カララ…



「…」
「…ん?どうしたのですか高屋敷君、顔色が良くありませんよ?」
「…」
「…本当にどうしたのです、そんなに泣きそうな顔をして…何かあったんですか?」
「……っ…」
「高屋敷君?」
う…うわああーん!安西先生安西センセぇー!!
「?!っとと…どうしたのですか?…よしよし…大丈夫、大丈夫ですよ」
「ひっく…ひっ…ひぐっ……ふえぇ〜…怖かったの…僕怖かったですよ〜……」
「…?…ああ高屋敷君、泣かなくても大丈夫ですよ。先生が傍にいるから何にも怖くありませんよ?…大丈夫、私が守ってあげますからねぇ」
「っく…ひぅ……安西先生ー…」
「抱っこしていてあげますから、怖くないですよ。さ、もう泣かないで…ね?」
「う…うん……ぐしゅっ…」
「よしよし、可哀相にねえ……何があったのか、教えてくれますか?」
「………あの……僕、さっきね…へ、変な人に……あの、触られた……」
「高屋敷君が、変質者に?」
「うん…」
「…そうだったのですか…ああ、ああ、可哀相に……怖かったでしょう?本当に可哀相です、何て許し難い!!」
「うん。…怖かったの…声とか、全然…出せなかった」
「仕方ありませんよ、びっくりしてしまったのでしょう?…大丈夫、君は何にも悪くないのですからね。悪いのは全てその欲望に奔った悪漢なんですからね?」
「うん…」
「ああ、私も悪かったのです…こんな事なら君について行けば良かった…!そうすれば君が怖い思いをする事も、汚い欲に晒される事も無かったというのに……許して下さい、高屋敷君」
「ん…良いの。心配してくれて、ありがと……もう僕、大丈夫ですよぅ」
「本当ですか?高屋敷君…君がもし男性不信にでもなってしまったら…どう責任を取れば良いのか…」
「やだなー!ホントに大丈夫だったら…センセみたいに優しい人いるの、分かってますよ♪」
「高屋敷君…君が無事で本当に、本当に良かった…」
「…うん」
「ふふふ、安心して下さいね、その下賤な馬鹿はもう二度と君に手出しは出来ませんから」
「え?」
「今頃、両手足を切断されて歯も抜かれて肉欲の捌け口としての人生、いや性欲便器としての汚物生を歩んでいるのでしょうからねぇ〜…はは、一体何処の貧民窟で無償の男娼になっていることやら!!」
「え?え?なんで?なんでそいつの事知ってるの?5分も前じゃないよ?」
「そんな事決まっているじゃありませんか、高屋敷君の事は常に監視させていますものねぇ」
「…え?」
「いえいえ、別に君の自由を奪おうと言う訳ではなくてですね?」
「あっ…ああ…そっか……あの、心配は嬉しいんですけどちょっと…やり過ぎっていうか…」
「だってほら、自分の玩具を勝手に使われるのって……殺したくなるでしょう?」
「ひ……!?」
「大丈夫ですよ、高屋敷君。君を奸な目で見るクズは、全員死よりも辛い報復でもって贖わせますからね?…その為には、朝も昼も夜も暗い所も明るい所もありとあらゆる所、布団の中まで見ていてあげますよ

…可愛い可愛い高屋敷君」
いっ…いやあああああぁぁぁぁぁーーーーーー!!?!?!!




―――――――――――――――




「ウソでしょ?!ねえウソですよね安西先生そんな事しないよねー?!!」
「ん?本気にしたんですか?」
「え」
「そんな暇が私にあると思いますか」
「そ…そう言われると…う゛ー!!なにさもう、悪趣味なウソ吐いてさ!心配なんてしてくれてなかったんですね?!もうセンセなんて嫌いですー!!」
「おやおや、また泣くのですか」
「ふあぁーん!!男性不信どころか人間不信ですー!!」
「あーあー涙でグチャグチャですよ…ほら、ハンカチを使いなさいな」
「いらないもんバカ!大っ嫌い!!」
「…やれやれ、全部が嘘と言う訳じゃありませんよ?それ位心配だったんです」
「さっきもそう言った!でもウソだったじゃんかー!!あーん!!」
「ああ煩い五月蝿い。大体君も男なら殴る位すれば良かったでしょう」
「出来なかったって言ってるでしょ!」
「常日頃から、人を殺める準備はしていませんとね」
「……え?」
「最近は物騒ですから…高屋敷君、正当防衛って知っていますか?」
「…なんで女装するの?」
「何度も刺すと殺意があったとみなされますが、一度だけならまず間違いなく、罪には問われません」
「…その、一般事務用カッターナイフは…」
「相手から襲ってきた場合…自らを守る為になら……正当に、人を殺せるのです」
「あ…安西、センセ…」
「死人に口無し。…ふふ、なんて都合の良い事でしょうねぇ…」
「先生ダメ…っ!だって、だって先生、最初から殺すつもりでそんな格好…」
「私は嘘なんて吐きませんよ?…ただ本当の事を言わないだけ……悪いのは、危害を加えてきた方でしょう?私は驚いて、怖くて、助かりたくて、刺した。殺意無く。誰もがそう言ってくれます。そして私は…否定しない」
「…」
「では、少し一人歩きをしてきます…今夜は月が奇麗ですから」
「…」
「たまには、良いものですね?正義の名の下に殺すのも」


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