とはまた違った感じに不死身ですねえ?」
『はあ…まあ……ええと、あの、それを確かめるだけに殺されたんですか?』
「ええ、そうですよ。隙だらけでとても素敵でした」
『はあ、それはよかったです…』
「ふふ…よくやりましたねぇ高屋敷君?君が油断させてくれたお陰ですよ」

安西は肩越しに振り返り、小刻みに震え怯えた目をしている高屋敷に微笑みかけた
声をかけられビクリと身を竦ませた高屋敷が、ややあってから泣き出す

「ごめんね……ごめんね……騙してごめんなさい…でも、でも…僕、死にたくなかったの…許して…?」

ポロポロと涙を零し目を擦りながら許しを乞い続ける高屋敷を見た安西の、小馬鹿にしたような薄笑いが更に僅か吊り上 がったのを見て貴方はこう考える
ああ、本当は高屋敷を使わなくても殺せたんだな。と






「さて…と」

ひょいと貴方は持ち上げられる
安西の目線より少し上に掲げられ、今度は貴方が見下す形になった

「殺しついでになんですが…さん、貴方の体を少々借りたいのですよ。構いませんか?」
〔借りる…って、何に使うんですか?〕

コンクリの地面に叩き付けられるのではないかと怯えながら問い掛ける貴方に、安西は笑って答える

「死姦」

…ちょっと本当っぽいなあ。と貴方は思った
顔に出たのだろう、安西はあははと笑い貴方の耳を引き千切る
痛みはもうあまり感じない。代わりに、こきゅこぷみちりとした感触で、貴方は軟骨のから揚げを思い出す

「いやですねえ、冗談じゃありませんか。本気にしないで下さいな」
〔ならいいんですけど…何に使うんですか?〕
「ん?…大丈夫大丈夫。心配せずとも大丈夫ですよ、ちょっと内臓を二三貰うだけですからね」

それの一体何処が大丈夫なんだろう。と貴方は思うのだが
それを口に出すほどの馬鹿ではない

〔いいですよ。返してもらえるなら〕

だから、聞き分けの良い生徒になった
これがこの学校で生き残る為の唯一方法であり、貴方の目が死んだ理由である

「ふふ、協力に感謝しますよさん。聞き分けの良い子は先生大好きです」
〔ありがとう御座います〕
「では…高屋敷君、さんを持っていきなさい。面倒を見てあげるのですよ?」

安西は高屋敷の方へ向き直り、貴方を放って高屋敷の腕の中に収める
投げられた頭の重い衝撃に高屋敷は体勢を崩してへたんと尻餅をつき、小さな声ではい。と返事をした
そして安西は鷹揚に頷いた後、にやりと笑って付け加えた



「…何といっても、君が騙したんですものねえ」



貴方は生暖かい水の感触をつむじに感じた









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高屋敷は身体の六分の一という重さである頭部を重た気に、しかし健気に掻き抱いたまま、トボトボと廊下を歩く

、ごめんね…」

さっきから謝ってるけど、これで何度目になるかなあと貴方は考える
あまりにも哀しそうに謝るので、こちらが悪いような気分にまでなる

〔いいよ、気にしてないから。もう謝らなくていいから〕

嫌味に聞こえないよう気を使い優しく慰めてやると
高屋敷は貴方をぎゅっと強く抱き直し、ネコにしてみせるように頬を擦りつけてきた

「ありがと…」
〔なんでもないよ。今日一日面倒見てくれれば十分だから〕
「うん!ノートも僕がとったげるから心配しないで…わぎゃああぁぁ!?

嬉しそうに小走りを始めた高屋敷は、足元に転がっていた誰かの大腿骨に気付けず踏み躙り、盛大にすっ転んだ

「はう…いたた、おでこ打っちゃったー……もう!こんなとこに落としたら危ないじゃんかー!!ね、………あれ?…ど、どこ行ったのー?!」

捜し回る声が聞こえるが、貴方は答えてやることが出来ない
転んだ時に投げ出された貴方の首は10メートル向こうの壁に思い切り叩きつけられ、周囲1メートル範囲に飛び散って いたから

「どこ行ったの…あれ?……うわー!?!?!そのグチャグチャのピンクとか黄色とかはの破片だよね!?」

貴方は答えられない

「ごめんねごめんねー!!今拾うから待っててね!」




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貴方の惨状に気付き、半泣きになった高屋敷は一度去り
戻ってきた手にはバケツと箒にチリトリ、モップを掴んでいた

「あ…目玉割れてなかった。よかったー…ちょっとここで待っててね!」

高屋敷は血溜りから二つのピンポン玉を拾い上げ、近くの窓枠に行儀よくちょこんと並べて置いた
黒目も考えて置かれたので、高屋敷が肉片を片付ける様が無理なく見えた

「はあ…ごめんねー…後で保健室連れてくね。待っててね?」

まず箒で肉や骨や脳の破片を掻き集め、チリトリで救い、プラスチックの青いバケツに落とし込まれた
貴方は、飛び降り自殺の遺体処理と同じだなあ。と、グチャグチャになった脳味噌で考える
次はモップで血を吸い取り、雑巾を絞る要領でバケツに血を満たしていく
あらかたの血を拭き取りバケツに溜めたところで、高屋敷は額の汗を拭いながらほうっとため息を吐いた

「うし!これで保健室持ってったら直してもらえるよー。……あ、でも」

不安気な顔になり、バケツを抱え込んで覗き込む

「…ちょっと脳ミソ足りないかも…」

足りないってどういうことだ。と貴方は思いながらも何も言えない
何故ならグチャグチャになっているから
窓枠から来る疑惑の視線に慌てた高屋敷は、急いで立ち上がり笑って誤魔化す

「ん…で、でもいっか!足りなかったら僕、代わりのお豆腐買ってきてあげるから!ね?ね?」

そう言うと窓枠の目玉を取り、制服の上着にあるポケットの両側へそれぞれ一つずつ大事に仕舞い、この場から遠く離れ た保健室へと走り出す
ぱたぱた走るリズムに合わせて、バケツの中がチャパチャパ揺れる
その飛沫が廊下に赤い点線を書くのを感じた貴方は、豆腐が半丁分は必要だなあ。と思った






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保健室への道程が残り半分になったころ、貴方は脳の半分が豆腐になる事を覚悟していた
しかしその覚悟も無駄になった
高屋敷が、曲がり角で人にぶつかり、相手に思い切り貴方を浴びせ掛けたから
そして貴方は考える
ああ、これはもう、豆腐人間になるしかないな。と

「あわわ…ごめんなさいですようー…血塗れで誰かよく判んないけど。誰?」
『いいよ、血塗れになるのは慣れてるからね』

血を掃って現れたのは
穏かだけれども剣呑な目、薄っすら透けた身体、微笑みつつも無表情な顔、血塗れの全身、左腕に嵌った生徒会の腕章
この学院の忠実な僕であり同時に統治者たる、生徒会会長

『うん、俺だよ。ところで廊下は走らないようにって決まってるんだけどな』
「ごごごごめんなさいー!!でも僕ちょっと緊急で急いでてー!!」
『うーん…まあ、そういう事なら今回は見逃してあげるよ。高屋敷君…と、君かな?』

貴方は会長に貼り付いた脳の一部で、よくわかるなあ。と思考した

「うん、ですよーちょっと外見変わっちゃったけど」
『それにしては随分少ないね。バケツの底に八ミリリットル位かな』
「え?あ、ホントだ!!いっぱい溢しちゃった…」

会長は、困ったね。と言いながら、右頬にへばり付いた貴方の頭皮付きの髪を引き剥がしてバケツに入れる
高屋敷は、困ったなあ。と言いながら、手を伸ばして会長の髪を絞りバケツに貴方の血を戻す

「…あ、それはそうとー。会長、お豆腐持ってないですか?」
『豆腐かい?そうだなあ…今日の弁当のオカズに、ゴーヤチャンプルを入れてきたけど』
「ホント?!ちょうだいちょうだい!の脳味噌にするんです。代わりに僕のたこさんウインナあげますよ。赤いウインナの奴ですよー!!」
『いいよ、たこさんウインナは高屋敷君が食べなよ。お腹が空くと勉学にも支障が出るからね。…ちょっと待っててくれ るかな?』

会長が軽く右手を振った
すると手ぶらだった筈だが何処からか弁当箱を取り出し、残りわずかな貴方が飛沫かないよう慎重に、チャンプルーをバ ケツに入れてくれた
それでもまだ貴方はバケツの四分の一も満たない

『うーん。これじゃあまだ足りないな…。ごめんよ君、生憎これ以上豆腐の持ち合わせは無いんだ』
「そっか…ううん、ありがとございます。やっぱり買ってこなくちゃダメみたい」
『その前に、校長先生の所に行ってみたらどうだい?何かいい知恵を貸してくれるかも、しれないよ』

優しく諭され、高屋敷はきびすを返して走り出そうとする

『あ…高屋敷君、ちょっと待ってくれるかい』

それを引き止め、会長はまた何処からかラップと輪ゴムを取り出し、貴方が入ったバケツに蓋をしてくれた
この人は本当に生徒思いの会長だなあ。と貴方は思った

「ありがとーカイチョー!」
『うん、どういたしまして。足元に気を付けて行くようにね』
「わかったー。じゃあさよならバイバイですよぅ」





会長と別れた数分後、すっころんだ高屋敷がバケツごと貴方を放り出し
貴方は窓ガラスを突き破ってコンクリートに叩きつけられた









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「…ごめんねーー…気を付けてたんだけどなー……また減っちゃったね、ごめんね?」

さっきの事故で、貴方はもはやバケツの底に三滴と肉片幾つかしか残っていなかった為
そこらに溜まっていた、顔も名も知らない生死も判らない生徒の血を輸血されていた
もはや自分が何者なのか、よく分からない。と貴方は考える

「はうう…あ、でもほら!校長室着いたからきっと脳味噌の代わりくれるよ!!ねねね?」

高屋敷が慌てて走り出す
もはや足元に気を付けてくれと伝える元気も無い



ガチャ



「校長センセー失礼します!」

重厚なドアを開けると、革張りの椅子に乗った黒い靄が視界に入る
ぼんやりと象られた人体、見る者の生気を奪うような闇の色、吸い込めば肺が破れそうな邪悪な靄
この学校の総責任者であり総裁者、氷室学校長

【…うん?…高屋敷君とか。どうした?】

低い声が聞き返す
声帯があるということは、実体を持っているのだろうか
そう貴方は考えるが。この学院で詮索は死への直結なので黙って置く
しかしなにも知らずにいても死へ直結する、生き難い学校でもある

「んっとですね。お豆腐持ってないですかー?」
【何、豆腐?】
「はい、僕がの脳みそ零しちゃったんですよぅ…だからね、代わり欲しいんですー」
【む…豆腐は無い、が……少し待っとれ】

靄が椅子を軋ませ奥の扉へと消え、帰って来た時に携えてきた物
それは、10杯はあるズワイ蟹だった

【蟹味噌でも構わんだろう。折角だ、君、高屋敷君、身の方も食べていくといい】
「わーいいんですか!?いただきまーす♪、殻僕が剥いたげるからね!」

カニはいいから早く直してくれ。そう貴方は考えるのだが、カニに夢中な高屋敷には気付いて貰えない
貴方の口はグチャグチャになっており語れないし、貴方の眼球は物言いた気な視線を高屋敷のポケットの中で漂わせてい るだけだから

「はい、あーん♪」

剥いた蟹身ををバケツに放り込む高屋敷
これが食べている事になるのか、貴方は自分でも良く判らない
高屋敷は少し考え込んでから、腕を捲り上げ、肉片と血で満たされたバケツに腕を突っ込み底を探った
指を弄らせ肉片を摘み上げては元に戻す
何度か行った後、ようやく目的の物を見つけたらしい

「あったあった!はい、これの舌だよね?どう?味分かる?おいしい?」

小首を傾げて楽しそうに聞く高屋敷を見て
貴方は自分の血の味しかしない。という言葉を飲み込んだ








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上機嫌で高屋敷が廊下を行く

「よかったねー!カニ味噌貰ったから、もう保健室で直して貰えるよ!」

豆腐じゃなくて蟹人間か、いいような悪いようなだな。と貴方は考えながらバケツの中で音を立てる
保健室は案外近く、十分ほど歩いて着いた
高屋敷の歩幅がもう少し広くてもう少し早い足並みだったら、三分で着いたのだが

「はい着いたよ。もう直ったも同然!…でもねー僕ねー?この先ついていけないの」

どうしてだろう。と貴方は考える
そして聞かずともその問いに答える高屋敷

「えっとね…言い難いんだけどね…?……頭部がぶっ壊れた人は、見るのも聞くのも嗅ぐのも恐ろしい陰惨な拷問じみた 治療法って言うか黒魔術?みたいなよくわかんないすっごい痛くて苦しくて恐ろしいことされるんだって。鼻削いで塩擦 り込んだりとか魔女狩りなんてメじゃないよ。もういっそ殺してくれって十分間に7852回叫んだって記録もあるの。 あとこの治療した生徒の9割7分が発狂してるの。だからね、見てる人も十分発狂しそうになるの。だから怪我した本人 以外は入っちゃいけないの。入っていいって言われても僕入んないけどね。だからね、、がんばってね。僕ちゃんと生きて正気で帰って来れるって信じてるからね!!」






保険の先生、沢津橋先生は
美人なのにこんな恐ろしいことをするんだなあ。とか考えている余裕など貴方にはありませんでした








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すごいねー!!僕正直が治療されてる六時間の間、気が狂っちゃったをどうやって運ぼうか考えてたんだけどさー。無事に帰ってきちゃってびっくりだよー!?」
〔はは…さっきから思ってたけど高屋敷君、結構言うよね…〕
「え?言う?何が?」

悪気は無いらしい高屋敷にそれ以上嫌味を言う気にはなれず、貴方は大人しく運ばれていく

〔そろそろ身体返してもらってもいい頃だとおもうんだけど〕
「うん、僕もそう思ってたの。でも安西センセどこに居るかわかんないんだよね…一応始めに解剖室に行ってみる。こっ から理科室近いしさ」




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高屋敷の予想はドンピシャリで
理科室の奥にある解剖室のドアを開けると安西が居た
授業中にしか身に着けない白衣に眼鏡と、一見理科教師らしい格好をしている
だが、何か違和感を感じた

〔高屋敷君、安西先生ってタバコ吸わないんだよね?〕
「うん…そうなんだけど…あれタバコっぽいね」

口に咥えた煙草の様な物
よく見て見ると、それは貴方の右薬指だった
すっている訳ではなく、ボキボキと音を立てて噛み砕いては飲み込んでいる
周りをもっとよく見てみると貴方の身体は内臓以外も抉られた痕が

左の二の腕には、どうやってここまで咥え込んだのかといぶかしむほど大きく、クッキーの型抜きの様に綺麗に抉れた歯 型がついている
あばらの肉は薄く削がれ、陶器の皿の上でわさび醤油をかけられ、食べ手を待っている
左の足首から下はケン○ッキー的にジューシーに揚げられ、甲の部分には箸が突き刺さり、少し穿り食べた痕跡がある
指が三本ほど白いガラス皿に盛られ、【良好な環境で育てられたの右薬指・中指・人差し指コンソメゼリー寄せ】になっている


ふ、と安西がこちらを見やった


「…おや、不味いところを見られましたねぇ」
〔内臓だけのはずじゃ…〕
「ちゃんと補修してから返そうと思っていたのですよ?」
〔いや…補修されても……だって、まさか、食べるだなんて思ってなかった…!!〕
「だって、我慢が効かなかったのですもの」

言外に煩いと滲ませながら、そっぽを向いて貴方の大腿肉を放り出す
時折子供じみた行動をとるところは、高屋敷と似ているかもしれないなあ。と貴方は考える

「もうさんの味には飽きました。次は…ああ、高屋敷君が居ましたねぇ。さあこっちにいらっしゃい可愛い可愛い高 屋敷君、先生が取って置きの調理法でラズベリーパイよりも爽やかにTボーンビーフシチューよりも濃厚に、香草の煮込 み舌平目よりも風味豊かに料理してあげますよ」
「わー安西先生マジキモーアバガベバババババ!?!!

刃が四十センチはあるでかい鋏で120の破片に断裁された高屋敷一塊は
笑いながらも容赦の無い安西の蹴り一発で、部屋の外へと蹴り出された

「いやあ本当にお口の躾がなっていない子で…後で、しっかり躾なければ」
〔後でなんてあるんですか?〕
「ええ、大丈夫です。殺しても死なない君と違って、死んで生き返る子ですから…直に帰ってきますよ。それよりお茶で も如何です?」

どこかの小説で聞いたような台詞で、狂った茶会に誘われた
断る権利は、貴方に無い

「そこにお座りなさい」

電気椅子に座るような気持ちで腰掛ける
と言うよりも、生首なので、安西に置いてもらったのだが
しっとりと沈み込む上等なソファーが逆説的に不安を煽る。人間でも詰まっているんじゃないだろうか

そしてからからと扉の開く音がした
高屋敷がとたとた近付いてきて、隣にぽすんと座り、茶菓子に手を伸ばして頬張り始める
じっと見つめる貴方の視線を受けた高屋敷は、なにか?と言わんばかりにきょとんと首を傾げてみせた
なるほど、これが高屋敷の不死身か。不気味だ
そう思って観察をしていた隙に、安西が貴方に入れたお茶を高屋敷が飲み干してしまった
悪気は無いから嫌味を言う気になれない
なんだかんだで、高屋敷もこの学校で生き残っている強者なのだろうな。と貴方は考える





と、急に持ち上げられ、些か乱暴に身体が乗っている台に乗せられた

「じゃさん、今首を繋げますからね。やっぱり前後を逆に取り付けた方が良いですか?」
〔歩きにくいから止めてください〕
「面白くない子ですねえ」

軽口を叩きながら、安西は手早く貴方を貴方の身体に縫い付ける
使っている糸がどう見ても木綿糸なのだが、もうなにも言えなかった

「安心して下さい、取った臓器には代わりを入れておきましたからね」
〔代わりってことは人工臓器…〕
「いえ、湿ったオガクズですけど」

やり取りを聞いていた高屋敷が、貴方を不思議そうに見つめて言った

、なんでそれで生きてるの?…キモチワルいね」

お前に言われたくない。と貴方は思った












残り数針で首が繋がるという時に、安西の手がぴたりと止まった
その代わりのように、男の癖に奇妙に赤い唇を更に真っ赤な舌が這い回っている
貴方の胴を抑えていた安西の左手に、恐ろしい程の力が篭る。痛い
舌が亀裂に吸い込まれ、一度閉じた唇は数秒後に開いて話し出す


さん、貴方の肉の味ですけれど…」


左腕が力を増す。痛みも増す


「何と言いましょうか…決して美味しい訳ではないのですが、こう……口に残ってクセになる…………」


安西が薄っすらと笑いながら、ねっとりと官能交じりの視線を貴方に向ける
食へ欲情するこの男は、一体どんな人生を歩んできたんだろう。と考えている余裕は無い

「ああ、さん…借りるだけでは済みません。首から下を私に下さい」
〔は?!待ってくださいそんな、無理ですからやめ…オグふウっッッ!?!〕

言い終わる前にまたも胴から首が離れた
右手で貴方の頭を、左手で貴方の胴体を掴んだ安西が、思い切り両腕を広げたから
貴方は床に投げ捨てられ、胴体は冷蔵庫に押し込まれる
人間をほぼ丸ごと一つ仕舞うには些か小さ過ぎる冷蔵庫に、貴方の身体は詰め込まれる
肩が閊えて入らなかったので、一度引き摺り出し、右肩を踏み砕いて収める
左の肘から先の置き場所に困ったので、一度引き摺り出し、蹴り潰して引き千切り隙間に詰める
胴体の傷が開いて腸がダラダラと床に流れたので、一度引き摺り出し、適当にぶつ切りにして首の断面から気管に飲ませ る
体育座りの形ではドアが閉まらなかったので、一度引き摺り出し、腰をレーザーナイフで焼き切ってから上は冷蔵室に下 はチルド室に入れる

全ての作業を終えた後
安西はじっと貴方を見詰めてからおもむろに貴方を掴み、ドアを開け、廊下に出る
カルガモの仔然と、後を追ってついて来た高屋敷の頭を撫ぜ
空いた側の手で高屋敷と手を繋ぎ、どこかに向かって歩き出す


















着いた先は家庭科室
電子レンジに歩み寄り
ターンテーブルの真ん中に置き
600Wで3分間
チンと鳴る前にボンと音を立てて





貴方はゆで卵の様に破裂した。
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