「ねえセンセー…」
「五月蝿い子ですねえ…終業式も終わったんですから、いつまでも残ってないで帰ったらどうです」
「ねー安西先生あそびましょー?本なんか読んでないで構ってくださいよう!」
「邪魔しないで下さいな、私は今マザーグースについての論文を」
「そんなもん読まなくて良いですからー!ねー遊びましょう?ねーねーねーねーねえー!!」
「…ちっ…仕様の無い子ですねえ我侭さん?そうですねえ…校内鬼ごっこでもしましょうか」
「舌打ち…え、えと、小学校の頃よくやりましたよ。かくれんぼ混じりで楽しいですよね、校内鬼ごっこ」
「では、じゃんけんで鬼を決めましょうか」
「えー?僕逃げたいですよう。安西先生絶対捕まんないですもん」
「やれやれ。本当に我侭ですねぇ…解りました、私が鬼になりますよ」
「やたー♪じゃあ僕逃げますからー、百数えたら捕まえてくださいね」
「…ああ、そうそう高屋敷君?」
「え?」
「我が【私立挫賂眼学院高等学校】で校内鬼ごっこをやるからには、捕まったら……ふふふっ…命は、ありませんよ?
「う、うあ…うああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……!…!!





「………行きましたか。百数えたら、狩りの開始ですねえ」



――――――――――――――――――



「(あああああ…暗いよ、怖いよ…もう邪魔しませんから、殺さないで……)」



(…………ガチャ…ギイイィィィ……)


「(ヒィッ!?)」


(………コツ………コツ……コツ…コツ…)


「高屋敷君…?どこに、隠れたのですか?」
「(気…付いてな、い…?)」
「………このロッカーの中なんて…怪しいですねえ?」
「(いやああああ!!)」
「リジーボーデン。斧を手にして父さんを…(ドガン!!ガッ、ミシ…グシャン!!)…50回めった打ち。おや、ここには居ませんでしたか」
「(マザーグース!?1892年八月四日に起こった実際の事件を基にしたリジー・ボーデンの歌!怒ってる!!)」
「……はっと気付いて、今度は母さん…(ゴシャン!ボゴガカッ!!…ズガン!!)50と1回めった打ち。…おやおや、ここもハズレでしたか」
「(うそ…うそですよね?僕が居るの分かってて、怖がらせてるだけ…ですよね?)」
「さて、と。次のロッカーにいきましょうか。ねえ、高屋敷君?」
「(やっぱり気付いて…そうだよね、いつもみたいに『ははは、冗談ですよ☆』でおしまいだよね…)」

「今度は高屋敷君、ロッカーごと…」

うああああああー!(ギキィ、バタン!)
本気だ!この人本気だあああ(ガチャガチャン!!)ああああぁぁぁぁー………」






「…逃げられちゃいましたねえ……まあ良いでしょう。お楽しみが長引きましたし、ね」



――――――――――――――――――



「ハアッ…ハ…ぁ……っふあ、もー駄目もー駄目…息限界だよう……って言うかありえない。殺される、今回こそ絶対殺される。安西先生確実に殺る気の目だったし!!」




(………カツー…ン……カツー…ン…カツーン……)


「(ヒイィー!!?もう階段まで来てる!どどどどうしよ、とりあえずどっか…)(ガチャ、バタン)
…あ、保健室?そだ、ベットの上ならついたてで見えないし…」


(………コツ………コツ………コツ………コツ…)


「…今度は何処です?高屋敷君。ふふ…血の匂いがします、高屋敷君の血の匂いが……生きていようが死んでいようが、粉にしてパンに焼いてしまいましょうねぇ…?」

「(もういやあ!!しかも安西先生懐中電灯持ってるし!圧倒的に有利じゃん!!)」

「さあさあさあさあ、高屋敷君。ベットの上に居るのでしょう?君の最後の寝床を照らす案内人が蝋燭を持ってやって来ましたよ?首切り役人が、斧を持ってきましたよ?」

バレてるし!!?うあああんココもダメだー!!!」



――――――――――――――――――



「こ…ここなら…進路指導室なら逆に盲点になって……あ、ベット使ってある。そういえば先生寝てるの引きずり起こしておやつ貰ったんだった。…怒るよね、そりゃ…
えっと……ベットの下、かなあ。隠れるとこなんてここくらいしか


今のとこ廊下にも安西センセ来てないし、しばらくはここでいっかな…」





『……一人の男が死んだのさ…とってもだらしの無い男……』


「…え…?(……ま…窓、の……外?)」


『墓に入れようとしたんだが…指が何処にも見つからぬ…』


「(ま、まままままままさか)」


頭はごろんとベットの下に!!

(ガシャアアアアン!!)

うっぎゃあああああああ!!?!
「手足はバラバラ部屋中に。散らかしっぱなし出しっぱなし…と。あっはは!扉だけが侵入経路だと思いましたか高屋敷君?!」
「いやあもういやあ!もうすべてがいやああああ!!(ガチャバタン!!)」




――――――――――――――――――




「……ハァ、ハアっ…ハぁ……っもういやああ…何処に逃げればいいのかわかんないよう…走ったら足音響くし、歩いたら追いつかれるし……なんで今回こんなにサイコサスペンスなの?………(グにゅ)え?あ!?(ドサ!)っー…いったあ…なにコレ?なんか踏んだ!転んだ!!……なんだろコレ?」


(………♪今宵ーも一ー人果てーるー貴方が憎らしい♪…)


「ひあ!?!あ、安西先生の着メロ…?………でたく、ない。…けど

()

(『おやおや、存外素直に出たじゃありませんか、高屋敷君』)
「…」
(『ふふふ…本当に可愛いですねえ君は……さて、携帯を開いて明かりのあることですし、今転んだ原因をみて御覧なさい?』)
「!?!ど、どこから見てるんですか?!」
(『そんな事気にせずとも…さあ』)
「う……え………?コレ、って…うわああああああ!!?!ああ!?あああああああああああ!!!
(『ご覧の通り、君のご友人の……死体です。ふふっ』)
「うぐぁ…う……おええええ!ぐぇ、ゴホッ!おぅええええええええ!!」
(『おやおや、大丈夫ですか?高屋敷君…すみませんね、少々痛んでいますものねえ…
床に置かれた男の死体、鼻から顎に蛆虫が。蠢き回り 這いずり回る…』)
「いやあ…もうやだあ…帰して、家に帰してえ……死にたくない…死にたくないの……」
(『ああ可哀想に、高屋敷君…良い子ですから泣かないで下さいな?』)
「いやいやいや!死にたくないの!!安西先生僕死にたくないのー!!…………ねえ、先生?」
(『何ですか?高屋敷君』)
「僕も、死んだらこうなるの?」
(『ええそうですよ!そうですよ。あなたも死んだらこうなるのです』)
「うっうっ…ぐす……もう、もう…いやあ……死ぬのいやあ…」
(『可哀想にねえ…ふふ、でも高屋敷君?』)
「え?」






「もう、すぐ近くまで来ていますよ」






いやああああああ!!いやだ!いやいやいやいやいやいやいやああああああああああああ!!!!
「Who killed Cock Robin?
 誰が駒鳥殺したの?」
「来ないでください…っ!こない……で」
「それは私
 と、雀が言った…」
「殺さない…で」
「ちいさな弓矢で私が射た…」
「…や…」
「誰が君を殺したの?
 それは私。ふふっ…小さなボウガンで私が射た」
「やめっ…て…」
「泣かないで下さいな、高屋敷君…君が死ぬのは私が見て、その血を受けて、経帷子を縫いましょう。愛ゆえ深い嘆きをもって、皆のお悔やみを受けましょう。君の為に教会の鐘が鳴る時に、空行く全ての鳥たちが、一斉に溜息をついてすすり泣く様に、冷たい大理石の下にうずめましょうか?それともねずの木の下に?」
「…あ……」
「立ちなさい、高屋敷君。そしてそのままお逃げなさい」
「…っ!!…………(ガチャ…バタン!)」






「そう…そのままお逃げなさい?逃げて逃げて……高い高い所まで…」



――――――――――――――――――



「い、勢い余って屋上まで来てしまった……これは追い詰められて逃げ場がなくなるパターンじゃ…」
「……(ガシャ、ギギキキィイイィィ……ガシャン!!)…あ、いましたね高屋敷君。もう逃げ場はありませんね」
「あ…あう……安西センセ、僕十分反省しましたから…もう邪魔しませんから……だから」
「だから?」
「殺さないでほしいなー…なんて…」
「お断りです。さあ覚悟は良いですか高屋敷君」
わああやっぱり!いゃあああフェンスに押し付けないでください!や、あ、ちょ!落ちる落ちる落ちますってば!!」
「落とそうとしてるんですから当然ですねぇ」
「痛い痛い!いーたーいー!!ごめんなさいごめんなさいもうしませんから。やああ!あ、あん?!もうダメですって落ちちゃいますよお!!」
「ハンプティ・ダンプティ、塀の上。ハンプティダンプティ落っこちた…王様の家来をみんな集めても、王様の馬をみんな集めても。ハンプティ・ダンプティをもう二度と元へは戻せない…さて、高屋敷君。この【ハンプティ・ダンプティ】なる人物は一体誰でしょう?答えられたら殺しませんよ」
「え…」
「ハイ時間切れです。正解は【玉子】割れては如何なる権力を以ってしても元には戻りませんからねえ?まあそんなこと人間でも一緒ですけれどねー」
「解るわけないじゃないですかー!!」
「それは君の頭が悪いからです。それでは高屋敷君…」
「い、いや…」



「さようなら」


(ドン!!)


いぎゃあああああああぁぁぁぁぁ……ぁぁ………ぁ……………!………」



――――――――――――――――――



「…うっく……ひぐ…」
「まだ泣いてるんですか?鬱陶しい…死んでないのだから良いでしょう?」
「ふええ……いくら高飛び用マットが敷いてあっても痛いもんは痛いし。なにより屋上から突き落とされた恐怖がいまだに」
「あのまま殺しても良かったんですけれどねえ」
「うあーん!!」
「それにしても台詞と擬音だけの状況描写は非常に疲れますねえ、毎度の事ですが。読み手にちゃんと伝わっているか不安ですよ、特に立ち去る描写が…ねー」
「…読み手?」
「ああいえ、こっちの話です」
「…」
「いやあ面白かったですよ?校内鬼ごっこ。意外と隠れるのが上手でしたねえ〜高屋敷君は。小さいからですか?」
「…」
「おや、泣き止んだと思ったら今度は怒ってるんですか」
「…」
「…そうそう、もう少しで渡り廊下の改築工事が始まるんですよねえ…
ロンドン橋が落っこちる、落っこちるったら落っこちる。落っこちるったら落っこちる。マイ・フェア・レディ

…人柱が入用なのですけれど、ねえ?」
わー!怒ってない!!怒ってないですー!!」
「さて、帰りましょうか。送りますよ高屋敷君」
「はあ…もうとっとと帰らしてください…」














「安西先生…僕はあなたが嫌いです
 なぜだかさっぱり分からない
 だけども確か、まったく確か
 安西先生、僕はあなたが嫌いです」


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