「十六年間生きてきたけど、母さんが魔王だったなんて知らなかったんだ」
学校から帰ってきて、僕はカバンをおろすより何より母に言った
「…知らなかったっけ?」
と母が返す。おかしいとは思ってたんだ、母は変人だし、何より妙に若いんだから
「知らなかったよ、今日学校で友達に教えてもらうまではね。もっとびっくりなのは僕がその後継者って事だよ」
「あら当たり前じゃない、母さんあなた以外に子供いないもん」
この鈍感な母の言葉に僕は、危うく叫びだしそうになりながら言う
「そんな事聞いてるんじゃないよ、僕が聞きたいのはどうして跡をついで魔王にならなきゃいけないかだよ!」
「そりゃあ子供が跡を継ぐのは一代目の魔王から決まってることだし、伝統を崩しちゃいけないわよ」
「知らないよそんなの!!大体なんで今まで普通の人生送ってきたのに将来は魔王決定なんて、何でそんな堅実じゃない職業に就かなきゃいけないのさ!?」
こんなに大声を出している僕を尻目に母は通販雑誌をめくっている。真面目に聞いてくれよ、息子の人生に関わってるんだから
「いいじゃない別に。魔王は強盗殺人したって捕まらないんだから、食い扶持に困ることは無いわよ」
「なにそれ、そんな特権あるの?じゃあ何でデンジャーな母さんは一般的な専業主婦やってんの?」
「そりゃあ父さんと結婚したからよ★」
うん、予想してたよ、その返答☆
「じゃあ何の為に魔王なんかいるのさ。普通の人生送ってたら意味無いじゃん」
当たり前な僕の疑問に母は簡潔に答えてくれた
「伝統だから」
ああ、もうイヤだ
「…とにかく!僕は魔王になんかならないからね!!」
「駄目に決まってるでしょ。勇者だって代々跡を継いでるんだから、魔王だけこの代でお終いなんてできないわよ」
「ちょっと待ってよ。何?勇者もいるの?」
「当たり前でしょ」
なら
「決めた、僕勇者を探して母さんを封印してもらうよ」
「まあ親殺しなんて、育てたかいも無いわねえ」
「殺さないよ!!父さんと一緒にどっかの異次元に入ってもらうだけだよ!」
我ながらいいアイデアじゃないか、これなら母は引退できないし、僕も魔王なんかにならなくてすむ。ほっとしている僕に母は余裕綽々で言ってきた
「ふーん…まあいいわよ、せいぜい一般ピープルに紛れてる勇者様探してこの母を倒してみるがいいわ。ま、無理でしょうけど…フフフ…ハーハッハッハ!!!」
ここぞとばかりに悪役笑いを始めた母を置いて、僕は自室にカバンを置きに行った。
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