げほげほと、祖父が咳き込む音がする。長い間、粉塵を吸い続けたために、もう決して癒えない咳こみだ
神経症も患わっている祖父なのに
「おお、お前か!何の用だ?悪いが俺は出てくるぞ!止めるなよ」
スコップを片手に、ジリジリ照りつける太陽の下へと今日も出ていった
毎日毎日、祖父は朝からずっと穴を掘る。僕は知らないけれど、若い頃からずっとこうなんだろう
「昼ご飯には帰って来てよ?」
追い掛けて、いかつい採掘機を乗せた車に乗りこんだ祖父に念を押す
「わかっとるわい。お前は毎度同じ事を言うの」
「言わなきゃ帰ってこないからさ」
口答えをしても、言いおわった頃にはもう、煙を立てて走り去った後だった


「アンタはあんな風になるんじゃないよ」
母さんが洗濯籠を抱えながら話し掛けてくる。昔は随分綺麗だったらしいけど、今じゃ見る影もない
「アンタが生まれるって時にだって穴掘りに行ったジジイさ、まったくイカレちまったよ!」
母さんが綺麗だった頃は、祖父が開拓者として成功していた頃だ。随分と優雅な宴に明け暮れたらしい
その末路がこの生活では、そうも言いたくなるだろう
「発作が出ないといいけど」
「ふん!そのままおっちんじまえばいいのさ」
持病が多い祖父はたまに発作を起こす
前にも一度、それでひどい目にあっているのに、全然懲りずに出かけていく
「ほら!とっとと戻って皿洗いでもやんな!!」
「わかったよ」
少し心配だけど、大丈夫だろう、前の発作の時だって、自分で帰ってこれたもの


昼ご飯になったのに、祖父は帰ってこなかった
「おっちんじまったんだよ!」
母さんはそう言いつつも心配そうだ。探しに行きたいけど、祖父は何処に行ってしまっているのやら検討もつかない
何処を掘っているのか聞いても
「女子供の出る幕じゃあない!仲間以外には知らせるな!だ!!」
と言って絶対に教えてくれない
「母さん、大丈夫かな?」
「知らないね」
僕が一度洗った食器をまた洗いながら母さんが返事をした



夜になって、ひょっこり祖父が帰ってきた
母さんがぶつぶつ言ったけど、いつも通りに聞こえないフリをして
「今日は出なかったぞ!!」
と言いながら僕の背中をバンバン叩く
「まあいいさな、明日もある。明後日もある、その先ずっとある!時間はあるんだからな!!」
「もうすぐ終わっちまうよ!!」
母さんはそう捨て台詞を言って台所に戻って行く
「あんまり母さんに心配かけないでよ」
「わかってるとも!!そうだ坊主、俺の昔の話を聞くか?」
「うん」
また今日も、同じ話が繰り返される
祖父は今だに、インディアンを蹴散らした話をしては機嫌を良くし
掘り当てた金塊がどんな風に輝くかを大声で語る
最後は必ず
「俺はまだあきらめちゃいないさ、あそこは絶対に金が出るぞ!!」
そう言って笑う、夢を捨てきれない哀れな祖父に
どうにも男らしさってのを感じてしまい


僕は結構、憧れている














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平沢 進という歌い手による【カウボーイとインディアン】
を聴きながら書きました
正直、完璧に歌詞を聞き取れてはいないのですが
所々歌詞にある単語が出てきます

物凄く不安です、人の思想を勝手に使っている訳ですし
申し訳ありません、ごめんなさい


でも、ゴールド・ラッシュは男のロマンな感じで、良いですよね
とても好きな曲なのです、皆さんもどうか是非
【金星】も良い歌です。【ハルディン・ホテル】も。

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